16話 解けゆく蟠り
蟠りと読みます。
「と、とりあえず...座りましょうか?恵子ちゃ...いや、恵子さん」
「あ、はい!耕助さん」
僕の言葉に恵子さんは緊張した面持ちで答える。僕は
「純玲?恵子さんにも...あっ!何飲みます?」
言いかけて何が好みか分からず聞き返そうとしたら
「水でいいでしょ」「紅茶入れるね♪」「ありがと♪純玲ちゃん♪」「いいえ〜」「ちっ!」
...良く考えたら僕が死んでからも、皆生活して生きてきたんだよな...
そんな事に想いをはせていたら...
「お兄ちゃん!」「耕助さん?!」
二人に顔を覗き込まれてしまった。沙織は...渋い顔でお茶を啜ってる。
「...ごめん。なんか僕の知らない所で前より仲良くなってるなって思ったら、寂しさと...やっぱ悔しさ?みたいな感情が少しだけど芽生えちゃって...一緒に(皆の成長を)感じたかったな?なんて、ね」
僕の言葉でさっきまでの騒がしくも気の置けない空気感が、逃げてしまった。
「...さっきのパンツ履かないヤツって、また沙織...脱いだの?」
突然恵子さんがおかしな事を言い出した。
「はっ?」「えっ?」「......恵子、アンタねぇ...」
どうやら沙織には思い当たる節があるようで、思わず身構えると恵子さんは
「病院の時みたいにまた盛ったの?看護婦さんの次は自分の妹の前で(パンツ)下ろしたの?!」
「するかぁ〜!?」「中身は耕助さんでも身体は三歳君よ?遺伝子が「だからしてないってば!」ホントに?」
......はぁはぁ......ぜぇぜぇ......
「どゆ事?」「さぁ?」
二人の舌戦に付いていけなくて純玲を見たが、同じく分からないようだ。
そんな私たちのやり取りを見て、恵子さんが言った言葉に僕と純玲は
「アホな事すんなよ!!!」
思わず絶叫した。沙織は僕が寝たきりの時に、【致そうと...】してた所を恵子さんに見られ...騒ぎを聞きつけた看護婦さんにしこたま怒られたそうだ。
「まさかそんな昔のことで...」「顔から火が出そう」
本気で顔を赤くする僕と純玲、ソファーに顔を埋め「今ココで(黒歴史)掘り起こさんでもええやん」と突っ伏す沙織を見て恵子さんは
「...!あはっ!?あはははははっ…!?くぅぅっ!!!」
堪えきれずに声を出して笑った。その屈託のない、あの頃と変わらぬ恵子さんの笑い方を見て僕は...
「ふっ...ははっ...ははははは!!!」
一緒に笑ってしまった。純玲はまだ姉の奇行がショックなのか、何とも言えない顔で三人を見比べ...
当の沙織は「笑わんといてよぅ...」小声で抗議した。
「ありがとう恵子さん。悪くなった空気を良くしようとしてくれたんだね」
「気にしないで耕助さん。どちらにしろキッカケがないと何処かでギクシャクしてただろうし」
「チョイスが悪い。代わりに私のイメージが悪くなった」
僕と恵子さんのやり取りに沙織が割って入るも
「「「あんま変わってないから大丈夫」」」
三人にぶった斬られる。「ひどいよ?ねぇ?ひどいんだよ?それ」
「お姉ちゃんの自業自得じゃない」純玲の正論に三人で笑う。
「そんな事より!どうして健康診断受けなかったの?」
沙織の言葉に僕は
「無理やり話題を変えてきたな」
「...そんな事より?!どうして健康診断受けへんかったの!?」
動揺して関西弁が混じるも、眼は真剣になっていて...他の二人も眼が、聞きたそうにしていた...
「...ごめん...油断して...気付いた時には...手遅れだったんだ」
「「「............「続けてよ...耕にぃ...」...」」
沙織の言葉に、僕は自分の事なのに...他人事のように淡々と...懺悔した。
医者の「30歳を過ぎた頃に発症する」と言った事を鵜呑みにし...
仕事は安い正社員から残業や掛け持ちの出来る派遣に切り替え、季節労働者みたいな事をしてたり...
たまたま健康診断してくれた派遣先で知った、既に肝炎を引き起こしている事実と...到底払えない医療費...
まだ肝臓の再生力が勝っているが、そのうち(肝硬変や肝癌に)と言う医者の言葉に...
せめて沙織が卒業してから打ち明け、協力してもらおうと考えていた事...
でも、限界は思っていたより数年早く訪れ...
ここまでの話を聞いて沙織は...!!!
「馬鹿なの?!そんなん気にせんでええから、相談してくれたらええやんか?!」
「でも「でもちゃうわ!義務教育は中学で終わり!!私も働いて、純玲の面倒くらい一緒に見れたわ!実際耕にぃが死んでから、ウチはバイトして生活費とか稼いでたし!耕にぃが生きててくれた方が楽やし幸せやったわ!!!」...沙織」
止め処無く流れ落ちる涙が床を濡らす。僕は立ち上がり沙織に深く頭を下げ
「ごめん」と短く謝る。が...
「謝って欲しない...謝って欲しないねん!一緒に暮らしたかってん!!一緒に生きたかってん!!!でもウチには純玲も...純玲が...」
沙織の言葉が突き刺さる。悲痛な想いが...(僕の)口を重くする。
喘ぐように言葉を紡ごうとしても、口が動かない...
空を切るように沙織に手を伸ばすも、沙織は両手で自分を抱きしめるようにイヤイヤしながら後退る。そんな僕の手を、誰かが両手で包み込み自分の頬に当てる。
「そうなってたら...私が純玲ちゃんのお迎えとか、小学校の学童にも顔出して♪耕助さんのお嫁さんは私だったかも♪」
「け、恵子さん?」泣いてた事さえ忘れ、涙が止まる程驚く僕より...
「アンタ結婚して浩之も居るでしょうが!何言ってんの?!」
沙織も驚きすぎて涙が止まったようだ。それでも恵子さんはまだ続ける。
「例え話じゃない?妄想くらいいいでしょ?耕助さんの事好き過ぎて、思わず子どもに『こうすけ』って付けたくなるくらい、ね♪」
何故かこの時純玲が「えっ!?」と驚くが...
「アンタ...旦那さんに悪いとか、愛情って無いの?」
「あるに決まってるじゃない!初恋の話をしているの!」
二人は不毛な言い合いを続けていた。が、ここで僕は二人の間に割って入り
「ありがとう。恵子さんのお陰で...助かりました」
頭を下げた。恵子さんは何故か少し照れながら
「私こそ...どさくさ紛れで、初恋を告白して...ごめんなさい」
そんな僕たちを見て沙織は
「私が悪者みたいやんか...」
ボソッと零す。僕は沙織を正面から抱きしめ頭を撫でながら
「ごめん」と謝り、沙織も頷きながら「うん」と答え...また啜り泣いた。
コレで沙織と耕助の伏線は(今ある分は)全て回収出来た筈...
読んで頂きありがとうございます(╹▽╹)
☆☆☆☆☆評価…可能であれば…
リアクション……お気軽にして頂だけたら幸いです♪
感想、レビュー…ハードル高いと思いますが頂だけたら嬉しいです(≧▽≦)b"




