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ゲーム開始前に死ぬモブ悪役皇子に転生した俺~推しヒロインの妹と幸せになるために最弱魔法【闇刃】を過剰な努力で極め抜いたら、最強のぶっ壊れ性能と化していた件〜  作者: こはるんるん
2章。第4皇子との帝位継承争いに勝利する

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20話。モブ皇子、Sランク冒険者に忠誠を誓われる

 俺は人目に付かない牢獄塔の中で、ガイン師匠に剣の稽古を付けてもらっていた。


 試合形式で、剣を打ち合う。


 ガイン師匠が手にしているのは刃の無い木剣だが、俺の得物は攻撃力をゼロにした【闇刃】(ダークエッジ)だ。


 もはやガイン師匠に対して、俺の力を隠しておく必要は無い。

 俺が本来やりたかった【闇刃】(ダークエッジ)を使った剣の修行ができるようになっていた。


 俺は果敢にガイン師匠に斬撃を浴びせる。


「やる……! だが、まだ甘いな」


 ガイン師匠はいとも簡単に、俺の猛攻を受け止める。

 やはり、純粋な剣技では、まだまだ師匠にはかないそうにない。


 だが、俺の本質は魔剣使いだ。


 師匠が俺の剣をバックステップで回避しようとした瞬間、俺は【闇刃】(ダークエッジ)の刀身を伸ばして追撃を仕掛けた。


 身体の一部がごとく【闇刃】(ダークエッジ)を自在に操れる俺だからこそできる技だ。


「おっ!?」


 師匠は無理矢理、身体を仰け反らせて攻撃を躱す。

 だが、そのおかげで、体勢が致命的に崩れた。


「今だ!」


 その隙を見逃さず、俺は間合いを詰めてトドメの一撃を打ち下ろした。

 しかし、師匠はギリギリ木剣で受けて、腕力に物を言わせて押し返してきた。力比べなら、子供の俺が圧倒的に不利だ。


「ふん!」


 師匠は力技で俺の体勢を崩すと、斬撃を叩き込んできた。


「ハリネズミモード!」


 俺は全身からハリネズミのごとく無数の【闇刃】(ダークエッジ)を出現させた。

 攻守一体の切り札だ。


 師匠の剣を防ぐと同時に、その身に刃を僅かに届かせる。


「一本! ルークお兄様の勝ちです!」


 審判役のディアナがうれしそうに叫んだ。


「いや、ちょっと待て、ディアナ。今のは、かすった程度だぞ!?」

「見苦しいですよ、たんぽぽ先生。お兄様の【ヒュプノスの魔剣】なら、その時点で勝負有りです」

「ぐっ……まぁ、その通りだが」


 師匠はしぶしぶといった様子で、負けを認める。

 

「ふぅ……変幻自在、神出鬼没の【闇刃】(ダークエッジ)か。間合いが読めないとは、剣士泣かせの武器だぜ」

「ありがとうございます。ガイン師匠に通じるなら、実戦で十分使っていけそうですね」


 剣術とは、突き詰めれば先の読み合いであり、これを狂わせることができれば、達人級の敵にも攻撃が届く。


 実際に通用するか、素のガイン師匠相手に試してみたが、見事、出し抜くことができた。


「それに崩しが無意味とはな。ハリネズミモードか? 今のをされたら、たいていの剣士は対応できずに負けるだろうさ」

「つまり、ルークお兄様は最強の魔法使いにして、最強の剣士という訳ですね。ディアは鼻が高いです!」


 ディアナは、エヘンと胸を張り、我がことのように喜んでいた。


「まっ、お姫様の言う通りだな。悔しいけどよ」


 ガイン師匠は肩を竦める。


「この上で、【ヒュプノスの魔剣】やら、【魔断剣】(ディスペル・ソード)やら使われたら、一対一で勝てる人間なんざ、まずいないと思うぜ。特にあの死の魔剣は……」

「だけど、俺は剣士としては、まだまだガイン師匠に及びません。なんとか1年後までに、剣士として完成された強さを手に入れないと……」


「おいおい、1年やそこらで剣を極めるなんざ、いくらなんでも無理ってもんだぞ。いったい何をそんなに焦っているんだ?」


 ガイン師匠が不思議そうに尋ねてきた。


「それは……」


 俺が焦りを感じているのは、今回の事件を通して、サン・ジェルマンの強さを間接的に理解したからだ。


 1000年を生きる奴の強さは、弟子のザイラスより格段に上であり、おそらく今の俺では勝つのは難しいだろう。


 俺は母さんを暗殺する実行犯は、あのサン・ジェルマンではないかと考えていた。

 その理由はふたつ。


 ひとつは、サン・ジェルマンは帝国内部の敵を始末する役目を負っていること。

 これは皇帝がルートヴィヒ公爵家の者を全滅させろとサン・ジェルマンに命じ、奴が事も無げに承諾したことから、わかった。


 もうひとつは、不老不死である筈の奴が、ゲーム本編には登場していないからだ。

 

 サン・ジェルマンが誰かに殺されたのだとしたら、それを成せるのは、実力的に魔王ディアナしか有り得ない。

 真っ先に復讐すべき対象として、ディアナに認識されていたと考えるべきだろう。


「……前にも言いましたが、俺たち親子は敵に囲まれているからですよ。敵は俺が強くなるまで、待ってはくれませんからね」


 だが、さすがに、1年後に皇帝がサン・ジェルマンに指示して母さんの命を狙いに来る、とは言えなかった。


 俺の憶測も混じっているし、根拠はゲーム知識だからな。なにより、万が一にも他人に聞かれるようなことがあっては、俺が皇帝に叛意を抱いてると思われる。

  

「ガイン師匠、【冥界落とし】(タナトス)を皇帝に献上した報奨として、後宮にあるカミラ皇妃の財産を与えられました。このお金で、師匠を雇うので、母さんのボディーガードになっていただけませんか?」


 俺は師匠に申し出た。

 未来を変えるために、もうひとつ重要なのが、強力な味方を増やすことだ。


 ザイラスに勝てたのも、ガイン師匠と協力し合ったからだしな。


「なんだよ、水臭い。金なんぞ貰わなくても、俺は最初から、そのつもりだ。ルークは俺とレナの命の恩人だからな。お前たちの命を狙う敵がいるなら、ソイツは俺の敵だ」

「えっ……?」

「なにより、俺はルークに皇帝になってもらいたいからな」


 意外な言葉に俺は面食らう。


「今回の件で、第4皇子のヴィクターは失脚した。この調子で上を追い落としていけば、ルークが皇帝になることも決して夢じゃないだろ?」

「お兄様が皇帝に! それは素敵なことですね!」


 ディアナが両手を合わせて、夢見るように叫ぶ。


「そうだろう、ディアナ。ルークが皇帝になれば、戦争ばかり繰り返すこの国も、まともな国になるだろうさ。少なくとも、民を人体実験に使うような腐った貴族のいない国にな」


 ……皇帝を目指す。それは以前から多少、考えていたことだった。


 俺が皇帝になれば、母さんやディアナを傷つける者はこの国からいなくなる。


 成長したらふたりを連れて、宮廷から脱出することも考えていたが、そんなことをすれば裏切り者として帝国から敵視され、一生付け狙われることになるだろう。


 それでは駄目だ。

 それでは、母さんとディアナを幸せにできない。


 ふたりのことを第一に考えるなら、俺が権力の座につくこと──最終的には皇帝になるのが一番だ。

 俺がすべてを支配し、あらゆる危険と敵から大切な母さんとディアナを守り抜くんだ。


「俺は母さんの血を引いていますから、困難な道になるでしょうけど……それでも俺について来てくれますか、ガイン師匠」


 俺は帝位継承順位から程遠いところにいるが、幸いなことに、今は戦国の動乱期だ。


 地球の歴史を紐解くと、このような時代には、豊臣秀吉やナポレオンのように、一兵卒でありながら戦争で大手柄を立てて、天下を取った人間は枚挙にいとまがない。

 

 俺にも皇帝になるチャンスが十分あると言えた。


 なにより、今回、不完全版【冥界落とし】(タナトス)の研究資料を献上して、皇帝からの覚えも良くなったからな。


 人を昏睡状態にさせる魔法だ、帝国軍の強化に大いに役立つと、皇帝とサン・ジェルマンは喜んでいた。


 ……本当は人を即死させる魔法なんだが、真実は開発者のザイラスと共に永遠に闇の中だ。


 この手柄を足掛かりにすれば、やがて戦争で活躍する機会も巡ってくるだろう。


「もちろんだ」


 ガイン師匠は俺の前に、ひざまずいた。


「俺はこれから、ルーク……いや、ルーク皇子殿下に忠誠を誓う。この俺の力を好きに使ってくれ!」


 こうして俺は、俺に忠誠を誓う家臣を初めて手に入れたのだった。

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