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90.見知らぬ間に

 門が開き、ブランデンブルク軍はヨハネ騎士団の本拠地へと入る。城壁の内側は武人だけではなく、多くの身分の人々がいた。防衛戦をしていたとは思えないほど街は整備されていた。



 俺たちはヨハネ騎士団の根城及び病院へと案内された。神聖帝国の人間に加え、東方民族側の人間にまで医療を施してあった。戦闘員ではなさそうだが、怪我人は等しく扱っていることに俺は驚いた。


 最上階の部屋に、俺とサラが案内された。トロイエやブランデンブルク軍は待機だ。俺たちは居心地の悪さを感じながら、病院を進んでいく。


 その部屋には、知っている顔があった。


「やあ」

 現在神聖帝国で最も位が高い男、オルダージュ・ブランデーだ。


「どうしたんだ、それ」

 俺は再会を懐かしむより先に、疑問を投げた。

「はは、情けないよね」

 彼の身体には包帯がぐるぐる巻きにされていた。


「大丈夫__なのか?」

「平気だよ。身体には欠損はない。まあ傷が多いから禁忌の力をもってしても回復には時間がかかるだろうね」

 彼は自嘲気味に言った。



「まあ。その話はあとでするとして。君も随分変わったね」

 彼は俺の目をじっと見て言った。

「そんなつもりはないけど」

 俺は首を傾げる。


「いいや、変わったね。大きなものを背負っている。そんな表情だ」

 彼は白い歯を見せて笑った。自覚はないが、悪い気はしない。


「そういえば、アマレットは?」

 俺は周りを見渡すが、妹がいない。最上階に上がる際にも見かけなかった。


「アマ__いや彼女は城外でいろいろ仕事をしているよ。まあ少ししたら帰ってくるさ」

 今、妹のことを名前で呼ぼうとしなかったか?


「おい親友。お前、妹に手を出さないって約束、覚えているよな?」

 そう言うと、親友は目を逸らした。

「うん、もちろんだよ。僕からは手を出していない。”僕”からは」

 彼は唇を尖らし、目を背ける。アマレットがこの男にぞっこんだと言う話は母から聞いていたものの、質の悪い冗談だと思っていた。あんなお兄ちゃんのことが好きだったアマレットが、他の男なんかに__



「怪我人だからって、容赦はしねえぞ?」

 俺は魔力を放出し、ゆっくりと詰め寄る。しかし、俺の背後から俺の足を奇麗に蹴り飛ばしたものがいる__サラだ。俺は地面に倒れる。


「大人げないですよ。バランタイン様」

 見上げて、彼女の表情に恐れをなす。

「すいません」

 彼女の怒りを買うことは、他の何よりも避けるべきことだ。



「オルはもう一つの約束はちゃんと守ってくれたわ」

 俺の背後から声がする。天使の声だ。


 俺は立ち上がって、声の主を見る。そこにはすらっと身長が伸び、髪を短く切りそろえた俺の妹がいた。見た目は相変わらず美人そのものだが、多少の山場を経験したようで、大人びて見えた。いや、母に似てきたのかもしれない。

「久しぶり。お兄ちゃん。サラお姉ちゃんも」


 アマレットは俺たちに目を合わせ、オルダージュの方へと歩いて行く。

「ご飯持ってきた、食べて」


 アマレットはお粥のような何かをすくい取り、病人の口へ運ぶ。

「アマレット。いいって、自分で食べれるから」

「だめ。いつも食べなさすぎ」


 半ば強引に、妹は友人の口に食事を詰め込んだ。状況が状況なので仕方がないと言えばそれまでなのだが、友人と妹がいちゃつくのを見るのは少し、恥ずかしいと言う感情を持つ。


「それで、その傷はどうしたんだ」

 二人の世界を邪魔するのは申し訳ないとは思いつつも、俺は本題へと移った。


「不意打ちを食らった」

 オルダージュは粥の咀嚼の合間を縫って答えた。


「マインツ選帝侯?」

 俺が尋ねると、彼は親指を突き立てた。口にはまだ食事が押し込まれ続けている。彼は一旦アマレットを制止し、粥を呑み込み、口の周りを手で拭う。


「アッディーンとかいうやつが聖都を陥落させたという知らせを受けて、僕は一人で聖都に急いだ。だけど、そこはもぬけの殻だったんだ。そしてその帰り道、ファルツ選帝侯の奇襲を受けてね。いやあ、あいつは強いよ。だけどまあ一対一なら負けない。そう思っていたんだけど、マインツ選帝侯に挟み撃ちにされちゃってね。死にはしなかったけど、このざまだよ」

 彼が話し終えると、アマレットはまた粥を口に詰め込み始めた。


「アッディーンという存在は、あなたをおびき出すためにマインツ選帝侯とファルツ選帝侯がまいた餌という訳であり、そんな人物はいないという訳ですか」

 サラが要約する。彼はまた親指を立てる。



「そして、この人の動きを止め、衰えた皇帝をファルツ選帝侯が暗殺した」

 アマレットが呟いた。


「君は皇帝に”させられた”わけだ」

 俺はすこし皮肉めいて言った。粥を食べ終えると、彼は話し始めた。



「そういうこと。そして今度こそ僕を殺し、国王も皇帝の座も空いたところに、ファルツ選帝侯が座るつもりだ」

 彼はさらりと言った。

「そうはさせない」


 俺が言うと、彼も頷いた。

「だから、君に矢ふみを送ったんだ。僕一人じゃ厳しいけど、君がいれば返り討ちにできる」

皇帝は立ち上がり、俺の手を握っていった。



「来てくれてありがとう。奴らを返り討ちにして、気楽に生きることができる帝国を作ろう」




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