84.忠誠
「すげえな。これ」
目の前では、板金鎧を装備したブランデンブルク軍が行進している。今日はトロイエの仕事のお披露目だ。以前からブランデンブルク軍は高い忠誠心と、連携を誇っていた。だがトロイエが組織したこの軍はより屈強で、一糸乱れぬ行進を行っていた。
「さすがに大変だったっすよ。脳がパンクしそうでした」
トロイエは肩をすくめる。
「そうだろうな」
適材適所に人員を配置することは、正解のないパズルのようなものだ。
「兄貴と姉御がいなかったら、こんな早くは出来なかったすよ。あざっす」
「俺はあんまり関わってなかったからさ。お礼はサラに言って」
俺はかぶりを振り、サラへ促す。
「姉御呼びはやめなさいって言ったのに__。でもトロイエ、本当によくやったわ。これはあなたの功績。ありがとう」
トロイエはほとんど毎日サラに稽古をつけられていた。知らず知らずのうちにサラは姉御と呼ばれるようになっていた。
「自分なんて、名前を覚えるくらいしかしてないすけどね!」
トロイエは恥ずかしそうに頭を掻いた。それがすごいんだ。トロイエは再整備されたブランデンブルク軍、約3000人の名前、家族構成や好物を覚えている。
こいつもまた、天才だ。こんなに味方にいて心強い男はいない。
ブランデンブルク軍は俺たちの前に整列した。
「兄貴、お言葉を」
トロイエが珍しく、畏まったように言った。皆が俺に注目する。
「僕__いや俺は、このブランデンブルクに生まれ、ここで生きてきた。この地を愛している!俺はこの地を未来永劫平和であるために尽力する。神のためでも帝国のためでもない。自分が愛する人々のため、我らは戦う。ブランデンブルクに光あれ!」
大きく拳を掲げる。巨大な歓声が上がる。
「あなたの軍です。兄貴」
トロイエの言葉に驚く。
「俺の?」
これはブランデンブルク軍、つまりは父のものだ。不敬ともとれる発言に俺は眉をひそめる。
「この軍は森の民を滅ぼした兄貴に忠誠を誓ってるっす。だからあなたの軍っす」
俺は困惑してサラを見た。サラもトロイエに同調するように頷く。
「あなたの歩んできた道です。バランタイン様」
彼女は片膝をつき、うつむく。それを見たトロイエ及び、ブランデンブルク軍もまた同じ姿勢をとる。驚いたのは、この行進を見ていた民衆ですらも、同じ姿勢を取ったことだ。
気楽に生きるつもりが、随分と大物になってしまったな。だけど、こうして俺のやってきたことが認められたことは、誇らしかった。
この地を、この人々を守ることが俺の仕事だ。両親が愛したこの地を、未来まで繋いでいかなければならない。強く、心に誓った。
式を終え、皆が解散しようとすると、南東より矢文が飛来する。例のごとく魔力を帯びている。何事かと思い、空中に飛んでそれを開き、読む。
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バランタインへ
聖都陥落。前皇帝崩御。
君の助けがいる。
皇帝 オルダージュ・ブランデーより
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着地をして、サラに手紙を渡す。彼女の表情が変わり、無言でトロイエに手渡す。サラはトロイエに目配せをして、トロイエは頷く。
トロイエは号令をかけた。
「全軍!バランタイン様の友人が救援を要請している!直ちに身支度を整え、今日中に出立する!」
『はっ!』
俺とサラもブランデンブルク城に戻り、遠征の準備をする。何があったのか分からない。だが、あの国王が、いやもう皇帝か。いずれにせよ彼が助けを求めている。事態が大きく動く、直感がそう言っている。束の間の平穏は終焉だ。
アマレット__彼女の身に何もないといいが。両親も大丈夫だろうか。
不安を抱えたまま、俺達はあの場所へと戻っていった。
第五章 森の民編 完




