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83.束の間の平穏

 さて、俺達はキャスを失った悲しみを受け入れ、束の間の平穏を味わっていた。あれから数年経過し、俺の身長と年齢のアンバランスさはなくなってきた。年齢は15歳。サラの年齢は__女性だから言わないでおこう。

 彼女は隣のザクセン選帝侯から、騎士として正式に叙任を受けた。実力はもともと折り紙つきだったため、誰も何も言わなかった。成人式のようなものだ。



 サラはキャスの剣をそのまま自分の鞘にしまった。俺は彼女の訓練に付き合っている。


「やはり、なかなか慣れません」

「それで慣れてないんだ」

 俺は彼女の訓練中、何度も死んだのではないかと思う場面があった。機敏な彼女にとって、レイピアは相性が良い。一気に距離を詰め、急所をひと突き。敵になったらこれほど怖い存在はない。


「しかし、バランタイン様はまたお強くなりましたね。国王様にも匹敵するのではないでしょうか」

 あの日以来、確かに俺は戦闘において落ち着きを持つようになった。今までは人を殺すのを躊躇っていたり、なぜ戦うのだと自問していたりと精神面が戦闘の妨げになっていた。それが今は一切ない。


「ま、一応皇帝を目指しているから」

 この一件で、俺は人々が俺をどう見ているか分かった。領主として見られているのは、俺が何をしたかだ。俺の人間性は、俺の行動を通して見ているわけだ。森の民を殲滅すれば英雄。俺が忌み子だとかそんなものはどうでもいい、やったことでしか、民衆は俺のことを評価しない。


 でも、俺を人間としてくれている存在が数人いる。サラや家族、国王もそうか。あと、俺を兄貴兄貴というトロイエか。あいつは、少し俺を過大評価している気がするが。






 森の民の脅威がなくなったブランデンブルクでは、良好な気候ということもあり、豊作で人口も急激に増加。神聖帝国は人口問題に直面していた。


「兄貴。ラムファード家の方々はいつ帰ってくるんすか?」

「さあな。向こうの情報はなかなか入ってこないから」

 昼下がり、俺とトロイエは寝転がっていた。人望があるこいつには、ブランデンブルク軍の軍団長という称号を与えた。すると志願者はどんどん集まり、人口の増加も相まって、ブランデンブルク軍はかつての規模に戻っていた。


 向こうでテンプル騎士団とヨハネ騎士団が幅を利かせているという話は聞いたことがある。テンプル騎士団は両親が運営していると分かっていたため驚きはないが、ヨハネ騎士団は何とアマレットが運営しているそうだ!

 あの母あってのアマレットだ。血は争えないな。


「寂しくないんすか?」

「まあ、そろそろ会いたいな。結婚したいし」


 サラと俺はほぼ結婚していると言っても過言ではないが、一応両親に許可を取らないといけない。一応、領主の子息と使用人という関係だし。筋は通さねば。


「子供は作るんすか?」

「お前、ぶっこむなあ」

 ちょっとノンデリだが、こいつは悪意を持って話すということを知らないので嫌な気持ちはしない。


「さーせん」

 彼は軽く謝罪した。

「ま、もちろん欲しいよ。でもサラが妊娠したら戦力的にも大打撃だし、安易には作れないなあ」

 力はこの世界にとって最も重要なステータスだ。


「大丈夫っすよ。おいらがちゃんと軍を従えるんで!」

 彼は胸を叩いた。実際、こいつがいれば大抵の紛争、反乱は収められる。最もブランデンブルクでは俺が生まれてから一度も反乱などないのだが。


「おう、頼りにしてる。頑張ってサラに勝てるようになれよ」

「うっす!いずれバランタイン様も超えて見せます!」

 トロイエは力こぶを見せた。


「私が__あなたに?」

 トロイエは素早く立ち上がり、直立不動となる。


「随分舐められたものですね」

 サラは静かにトロイエに言った。


「いえ、あの、心意気の話で__」

 普段軽いトロイエの声が震える。


「騎士が言い訳しない!剣を抜きなさい。今勝負よ」

「は、はい!」

 トロイエとサラは剣を抜き、模擬戦を行った。



「ひょえ~。やっぱ強い」

 トロイエは地面にひっくり返っていた。俺はそれを見て笑う。


「おいおい頼むよトロイエ。これじゃ子供なんて夢のまた夢だぜ」

「子供?」


 サラが興味深そうに繰り返す。

「そう。結婚してサラが妊娠したら戦力がかなり落ちるでしょ?だからトロイエに強くなってもらおうって話をしていたんだよ」


「子供__」

 サラはその言葉を繰り返す。顔は赤い。



「トロイエ!立ちなさい!今日はみっちり稽古をつけて差し上げます!」

「ひょえ~」

 その後サラとトロイエは何度も何度も模擬戦を行い、そのたびにトロイエは地面に突き刺さっていた。


 なんだか__キャスおばさんに似て来たな。俺は心の中でそう思った。







 

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