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54.濫觴

「まて、落ち着いて話せ。お二方も申し訳ないが同席を」

教皇は俺達を引き留め、使者に水を飲ませた。


使者はゆっくりと話した。

「先日、アナトリアにてギリシア帝国と東方民族との間で大規模な戦闘がありました。ギリシア帝国は度重なる戦闘により消耗しておりました。隊列は組めず、東方民族の騎馬集団によってことごとく殲滅させられました。現状はギリシア帝国の領土まで攻め込まれてはいないものの、聖地は敵の手に渡りギリシア帝国はその地位を脅かされつつあります」


「なんたること」

教皇は顔を手で覆った。




「お主はどう思われる、国王」

教皇は政治上の立場から、国王に意見を募った。

「そうですね、ギリシア帝国は安全保障上の要、陥落した場合ラテン諸国の危機と言えます。皇帝も同意見でしょう」

国王は毅然と返答した。



「教会としても同意見だ。ギリシア帝国の教会と我らは良好とは言えないが、それでも同一の神を信仰する者たちが敗走していく様は見ていられない」

結論は概ね決まっているようだ。



「それでは、救援要請は__?」

落ち着いた使者がへりくだりながら尋ねる。

「ああ、受諾しよう」

教皇が答える。

「世俗としても同意です」


「はっ」

そう言うと使者はまた外へと走り出していく。





「これから忙しくなるよ」

国王が俺に伝える。

「するのか。戦争を」

俺は尋ねる。


「ああ、しかも教会と世俗の両方から支持された戦争だ。かなりの金と人が動くだろうね」

国王は肯定した。しかも心なしか楽しそうだ。

「教皇、この戦争、教会としてはどこまで支持しますか?」

「聖地奪還だ」

「了解しました。では」


それだけ言い、俺達は聖堂を去っていった。宿に着くなり、俺達は荷物をまとめ、そそくさと帰っていく。

「この後はどうする」

俺は国王に尋ねる。

「まず父上__皇帝にこの事態を報告する。皇帝は勅書を出して選帝侯を集め、話し合いを行う。どれだけの規模の軍を出すか、金は誰がどれくらい出すか、土地を手に入れた場合の分け前はどうするか、みたいなことをね。君のお父さんも出席するはず」

国王は楽しいイベントのように話す。それを聞くサラやキャスも嫌な顔をしていない。


「大体のことが決まったら僕たちは東に出征する。今回は教会の後押しもあるだろうし、それなりの人数が見込めると思うよ」

国王はまくしたてるようにしゃべる。


「君も来るよね?」

国王が俺に尋ねる。

「えっ、さあ。僕の一存ではなんとも」


「どうしてですかバランタイン様、騎士としての威厳を示せるチャンスなのですよ?」

サラが疑問そうに尋ねる。国王も続く。

「変わってるね、バランタインは。農民でも無理やり付いてくる人もいるのに」


「そうなのか」

戦争という言葉に拒否反応が出るのは、前世の教育によるものだろうか。なぜ命の危機を犯してまで戦いに出たいのか理解できない。


「まあ、バランタインそこまで戦い好きじゃないもんね。でも戦争はお金もたくさん動く。聖地を奪還したら多くの帝国民だけじゃなく、隣国からもたくさんの巡礼者が訪れる。お金を稼ぐっていう面でも戦争は有益だよ」


「誰も死なないなら別にいいのですけれど」

そう言うと馬車にいる面々はくすくすと笑った。

「心配性だなあ。大丈夫。帝国が負けることはないよ」

「なぜ、そう言い切れるの?」


国王は自らを指さした。

「僕がいる。それに選帝侯も。君だっている」

シンプルな理由だった。


「帝国が帝国である理由。それは単純に強いからだよ。交易と金でのし上がったギリシア帝国みたいな偽物とは違う、本物の帝国だよ」

まあ実際父やザクセン選帝侯、フランチェスコのような人間が最低でも7人いることを踏まえると、戦力としては十二分だ。しかし、どうしても不安は拭えない。



「そうだ、君も選帝侯の話し合いに参加する?」

「えっ?」


「選帝侯らが話し合うときは、選帝侯に加えてもう1人出席することが出来るんだ」

「でも、ブランデンブルク選帝侯はおそらく母と出席すると思われますが」

 選帝侯の父。政治力に長けた母。俺の入り込む余白などない。


「そっちじゃないよ」

ではザクセン選帝侯か?いや、おそらくザクセンはマスクを連れてくるだろう。

「わからない」

俺はかぶりを振った。


「ぼーく」

国王は自身を指さした。

「あっ」


忘れていた、国王もまた選帝侯だ。

「投票で国王になっただけで、国王と選帝侯は兼任なんだよ」


「でも、他に誰かいたんじゃないの??」

「いないこともないけど、別に誰でも変わらないかな」

国王は首を傾け、腕を開いた。


「どうするの?」

「参加する」

即答だった。


「よし、じゃあそうしようか」

「羨ましいです」

サラが頬を膨らませている。この会議に参加することは騎士にとっての誇りなのだろう。ただ俺は名誉のためではなく、警戒心から参加することに決めたのだ。父と肩を並べる選帝侯達、それがどんな人間なのかこの目で見ておきたい。




馬車はローマから発った。



神聖帝国 七選帝侯の人名



・マインツ:スープラ・トヨタ


・トリーア:スカイライン・ニッサン


・ケルン:ロードスター・マツダ


・ファルツ:アストン・マーチン


・ザクセン:ソナ・ペル


・ベーメン:オルタージュ・ブランデー(国王)


・ブランデンブルク:コルネオーネ・ラムファード(父)

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