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53.疑問を残して

「おうええええ」

 国王の背中をさすりながら彼の嘔吐の音を聞く。

「もう、酒なんて、飲まない__」

 国王が言う。


「一国の王が情けないこと言うな。数時間もすれば治る」

「だといいけど。うっ、ごぼおお」


「ブランデー家のこと、教皇から聞いた」

「どのこと?」


「跡取り問題と禁忌の力」

 インセスト(近親相姦)という言葉は避けた。

「気持ち悪いと思った?」


「いや、別に。国王みたいに魔力を使えるんだったら、まあ理解は出来るかな」

 それほどまでに国王の武力は異次元なのだ。

「まあ、跡取りの問題は、力を得てきたツケってところだね」

 国王は吐きながら答える。



 その時、俺は気づいた。俺にはなぜ魔力が備わっているんだ。皇帝一族でもない俺がなんでこの力を_?どうして昨日気づかなかったのだろう。あまりにも恐ろしい事実の可能性に。


 俺の背中をさする手はいつの間にか震えていた。そして先ほどは持たなかった強烈な嫌悪感が、俺の胃の内容物を上げてくる。

「国王、ごめん」

 俺は国王を押しのけ、同じ場所に吐いた。


「はっ、もらいゲロってやつかな。これでバランタインも仲間__って、顔どうしたの?真っ青だよ。キャス!サラさん!誰か!」

 国王は大声を上げた。呼ばれた2人が駆けつける。


「バランタイン様、大丈夫ですか?」

 汚れた俺をサラは気にすることなく抱いた。寒気で鳥肌立った俺の身体が徐々に落ち着きを取り戻してきているのが分かる。


「もう大丈夫__ありがとう」

 俺はサラから離れた。

「何かあったんですか?」

 キャスが心配そうに尋ねるが、俺は首を振った。

「平気_何もないよ」

 俺は無理やり笑った。


「バランタイン様、こういう時は口に出してしまった方が_」

「サラ、今は抑えなさい」

 キャスがサラを制止する。


 俺は水を流し込んだ。しかし、俺の疑問は水に流せそうになかった。





 国王一行は疫病の問題を教会に一任する。我々はローマを去る。挨拶のため我々は再度大聖堂を訪れた。代表者として俺と国王が謁見する。教皇はすぐに表れた。


「おや、お二方随分顔色が悪いようで。二日酔いですか?」

「ええ、当分酒は飲みたくないものです」

 国王が言った。教皇は笑って答える。

「最初はそういう物ですよ。限度が分かったのなら次はそれ以上飲まなければいい。早いうちに限度を知れて幸運ですよ」

 前世の上司のようなアドバイスを教皇がする。


「さて、あなた方には大変お世話になりました。疫病への御尽力、教会を代表して感謝申し上げます。何かお礼をしたいのですが、いかがですか」

 国王が前に出て答える。

「こちらこそありがとうございました。そちらの寛大な対応に頭が上がりません。今回の件では、友人のバランタイン・ラムファードが最も貢献したと言えますので、お礼は是非こちらに」

 国王は俺を立てた。


「ではバランタイン殿、何かご要望は?」

 俺は数秒思考する。当初の目的であった常備軍の設置に関する資金提供は、国王が予定通り行ってくれるため教会に頼む必要はない。今後のラムファード家のために必要なことは___


「では利息を取ることを許して頂きたい」

 今後のブランデンブルクの繁栄を考えるとまだまだ資金不足だ。ベンチャー企業のように借り入れを増やし、勢力拡大に努めなければならない。利息があれば借り入れは容易になる。


「うーむ、知っての通り教義上、利息は好ましくない」

「ええ、無理を承知で申し上げております」

 ダメもとという気持ちはある。


「まあいいでしょう。教会は一切口を出しません。しかし節度はわきまえるように」

 節度か、常識の範囲でということだろう。トイチなどはダメということだ。

「ありがとうございます」


「ところであなたも二日酔いか?」

 俺の顔色は戻っていないらしい。しかしこの疑問は現状誰にも伝えていない。しかし、昨日ブランデー家のインセスト(近親相姦)について話し合った彼になら伝えてもいい気がした。


「いえ、考え事を」

「どのような?」


「僕の『淀み』についてです」

 含みを持たせた言い方をした。国王なら察するだろうが、わざわざ俺は口に出して言いたくなかった。『両親が近親者である』かもしれないということを。


「いや、『淀み』はそれだけが原因とは言えない。明言は出来ないが」

 教皇は最大限の慰めをしてくれたように思う。


「そうですか、つかぬ事をお伺いしました」

「よい、これからもよろしく頼む」


 俺は頷いた。俺たちが頭を下げ、立ち去ろうとした。イタリア遠征は終わりだ。俺たちは背を向け出口へと歩く。すると下っ端の聖職者が汗だくになりながら、断りも入れず謁見の間へと入っていった。俺たちに目もくれずすれ違い、一直線に教皇の方へと走る。



「失礼いたします!」

 聖職者が大声で報告する。


「東方のギリシア帝国の軍が東方騎馬民族との戦闘で大敗。救援要請を出しております!」


 俺と国王は立ち止まり、顔を見合わせた。




 長きにわたる戦争はここから始まった。

第三章 イタリア遠征編 完




ここまで読んでくださってありがとうございます!よろしければ評価等をよろしくお願いいたします!


4章はシンプルに書いていきますので、3章ほど複雑にはならないと思われます。

これからも2日に1つのペースで書いていきますので応援よろしくお願いいたします!

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