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51.片付けが一番面倒くさい

 宴もたけなわ。店内はどんちゃん騒ぎ。国王は酔いつぶれよだれを垂らしてだらしなく寝ている。対して俺は酔えていない。前回の反省からかサラも今日は控えめだ。

 俺は安堵からか、一気に疲労が訪れ、椅子にだらしなく寄りかかる。


「あなたには脱帽です」

隣に座ってきたのは教皇だった。

「長らく続いた聖俗の解決を図るとは」


「まあ、清貧派の教皇が飲酒なんて、後でどうなるか僕は知りませんけどね」

そう言うと教皇は笑った。

「私の不祥事1つでこの戦いが終わるのなら安いものですよ」

「それはまた、俗世的なまでに合理的だ」

嫌味っぽく俺は言った。



「それで、あなたはこの後どうするのです?」

教皇が尋ねる。

「国王の教会を潰すという目的がなくなった以上、疫病の進行を止めることにしますよ。幸い、遺体や汚物の処理の方法は分かったので」


「どのような方法で?」

救いの息吹(ホーリー・ブレス)です。僕と国王も同じようなことが出来ましてね。祝福を感染源から奪うんです」


「ほほう!」

教皇は感心したように言った。

「ただ、どうしても時間がかかります」

疫病の感染源を潰すだけでは根本的な解決になっていない気がする。いたちごっこだ。

「では、ここからは私たちの出番ですね」

教皇が自慢げに言う。

「どういうことです?」


「こういう大規模な作業は私共にお任せを。救済符によって財政的にも問題なく行えます」

「どのように行うか聞いても?」


「まず、あなたたちの作業を引き継ぎ、私たちは救いの息吹(ホーリー・ブレス)を使って感染源の根絶を行います。そしてすでに疫病に侵されている人々は清貧派の名のもとに救済符で得た財源で食糧や水の供給を行います。亡くなる方の大半が貧困層であることを考えると、栄養の供給が効率的でしょう」



「国王との戦闘に備えるために売った救済符が、本当に人々の救済に使われるわけですね」

「おお、耳が痛い。まあそう言うことになります」

教皇は続ける。


「うまくいけば教会の権威はより強いものとなるでしょう。教会が疫病を止めると言いう”奇跡”を行ったとして」

この男、アルコールに浸されていても教会ファーストで物事を考えていやがる。


「それで、教会はそのあとでどうするんですか。また以前のように権威を知らしめるんですか」

俺は寄って寝ている国王を叩き起こそうとする店主を見た。

「いえ、もう教会は政治に口を出しません。むしろ___」


教皇は俺に耳打ちする。

「現在の皇帝が死去したら、教会の権威をあの国王に譲るつもりです」

「えっ」

予想だにしない言葉に俺は彼の言葉を疑った。教皇は俺の驚きを認知したうえで続ける。


「”皇帝は神の代理者としてその力を行使する”そんなスローガンを打っておきましょう」

「帝権神授ってことですか」


前世の某絶対王政を思い出して言った。

「ほう!素晴らしいネーミングセンスだ。あなた、政治家に向いていますよ」

教皇は感心してそう言った。教皇が政治上のテクニックを教えるという皮肉に苦笑いが隠しきれない。

「でも、いったいなぜ?」

教会の権利を譲渡するということは、すなわち宗教を教会がコントロール下に置けなくなるということだ。


「皇帝一族と教会との対立は、教会が力を持ちすぎたことが原因です。神は本来、我々の救いとなるもの。政治の道具ではない。あれを見てください」

俺は教皇が指さした方向を見る。そこでは店主が国王に絡んでいた。




「坊主、言ってみろ。『人間には心の拠り所が必要。宗教、復讐、そして酒だ。俺は君たちの拠り所を作る。つまり、今日は俺の奢りだ』」


「うーん...と。心の拠り所__。復讐、宗教、酒?俺の奢りだー」

国王は訳も分からず酒を奢らされることになっていた。


歓声が上がる。

「やっぱ国王は違うぜ!」

「よっ、我らが王!」

「皇帝になったら酒を安くしてくれよー!!」




教皇が話す。

「心の拠り所という表現が正しいのかは分かりませんが、宗教は政治の道具ではなく、誰かの救いの戻ります。宗教には力があります。その力は正しく使わなければなりません。力には責任が伴います」


「でも帝権神授は、ある意味宗教の力を政治に用いているんじゃないでしょうか?」

俺は疑問になって尋ねる。絶対王政における王権神授とは、宗教の力を王に集約させていた。つまり宗教を王の絶対性の後押しにしていたわけだ。



「そう、だから信頼できるものにその力を託すのです。今の国王なら宗教を政治に使わず、”心の拠り所”に留めてくれるでしょう」

「随分と見直したのですね、あの国王のことを」


「人に謝れるっていうのはなかなか出来ることじゃない。彼は信じるに値する人間だと判断しました。もとより、宗教は信じることが基本原理ですからね」

「友人が評価されると気分がいいです」

俺は素直にいった。


「ええ。ただもう少し酒が強ければうれしいのですがね」

国王は2杯でダウンした。対して教皇はその10倍は飲んでいる。フランチェスコと同等のペースだ。清貧のせの字も感じられない。

 ちなみに教皇とフランチェスコは酒を介してだいぶ打ち解けたようだ。フランチェスコの敬語が砕けてきている。


「それに__」

教皇は続ける。

「王の器があるのはあなたもです」


「僕にはそんな大仰ものありませんよ」

俺は大げさにかぶりを振った。

「いいえ。大まじめです」

教皇は声のトーンを落とした。






「国王が皇帝に繰り上がった際には、あなたの一族を次期国王に推薦します」





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