38.頑張れ国王
「人が自分の足で歩ける世界。」
国王の話は自分の頭では処理できないほどの情報量だった。自分を殺すために犠牲になった弟のこと、魔力吸収装置のこと、皇帝の一族の過去、国王のイデオロギー。頭が痛くなる。
彼は弟の敵を討つため俺の力を借りようとしている。それだけは分かる。なら話は単純だ。これは俺がどうしたいかどうかという問題だ。帝国のことなんて俺にはよく分からないし、興味もない。国王がどのような目的があって教会を潰すなんて俺には関係ない。
「国王。」
「なに?」
「国王は俺が魔法__禁忌の力を使えるから友達になったんですか。俺が国王と同じように苦しんでいるからだと?」
「うん。だってそうでしょ。」
違う。
「僕はあなたとは違い、苦しんでなどいません。責任を果たすなんて考えてもいません。」
「じゃあ、僕の助けにはなってくれないの?」
「国王次第です。」
「どういうこと?わけわからない。」
国王はいらだって返答する。
俺は転生を経て、自分の意志で生きると決めた。自分の心に従って物事を判断する。好きな人と過ごし、嫌いな人間とは距離を置く。倫理とか正義感とか弟の復讐とか、そういう物に振り回されるのはごめんだ。そんなことで俺は動かない。
「何が望みなのさ。お金?権力?言ってよ。なんでも与えるからさ。」
「そんなものはどうでもいいです。いりません。」
「無礼者!」
国王の騎士が俺に詰め寄ろうとするが、キャスがそれを阻み、首を振る。
「よく考えてください。今の国王の力になろうとは思いません。」
俺は国王を見て言う。
「なんなんだよ。もう。どうして誰も、僕のことを分かってくれないんだ。」
国王は頭を掻きむしる。
俺はそれを無視して国王に告げる。
「教会とあなたに関しては、国王、あなた次第です。ですがここに来たからには疫病で死ぬ人々を助けたい。とりあえず、僕はそのために動きます。」
人間がみすみす死ぬのはさすがに気分が悪い。ここは俺の善良な心に従おう。
「分かった。お願い。」
俺に対して不満を募らせているようだが、彼は素直にそう言った。うん、それでいいんだ。そういう所は尊敬できる。
俺は部屋を出て、街を見て回る。医学には疎いが、魔法も使えるし、俺にも何か出来ることがあるだろう。
無知でどうすればいいか分からず、がむしゃらに動く。復讐とか大義とかそういう大きな目標を掲げて、自分自身のことを何も知らないまま暗闇をひたすら進んでいく。
昔の自分を見ているようだ。だから俺は国王を放っておけない。
国王、理屈や思想だけじゃ人は動かない。
次はイデオロギーを掲げて説得するんじゃなく、友達として俺に頼んでくれ。そしたら俺はお前の言う通り、教会でも何でも潰してやるよ。
頑張れ、国王。




