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37.弟

「僕が弟を殺したんだ。」

国王は静かに語った。自分に言いかかせるように。

「オルダージュ様、それは違います、私の__私のせいです。」

キャスが鼻をすすりながら国王をフォローする。何か壮絶な過去がこの2人にあったことが伺える。


「私が、私がナポレオン様の護衛でありながら、未熟なばかりに___。」

「キャス、それは違うよ。自分を責めるのはやめて。」


「いいよ、無理して話さなくても。」

俺は辛そうな2人に耐え切れず、止めに入る。


「大丈夫、君には聞いてほしいんだ。僕たちのことを。いいよねキャス?」


キャスは沈黙したが、やがて覚悟を決めたようで頷いた。


「色々疑問はあるだろうけど、とりあえず何も言わず聞いてほしい。」


---

以下 国王の語り




 僕の一族、ブランデー家は長い間皇帝に君臨していた。理由は簡単。武力も政治力も強いからだ。僕が国王になった時はザクセン選帝侯がいたから危なかったんだけど、彼はあまり皇帝になることに興味がなかったみたい。あと、良くわからない法律を通そうとして、評価を落としたんだっけか。まあそれはいいや。


 でも帝国の君主はずっと皇帝じゃなくて教皇だった。皇帝や国王は政治をするっていう人。お仕事みたいな感じ。帝国のリーダーは教皇、それが世の中の考え。


 先代の皇帝は教皇より偉くなろうとして、叙任権闘争っていう争いがおこった。でも結果は惨敗。皇帝は教皇に跪かされた。その経験から僕たちブランデー家は絶対的な力を持つことを目指した。



 それで生まれたのがこの力。ブランデー家の男子が持つ、禁忌の力。



 君も分かるだろうけど、この力はとても強い。子供でもうまくやれば騎士なんてあっという間に殺せちゃう。

 でもブランデー家がこの力を使い始めてから、ブランデー家は長生きできなくなった。男の子の数も減っちゃったし、生まれても1歳になる前に死んじゃうことがほとんど。僕の前にもたくさんの子が死んじゃったらしい。だから僕たちはこの力を禁忌って言うんだ。


  僕は運よく生きれた。歴代のどの子よりも強い禁忌の力をもってね。僕はお父さんの指示に従って色んな人を殺した。大体は教会の偉い人。



 教会にも清貧派と権威派っていう派閥があるんだ。前の皇帝ははその権威派っていうのに負けた。それ以来、ブランデー家は権威派を倒すために、禁忌の力を使って多くの人を殺した。清貧派の力も借りてだけどね。


 でも僕がたくさん人を殺すようになると、清貧派は団結して禁忌の力に対抗する方法を探し始めた。


 清貧派はたくさんのお金と人を使って禁忌の力を研究した。変な話だよね、自分たちは利息とかお金の貸し借りとか禁止する癖に、自分たちは宗教の力を使ってお金を集めるんだもん。今回の救済符もそうだけどさ。




 次の皇帝になる僕を殺すために目を付けたのが僕の弟、ナポレオンだった。ナポレオンは体が弱かったけど、僕より強い禁忌の力を持ってた。もし生きてたらナポレオンが国王だっただろうね。僕が彼の部屋に行くと、いつも喜んでいた。僕が誰か頭で考えなくても、禁忌の力で僕だって理解する。でも彼は1歳の誕生日に襲撃を受けて、教会に連れ去られた。




 キャスはナポレオンの世話と護衛を担当していた。ウィンストン家はブランデー家に仕える一族で、キャスはそこで一番強かった。だから僕がいない間はキャスがナポレオンを守ってくれてたんだけど、あいつらは本気だった。マインツ大司教、ケルン大司教、トリーア大司教の3人の選帝侯を連れてきて、ナポレオンを奪った。



 僕は弟を取り返すためにキャスたちと一緒に教会と戦って、追い詰めた。


 追い詰められたあいつらはなりふり構わず救いの息吹(ホーリーブレス)を使った。

僕の禁忌の力は使えなくなった。救いの息吹(ホーリーブレス)を受けて感じたんだ。これは弟だって。どうやってかは分からないけど、あいつらは弟の禁忌の力を使って禁忌を封じる呪いを作った。


 そこで弟はもう死んでいると知った。僕を殺すために弟は殺された。


 禁忌の力を封じられ、ただの子供になった僕をウィンストン家が身を挺して守ってくれた。

弟の復讐をしようとする僕をキャスは無理やり戦場から引き離した。おかげで僕はここにいる。


 禁忌の力は一日すれば元通りに戻っていた。多分あれは一時的に禁忌の力を減らす装置なんじゃないかな。




 僕は何もする気が起きなかった。気づいちゃったんだ。弟が死んだのは僕のせいだって。僕が生まれてこなければ弟が国王になっていた。弟を殺したのは僕だ。弟はもう帰ってこない。僕は家出して、帝国内を彷徨った。皇帝になるつもりももうなかった。


 



 でもある時、教会で熱心に祈る女の人を見たんだ。私のせいで家族に迷惑をかけている、ごめんなさいって。僕と一緒。そう思って声を掛けようとした。でもできなかった。


 その女の人は目が見えなかった。僕は弟が殺されて何もかも失ったと思っていた。自分がこの力を持つせいで弟は死んだ。その通りだよ。僕のせいで弟は死んだ。でも僕と彼女は違う。僕は見える、怒れる、殺せる。祈ることしかできない彼女とは違う。



 僕は持てる力をすべて使って自分のやるべきことをしようと思った。だからブランデー家に戻って国王になった。



 アクア教は救いとか何とか言って、帝国の人間を縛っている。なにが救いだよ。街のみんなも救済符なんて買わずに、この街から離れればいい。


 僕は国のみんなを縛るアクア教を潰す。国民が自分の人生を歩めるようにする。なんで救いを誰かに求めるんだ。歩けるものは歩いて、見えるものは見ないといけない。


 僕は国王として、力を持つ者として責任を果たす。僕は恨み、殺すことができる。弟の無念を晴らすことだ出来る。教会も弟を守れなかった自分も絶対に許さない。


 これが僕の責任だ。


 


 君に会ったとき、運命だと思った。僕と同じ力を持つ子供。同じ苦しみを持つ子供。




 

 ねえ、バランタイン君。力を持つ者同士、一緒に戦おうよ。そして一緒に作ろう。人々が宗教なんかに頼らない、自分の足で歩ける世界を。

 

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