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35.南への道中

 馬車で南へと行くにつれ、疫病の猛威を思い知ることになる。所々で上等の宿に宿泊するのだが、南の宿に行けば行くほど、街に陰鬱な空気が流れているのを感じる。咳の音が風に流れて聞こえてきたり、道端に死体が転がっていたりする。まだ北の方は死体を街の外へほっぽり出しているのだが、南へ行けば行くほど吐き気を催す肉塊が散らばっていくようになる。



「ひどい。」

サラはその光景を見て言った。

「でしょ、でも死体には触れちゃだめだよ。」

この時代でも感染症という概念はあるのだろう。だからまだ元気がある集落では遺体を外に放置するという対策が出来るわけだ。

「原因は分かるの?」

国王は首を振る。


「さあね。でもいつものことだよ。発展が進み人口が増えると、どんどん街が汚くなっていく。みんなお金を稼ぐことは頑張るのに、自分をきれいにしようとかは思わないみたい。」

「俺達には移ったりしないの?」


国王は少し考えて言う。

「まあ大丈夫でしょ。死んじゃうのは大体貧しい人たちだし。今のところ貴族が被害に遭ったっていうんは聞いてないから、ちゃんとご飯食べて訓練している僕たちなら大丈夫。」


まだ道半ばだが先が思いやられるな。

「そういえばバランタイン様、国王様と話されるときはなんで俺というのですか。」

「うん?ああ、確かに。」


特に意識はしていなかった。国王と友達として振舞おうとした際に、無意識に出ていたのだろう。

「なんていうか、素が出たというか。」

「私に対しては素じゃないってことですか。」

彼女は頬を膨らませる。


やばいやばいやばい。これはまずい。そうだ、キャスだ。この人は基本的にサラに厳しいしフォローしてくれるはずだ。俺はちらとそちらを向く。彼女は申し訳なさそうに頭を下げた。俺は孤立した。

「いやほら、国王様は友達だし。な、なんていうの。サラはほら、生まれてからずっと一緒だし、なんていうのかな、はは。家族みたいなものだし。」

「家族になら、それこそ素を見せてもいいのでは?」

「うっ。」


もっともな正論に黙ってしまう。実際には俺は転生者なので最初は新たな家族というのに慣れず、他人行儀に振舞っていた。その癖が今になっても続いているだけだ。

 やばいやばい、サラに嫌われる。俺はもう一度キャスを見た。彼女はため息をつき、口を開いた。


「バランタイン様は私にもたまに俺、といいますよ。」

サラはキャスの方に少し意外そうな顔をして顔を向ける。

「え、ではやはり、私には自分を見せてくれていないのですね。」

「そうかもしれません。」

彼女はしょんぼりうつむいてしまった。おいおいキャス。これでは状況が悪化してしまうだけではないか。


「しかしながら、サラ。バランタイン様が領主夫妻、両親に対して俺といったのを見たことがありますか?」

「ええと、いや、私の記憶の限りではありません。」

キャスは頷く。

「そう、彼は両親に対して自分を見せないのです。別にそれはあのお二方が息子をないがしろにしているとか、そういう訳ではありませんよね?」

「ええ、シロック様とコルネオーネ様は常にバランタイン様やアマレット様を気にかけております。」

そうだ、息子の俺もそれは良くわかっている。


「ではなぜそのような善良なご両親に自分を見せないか。よく考えてみなさい。」

サラは思案する。

「期待に応えようと振舞っているため__?」

キャスは頷いた。


「そういうことです。騎士とは強くあるべきもの。特に尊敬する相手にこそ、凛々しく接しなければならない。つまり、あなたはバランタイン様にとって__いや、もう十分でしょう。」

「はい、十分です。」


サラは俺に向き直る。

「バランタイン様、申し訳ございません。私が未熟なばかりに。」

「いや、いいよ。こっちこそごめん。」


 俺はキャスが言うように考えていたわけではない。なんとなく、自分の本来の年齢に近い両親に対して、同じ大人として接しているだけなのだが。まあ、尊敬しているのは事実だし。あながち間違いではないのか。それにしてもキャスは俺をよく見ているらしい。自分でも気づかないことを彼女は知っている。


「ですがバランタイン様。」

キャスはこちらを見る。

「騎士は女性に不安な思いをさせてはなりませんよ。」

怒られた。キャスに頼ってしまったことを責めているらしい。

「うっ。すみません。精進します。」


「それにあなたは領主になる器なのですから、女性の扱いも慣れておかなければなりません。」

外交としてか。だが__俺は。

「僕は女性を扱うなんて考え方、嫌です。自分を愛してくれる人、その人だけを大事にしたい。」

 父は不器用だがその背中はいろいろなことを教えてくれた。俺の両親は、理想の夫婦だと思う。


「バランタイン様。」

サラが俺の名前を呼んだ。

「うん、どうかした。」

サラは俺の顔を見る。

「いえ、何でもないです。」

彼女は俯いてぶんぶんと首を振った。



「やればできるのですから。次は自分で何とかしてください。」

キャスの最後の説教は俺にはよくわからなかった。





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― 新着の感想 ―
Xの方から伺わせていただきました。 こちらからも読ませていただきました。 序盤は小説家になろうで受けやすい感じにしつつも、だんだん血生臭く、人間模様を描く方向にシフトしていく感じが良いと思いました。「…
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