33.国王の頼み
「国王様!どうしてここに!!」
俺はひざまずいた。
「こら。」
国王は俺の頭をチョップした。
「友達にひざまずく人はいないでしょ。」
そうだった。国王は俺と友達になりたいんだったか。
「そ、そうでし、、だったね。ごめん。」
「次やったら、怒るからね。」
「わかった。がんばる。」
俺は立ち上がった。
「あれ、身長伸びた?」
国王が尋ねる。
「あ、うん。ここ数年でだいぶ。」
「そうなんだ、僕は全然変わらないよ。」
彼は自分と俺の身長を比べ、苦笑いをする。
「あの、国王。今何歳なの?」
「僕?今年で15。」
「えっ。」
思わず声が出た。15だって?まるで小学一年のこの子が?
「ある時から身長伸びなくなっちゃったんだよね。ちなみに君は?」
「6つ。」
「え、え!?僕と同じくらいだと思ってた。びっくりしたあ。」
俺だってびっくりしたさ。年齢と見た目が一致していなさすぎる。あと、これは言わない方がいいことだが、言葉遣いと年齢も。15にしては幼稚すぎる。
「なんで、俺はこんなに伸びるんでしょうね。」
それはさておいて、俺は生まれてからずっと持っていた疑問を口にした。
「あ、自分のこと俺っていうんだ、いいね。うーん、禁忌の力は何が起きるか僕でも良くわからないから答えられないや。」
「国王の一族はみんな持ってるの?」
「うん、そうだね。多かれ少なかれ。僕は特別多いみたいだけど。」
まあそうだろう、こんな化け物がぞろぞろいたらたまったものではない。
「なぜ、国王の一族はその力を?」
「それは聞かないほうがいいよ。」
彼は一瞬嫌そうなお顔をした。俺はそれ以上追求しなかった。
「それで、何か悩み?」
「まあ、ブランデンブルクのことで。」
「ああ、常備軍作ってるんだったよね。それがどうしたの。」
うーん、言っていいものか。お金の問題は避けたいという前世の習慣が。いや、相手はある意味では上司というか、目上の人なのだし、逆に隠すほうが問題か。
俺はブランデンブルク選帝侯が直面する資金問題について包み隠さず述べた。
「なるほどねえ。」
彼は顎をかきながら数秒思考する。そして結論が出た。
「じゃあ、僕が全部出してしてあげるよ。」
「えっ。」
また声に出して驚いた。まだ大規模な軍備ではないにせよ大金だぞ?
「なに驚いてんのさ。僕、国王だよ?次の皇帝だよ?それくらい大したことないよ。」
「いや、それはありがたいんだけど、なんで。」
「友達だから。そう言いたいところなんだけど、実はちょっと頼みたいことがあってね。」
「頼みたいこと?」
「そう、君と僕にしかできないこと。」
いったいこの人は何を考えているのだろう。全く読めない。
「バランタイン様。昼食が出来ましたよ。」
城の方からキャスおばさんが俺を呼びに来た。
「あっ!キャス!!」
国王が無邪気な声を出す。
「オルダージュ様!!」
彼女もまた大きな声を出して驚いた。
「久しぶりだね。元気にしてた?」
「ええ、オルダージュ様もお変わりないようで。」
「体はね。でも、なっちゃった。国王に。」
彼は学校で嫌なことがあったことを親に報告する子供のようだった。
「存じ上げております。」
彼女は思う所があるようで、哀れみや悲しみを含んでそう言った。
「まあ、もうなっちゃったんだし、好きにするよ。」
「ええ。ええ__。」
彼女は頷くしかできなかった。その目には涙が浮かんでいた。
「それで、今日はバランタインにお願いがあって来たんだけど。キャスも一緒にいて欲しい。どうかな。」
「お願いですか。」
「そう。常備軍作るお金を出すから、どうかなって。」
キャスもまた顎に手を付き思案する。その仕草はそっくりだ。しかし、どうすればいいか決めかねているようで、俺が助け舟を出した。
「とりあえず、コルネオーネ様やシロック様に相談しないと。せっかくだからごはん一緒にどう?雨も降りそうだしさ。」
曇天の空模様を指さす。
「いいの!?迷惑じゃないかなあ。」
国王は遠慮をするそぶりを見せる。言葉遣いとは裏腹に、気遣いは出来るらしい。
「大丈夫、母上がいるし。」
あの人がいれば何とでもなるだろう。
「うまあ。」
彼はブランデンブルクのいわゆる普通の食事を幸せそうに食べている。
「皇帝とか国王って何食べてるの?」
「ん?食べるものはそんなに変わらないよ。でもマナーとかしきたりとか難しくて嫌なんだよね。」
「申し訳ない、質素なもので。」
父が謝罪する。
「いいのいいの。皇帝だったらあれだけど。僕は急に来たわけだしさ、ご飯あるだけでうれしいよ。」
彼はもう一つパンに手を伸ばした。
「それで___」
父が本題に切り出そうとするが、母が制止する。食事の際は仕事の話をしない。それがラムファード家の数少ないルールの1つだ。
国王は食事を終えると、自ら切り出した。
「ごちそうさまです。さっきバランタインにも話したんだけど、僕は彼にお願いがあってここに来ました。できればキャスも連れていきたい。もちろん、ただでとは言わない。お願いを聞いてくれる代わりに、常備軍にかかるお金を僕があげる。どうかな?」
「こちらとしてはうれしいご提案であります。ただ、お願いの内容をこちらとしては知りたい。」
交渉の場においては母が手綱を引く。
「だよねー。どうしよっかな。」
国王はまた顎に手を当て、思案する。
「ブランデンブルクって、信者は少ない方だったよね?」
「ええ、私どもの一族にも知識を持つ者はおりますが、信者はおりません。」
「ならいいか。」
国王は机に身を乗り出し、声を抑えて言う。
「アクア教を潰す。」
外では大粒の雨が雷とともに降り始めた。
第二章 ザクセン編 完
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