28.国王オルダージュ・ブランデー
この国の___国王?
「怖い顔してるんだね。」
国王は父の前をふらふらしながら顔を覗き込んだ。父の傷だらけの顔を見ても何も動じることなくそう言った。
「でも、それなりに頑張ってきた顔してるね。」
国王は続ける。
「選帝侯、なりたい?」
「はっ!」
父は返事をする。国王はうんうんと頷く。
「その意気込みや良し、だね。でも選帝侯は楽じゃないよ。」
「心得ております。」
「君はなんで選帝侯になりたいの?」
「常備軍を設置し、ブランデンブルクにおける異民族の排除を徹底したいと考えております。」
「それは帝国にとって有益?」
「はい、森の民を殲滅することが叶いましては、東方に広がる広大な森林を開墾し帝国内における人口増加及び食糧問題の解決にも貢献しうるでしょう。」
「うん、いい回答だね。君を選帝侯に任命する理由には十分だ。」
国王は父から離れ、ザクセン選帝侯の前に立つ。
「コルネオーネ・ラムファード。次は君自身の資格と能力についてだよ。ペルちゃんは彼を推薦したわけだけど、彼はそれに足る資格があると思う?」
「はい、彼は私とともに何度も戦地に赴き、活躍をしてきました。その勇気や誠実さは私が保証します。」
「ふうん。」
国王は胡坐をかいてその場にどさっと座った。
「ペルちゃんのことは信頼してるよ。皇帝もザクセン選帝侯によろしくってさ。」
「身に余るお言葉です。」
頭を垂れるザクセン選帝侯。
「それで、この人は強いの?」
「ええ、武力も十分に備わっております。」
「ペルちゃんより?」
空気がひりついたのが分かる。
「彼は___。私でも敵うかどうか。断定はできません。」
「へえ!」
国王は顎に手を付き父の方を見た。
「ペルちゃんにそう言わすなんて、よっぽどなんだね。」
「いえ、私はまだまだ若輩であります。」
父は謙遜することにしたようだ。
「その年で若輩なんて言わないでよ。僕なんて君の子供と同じくらいなのに。」
国王は手を広げ自分の身体を見せびらし、俺の方を見た。俺は目が合い、焦って会釈をする。彼はニコッと笑い会釈を返した。
「よいしょっと。」
彼は立ち上がりまたふらふらと歩き始めた。
「ほんとは素養とか忠誠心とか、そういう所もちゃんと見ないといけないんだけど、僕にはよくわからないんだよねえ。だからさ__。」
国王は馬車の破片を拾った。粉々にならずに済んだ、長めの木の棒だ。
「とりあえず、強いか確かめさせて。」
俺たちの周りにいる鳥が一斉に飛び立った。
心臓が縮む。締め付けられるように胸が痛くなり、体が硬直する。前で跪いていた父とザクセン選帝侯はほとんど反射的に剣を抜いていた。
彼はおぞましいオーラを身にまとっていた。比喩ではなく、実際に。視覚で認知できるそのオーラの量は俺自身のものを含め、見たことのないほどに巨大だった。
他の人にこれが見えているのかは分からない。彼から放たれている強者としての圧力が彼らに剣を抜かせたのかもしれない。しかし俺はこれをよく知っている。知っているからこそ、戦慄した。
上には上がいる、どの世界にもこの言葉は当てはまるらしい。
国王は、、最強の魔法使いだ。




