106.馴れ初め
母は静かに語り始めた。
私とコルネオーネが育ったのは、ブランデンブルクの東の果て。森の民にたびたび略奪される、小さな村だったわ。
そこは、負債で首が回らなくなった者、領主に追放された者、帝国にとって邪魔な者たちの集まりだった。国の政策としても都合がよかったの。森の民に手を焼いていた帝国は、その地に厄介者たちを住まわせ、双方を争わせて力を削ごうとしたのね。
私とコルネオーネは孤児で、同じ日に教会の前に捨てられたらしいの。そして修道院で7歳まで育てられた後、その村へと送られたわ。当時、教会は皇帝との地位争いに明け暮れていて、私たちのような子供を養う余裕なんてなかった。
幸い私は頭が良かったから、村の人たちに可愛がられたわ。除け者ばかりの村だったけど、共通の敵――森の民がいたおかげで、みんな団結していた。年貢も厳しくなかったから、それなりに良い暮らしだったの。
対してコルネオーネは身体が弱かった。森の民相手に剣を振るうなんてもってのほか、農作業でも私の方が動けたのよ。
本来なら、性格の悪い私がそんな彼を見下してもおかしくなかった。でも、なぜか放っておけなかったの。今思うと納得するわ――だって、双子だもの。
ある時、森の民が本気で村を襲ってきた。あの時から、奴らは魔女の力を使い始めていたんだと思う。
私たちが団結を強めれば、向こうも選別を進める。結果、戦える優勢種だけが生き残り、近親の血が濃くなっていった。そんな組織化された奴らに、私たちは為す術もなく蹂躙されたの。
男たちは皆殺し、女たちは慰みものにされ、私も連れ去られそうになった――。
その時、助けてくれたのがコルネオーネだった。驚いたわ。剣すら握れなかったはずの彼が、妙な力を使う森の民たちを切り捨てていくのよ。
彼は私の手を引いて、西の村まで逃げた。それが、今のソーニャが暮らしている村だった。
その後のことは、ソーニャが話してくれたでしょう。
私は領主に気に入られ、ブランデンブルク城で働くことになった。城にはたくさんの書物があったし、森の民の襲撃を受けて、自分の身を自分で守りたいと強く思ったの。剣ではなく、別の方法でね。
私がブランデンブルク城へ行くと決まった時の彼の顔、みんなに見せてあげたいわ。あの強面が今にも泣き出しそうだったのよ。
あの人はその後、得た力を高めるために傭兵になったの。思えば、あの期間はお互いを高め合うための、かけがえのない時間だったのかもしれない。
ブランデンブルク城で、私は一冊の本を見つけた。タイトルは『禁忌』。
アクア教の神学書だと思って読み始めたけれど、その中には双子についてこう書かれていたの:
「双子が生まれた際には、直ちに後に生まれた者を殺すべし。
双子は悪魔であり、アクア様の祝福を授からず。
激情に駆られ、悪魔の力を用いて多くの者を殺す」
ぞっとしたわ。
当時、教会は皇帝より優位に立つほどの権力を持っていて、私は熱心な信徒だったから、その一節がずっと頭から離れなかった。
でも、コルネオーネは違った。窮地に立たされた時、彼は選帝侯にも匹敵する力を手に入れた。まるで神の祝福を受けたような変化だった。
真面目な教徒なら、自分や大切な誰かが“悪魔の子”かもしれないなんて受け入れられない。でも私にとって、彼は――そしてその力は――救世主だった。
ブランデンブルクでは、生き抜くための力がどうしても必要だった。たとえその源が悪魔のものでも、忌み子のものであっても構わない。目の前の脅威に抗うために、力が必要だったのよ。
森の民はますます力を増していた。収穫期には領民が怪我をし、飢え、死んでいった。
でも領主は動かなかった。ザクセンから借りた兵力も役に立たなかった。
ソーニャたちの村のすぐそばまで森の民が迫っていたというのに――。
私は無力だった。知識を積んだところで、森の民は止められなかった。
そんな中、彼が戻ってきた。
強くなって。森の民を蹴散らして村を救い、無策だった領主一族を皆殺しにして――。
私は、次は自分が裁かれると思った。
でも彼は私を殺さなかった。むしろ頭を下げて、私だけを生かしたことを領民に謝った。
私は許された。
でも……どうしてなのか、怒りが込み上げてきた。
私は叫んだ。「どうして私を助けたのか」と。
彼は答えたの。
「君が好きだから」って――。




