余話 冷えたシャッターに、語る日を待つ
2月10日、拙作が書籍として日の目を見ることができました。
発売記念の特別更新です。
本編には一切絡まない物語なので、気軽に読んでいただければ嬉しく思います。
時系列としては、一章の百鬼夜行の裏で起きていた一幕になります。
仄暗く瘴気が流れる住宅街の通りを、穢獣の群れが列を為して過ぎていった。
殺意に満ちた急きる獣息が、赫く濁る凶眼と共に狂奔の渦を流れていく。
それは遠く高い場所から見下ろせば、天を流れる川宛らに目を惹かんばかりの輝きを放っていた。
その多くは狗や猪、鹿が混ざっているくらいか。
疾走り去る穢獣どもを青白い光が刹那に照らして、穢獣どもの気を惹かないうちに闇に消える。
「ふびゅう……。
も、嫌ぁ。これが終わったら、鴨津に帰っちゃるぅ」
舘波見川中流域を見下ろせる住宅の屋根。瓦を取っ掛かりに屋根へとへばりつきながら、格子柄の洋装を着た女性が情けなく泣いた。
瓦屋根は意外に滑りやすく、専門職は専用の足袋を使うほどだ。
草履なら兎も角、革靴を履いて上るなど自殺行為でしかない。
屋根に上って四半刻も経たないうちに、彼女はその事実を嫌というほどに実感していた。
べちゃり。年頃の娘とも思えない痴態を晒しながら、蟹か蜘蛛のごとく手足を這わせて身体の位置を変える。
冠瓦を掴んで無理やりに身体を起こし、洋袴の足で挟むように固定。
耳元で編んだ三つ編みが揺れ、風に飛ばされないように縁無し帽を手で押さえる。怯懦よりも屋根に立つ後悔から、丸眼鏡の奥が涙に歪んだ。
「絶対さ。
今度こそ、絶、対、さ、辞めちゃるんじゃ!」
悪罵というには迫力に欠けるそれを吐き捨てながら、稲富純子は肩掛け鞄からキャリコ社のカメラを取り出す。
年齢20になったばかりの純子は、慣れた手つきで遠望できる館波見川へと焦点を合わせて、漸くの一息を吐いた。
瘴気に中てられたか、ちりりと音を立てて視界の端で三つ編みが撚れる。
澱んだ微風が純子の鼻奥を擽り、傷んだ咽喉で僅かに咳き込んだ。
♢
「へ? 沓名ヶ原の怪異、ですか?」
稲富純子の勤める雑誌社に百鬼夜行の報が入ったのは、純子が昼餉の握り飯に大きな口で挑もうとした時であった。
記者として2年前に上京した純子は、記憶にないその響きに間抜けた表情を編集長の方へと向ける。
「……ああ、そうだ。
そろそろだろうと噂の端には上っていたがな、遂に神託が下りたとかで守備隊は上へ下への大騒ぎだ。
襲撃は22時。もう少ししたら、俺たちにも避難勧告が寄せられるはずだから準備しておけ」
「避難するんですね」
「……ドン子、手前ェの職は何だ?」
「記者です」
何を当たり前なと云わんばかりの純子の即答に、額に青筋を浮かべた編集長は眉間を揉んだ。
「百年に一度の特ダネを前にして記者が逃げるたぁ、どういう料簡してんだ!
だから何時まで経っても、鈍臭ぇドン子のまんまなんだ」
「え!? で、でも、私、単独取材なんてやらせて貰った事無いですよ」
「んな事ぁ知っている!! 怪異は館波見川の下流から侵入するから、そこで穢獣の頭数を減らす大規模戦闘が行われる。
――決着は上流だと、守備隊の本部に詰めている友人からタレこみがあった。だから、下流の戦闘で号外を刷って、上流の決戦で本誌の見出しを飾る予定で行く!」
完全に、総動員体制で取材に当たれと云われた事に驚きつつ、純子は握り飯の残りを口に放り込んだ。
今まで男の記者に隠れて、助手しかやらせて貰えなかったのだ。初めての単独取材に浮き立ちながら、取材道具を肩に掛ける。
「上流の場所取りに行ってきます!」
「おい。待て、ドン子」
「へ?」
意気揚々と雑誌社の出入り口へ足を向けた純子の背中に、編集長の声が掛かった。
折角の意気を挫かれ、僅かに口の端を尖らせて振り返る。
だが喉奥に堪る不満も、編集長の厳つい髭面が視界の入った途端に萎れたが。
「……何でしょうか?」
「手前ェは、3区の繁華街で市民の取材をしていろ。……百鬼夜行関連のお涙頂戴を掘り出せば、来週号の隅をくれてやる」
「え、えぇっ!? そんな後生ですよ、編集長! あたしだって、百鬼夜行を追いたいのに」
「上流も下流も、お前より上手の記者に割り当ててんだ。
手前ェみたいな鈍間、優先してやる隙間は無ェ!!」
「ズルいっ!!」
明白な男女差別に、滅多にしない抗弁を編集長に向ける。
だがそれも、百戦錬磨の相手にとってはどこ吹く風か、追い打ちの一睨みに純子の抗議は一息に吹き飛ばされたが。
落胆に下がる肩へと鞄を掛けて、言葉も少なく純子は出版社を後にした。
♢
純子は、記者となって二年目の新米だ。
というか元々、純子は記者になどなる心算は、欠片も持ち合わせていなかった。
鴨津の女学校を卒業した彼女は、縁談の気配も無いままに華蓮へと職を求めた経緯がある。
雑誌の煽り文句として載っていた、新時代の働く女性特集なるものに目を奪われたのも理由の一つだろう。
ほぼ身一つで華蓮に上京した純子は、これまた深く考えずに新しく起業した雑誌社の一つに、記者として入社した。
当初、彼女は束髪に洋装で受付嬢に立つ姿を想像していた。
しかしながら、三つ編みに度の強い眼鏡姿の純子は人事のお気に召さなかったらしい。
……主に見た目で、という事実が悲しいところだが。
女性にとっては裏方の、だが取材の最前線たる記者陣に放り込まれたのは宜なるかな、
とは云えど、折角にありつけた職である。
余り深く考えないままに、彼女は雑誌社の新米記者として走り回る事になった。
……それでも、不満は募るものだ。
純子は碌な成果も得られない繁華街での取材を早々に切り上げて、館波見川の中流へと赴いていた。
♢
本音ぶっちゃけると、自分だって特ダネで一発、当てたいのである。
だって都会は何かとお金が掛かるし、純子だって臨時収入が欲しい。
ボッ。マグネシウムの燃焼音と共に、闇に沈む路地が青白く切り取られた。
―――苦、婁、屡ォオンンッ!!
刹那の灯りに蠢く穢獣が猛るが、百鬼夜行の勢いにすぐさま流されていく。
焼き付いた乾板を引き抜いて、傷が付かないよう丁寧に鞄へと放り込む。
眼下で穢獣が奔り回る光景を除けば、それは純子にとって日常の延長。その結果でしか無かった。
「――ええやん、許可なんぞ無くてもさ。中流で怪異を撮れば、編集長かて文句は無いやろ」
言い訳めいた独白は、自らが悪いと認めているようなものだが。
その事実から思考を逃して、純子は館波見川を臨める位置へと身体を寄せた。
怪異を刺激しないためなのか、中流域周辺に人の気配は感じられない。
何処かに避難しているのか、それとも家屋の奥に立て籠っているのか。
その静けさを幸いに、純子は勝手に手頃な屋根へと這い上った。
「乾板が足りない。高いのに、また自腹……」
泣き言を口から漏らしながら、未だ熱を帯びるマグネシウムの灰を払う。
過ぎていく穢獣の群れを眼下に収めるが、これ以上、撮っても乾板の無駄遣いとレンズを館波見川へと向けた。
及び腰であったが、膝から立って屋上の一番高いところから周囲を見渡してみる。
予想通り、目端の利く記者たちは上流に詰めているのか、視界を巡らせる範囲に別の記者が見えることは無かった。
――どの雑誌記者も、考えることは同じかぁ。
だからこそ下っ端も良い所の純子が、ここまで見晴らしのいい場所を独占できているのだから、文句も言えないが。
完全に他人事の思考を呑気に浮かべ、慣れた手つきで閃光器にマグネシウムリボンを差し込む。
穢獣の気配も、随分と遠のいた。心細さから純子が乾板の残りを数え始めたころ、館波見川の方向から瘴気が波打ち始める。
―――弱、爬……。
「あ、来た!」
期待から慌ててカメラを構える。
レンズ越しの視界に映った、純白に濁る巨大な蛇体。仕入れていた前情報通りの姿に、純子は思わず身を乗り出す。
ボッ。閃光器がマグネシウムリボンを燃やし、切り取られた刹那をなけなしの乾板へと焼きつけた。
赤黒い輝きに照らし出された巨躯を臨み、純子はもう一枚とばかりに鞄から乾板を掴みだす。
いそいそとカメラに装填して、レンズを怪異に向けた。
――その時、
―――邪ァァアアッッ!!
瘴気に塗れた怒気を押し退けるようにして、大蛇の腹から喉元へと炎が奔る。
普通であれば致命の一撃に、それでも構う事無く大蛇が瘴気の炎を吐いた。
炎と炎。互いを喰い合いながら、純子が向けるレンズの先で乱舞を見せる。
時にくねる巨躯が地に向けて牙を剥き、時に誰かが大蛇の頭上高くで刀を振りかざす光景。
「……真逆、阿僧祇厳次!?」
市中に於いて、守備隊隊士の誰が人気かという話題は意外と尽きない。
何しろ、自分たちを守ってくれる、武家華族としての理想を語る体現者たちだ。
……その中でも人気の上位三人を挙げるならば、誰しもが一票を投じる一人。
第8守備隊隊長、阿僧祇厳次。
前回の天覧試合で準位を刻んだ根っからの武闘派でありながら、市井とは穏やかに接する人情派でも名が高い。
純子も防人の戦闘を見た経験はあるが、それと比べても圧巻の炎を纏って大蛇の侵攻を喰い止めていた。
「凄い」
二の句を継げないまま、大蛇と阿僧祇厳次の戦闘をレンズに収める。
1枚。乾板が引き抜かれて2枚。
刹那に瞬く閃光が、怪異と単騎で渡り合う男の雄姿を切り取った。
鞄を探って、新しい乾板を引き抜く。
手に届く乾板の枚数に慌てて鞄の底を確かめると、残り1枚と悲しい現実を直視する羽目になった。
「嘘ぉ。結構、用意したんだけど」
認めたくないその事実に、純子の視線が周囲を彷徨う。
……因みに、穢獣相手に無駄遣いして窮地に陥ったのは、誰のせいでもない自分自身の責任だ。
「ううぅ……。今週は、麦飯冷や汁を覚悟したのに」
――どう言い訳しようとも、飽く迄も自分の責任である。
それでも、貴重な瞬間を取り逃すよりはと、純子は新しく乾板をカメラに差し込んだ。
舞い散る焔と大蛇は、未だに意気軒昂と戦いを続けている。
その最高の一瞬をレンズに収めるべくカメラを構え、
―――餓、亜アァァアッッッ!!
「ひぃっ」
凶猛な雄叫びが夜気を貫き、純子の背筋が恐慌で総毛立った。
涙目で視線を後方へと向けて、その先に立つ2体の大鬼に身動ぎすら忘れる。
赤銅の肌を盛り上げる筋肉の塊が隆起して、その先で逃げる何かを蹴り飛ばした。
「あ」
人間。守備隊の練兵だろうか、未だ幼さを残した体躯が土手を越えて川の向こうへと飛んでいく。
あれで、生きているとは思えない。
余りにも現実感の無い少年の死に、思考する事も忘れて純子はカメラを大鬼に向ける。
だが純子がマグネシウムを燃やすよりも早く、大鬼共は体躯を揺らして川の向こうへと消えた。
思わず身体を乗り出してレンズの先で大鬼を追うが、
「…………あ」
――シャッターを切るよりも早く、純子の姿勢が致命的に崩れた。
「うひぃっ!? 落ち、落ちるぅっ!」「――危ないっ!」
凡そ、淑女とは云い難い悲鳴と共に、屋根から擦り落ちかける。
手をばたつかせながら屋根に取っ掛かりを探るが、恐慌を来した身体は上手く動いてくれない。
沫や落ちる寸前で、誰かが純子の襟首を掴んで止めてくれた。
「た、た、助か、 、 、」
「貴女、記者!? 何でここに居るの、危険でしょう!」
涙目でへたり込み、助けてくれた誰かの足首にしがみ付く。
叱咤する声が、安堵する純子の頭越しに落ちた。
幼さの目立つその声に視線を上げると、守備隊でも数少ない衛士の隊服を棚引かせた少女の視線と絡み合う。
「だ、だって、特ダネ……」
「記者根性って奴? 結構な事だろうけど、安全くらい確保してくれる!?」
「ご、御免なさい」
10近くは年下であろう少女の正論に、純子は泣きながら肯いを返した。
童顔とはいえ年上であろう女性の情けない姿に、少女はそれ以上何も云う事なく、周囲へ視線を巡らせる。
構える薙刀の穂先から、菫色の精霊光が炎と換わって舞い散った。
「何処、晶くん……」
「はい?」
「練兵が大鬼に追われて此処まで逃げたはずなんだけど、貴女、知らない?」
「そ、それなら――」
先程、蹴り飛ばされた少年の事だろうか。純子は震える指先で、土手の向こうを指し示す。
その瞬間、純子の指が向く先で、朱金の輝きが天と地を繋げた。
「へ!?」
「嘘。何、この精霊力」
その輝きは止まる事無く溢れ続け、それまで満ちていた瘴気を塗り替えていく。
あらゆる意味で圧巻の光景に、少女も純子も言葉を失い身動ぎを忘れた。
精霊力は、中位精霊から行使が可能となる貴種の異能だ。
だが超常の能力と云えど、限界は当然に存在する。
天と地を繋げるほどの莫大な精霊力など、純子にとって天変地異を疑うほどの規模であった。
視線の先で精霊力が渦巻き、輝く波濤となって見える範囲の穢獣を灼き尽くす。
押し寄せ溢れる灼熱は土手を越え、更に周囲へと広がっていった。
純子たちの視線の先で、朱金の輝きが浄滅の炎へと換わる。
燃え立つ軌跡が大蛇へと迫り、
―――! !! …………。
鋭く生まれた焔の尖塔が、中天に懸かる月を衝いた。
大蛇が吐いただろう末期の悲鳴すら炎に呑まれ、それを最後に一層の輝きだけを残して朱金の精霊力が散り消える。
末期の幻想と去る光景に、ただ只管に全員の意識が浚われた。
――我に返る。
手元にあるカメラを持ち上げて、純子はレンズを覗いた。
朧に輪郭を崩し始めている炎の尖塔へと向け、
心、此処に在らずのままシャッターを落とす。
マグネシウムが燃えず、シャッターの手応えも返らない。
カメラを覗き込む。閃光器の中でマグネシウムリボンは燃え尽きて、何時の間にか落ちたカメラのシャッターは冷えた感触だけを純子の指先に残した。
♢
「…………へ、編集長。今、何て」
翌日、眉間に皺を刻んだ編集長を前にして、純子は呆然と問い返した。
だが、現実が変わることは無情にも無い。
「……ボツだ」
「嘘だぁっ!?」
告げられた死の宣告に、膝から崩れ落ちて涙を流す。
だが、流石にこれは、純子を責められないだろう。
遣り手の記者が上流に集中する中、純子だけが中流域で沓名ヶ原の怪異を浄滅する瞬間を捉える事ができたのだから。
無意識で撮ったその写真は、焦点が呆けて余り見れたものでは無かった。
それでも大蛇と、その巨躯が呑まれゆく焔の尖塔は克明に写っている。
折角の特ダネ。しかも、ここまでの決定的な瞬間を入手できたのは純子だけだ。
今朝までは編集長も怒鳴る声も忘れ、上機嫌で今日の雑誌の巻頭を約束したぐらいである。
「編集長ぉっ。これ、これが没になっちゃったら、私は明日から何を食べていきゃ良いんですか!? 乾板もマグネシウムリボンも、眼鏡だって無料じゃ無いんですよぉっ」
「ええい。離せ、ドン子。
亀みたいにしがみ付きやがって!! 後、眼鏡は関係無いだろうが」
「いやだぁっっ、明日のご飯!」
それが昼前の今では掌返し、純子の悲鳴も仕方の無いものであろう。
思わず編集長の足元に縋りついて、泣き落としを仕掛ける。
こうなる事は薄々に予想していたのか、溜息を吐いて壁際へと純子を呼んだ。
「……俺だってあの特ダネを外すのは反対だった。
だが仕方無ぇだろう、検閲に引っ掛かったんだから」
「検閲? 何にも悪いことはしていませんよ。大蛇と討伐の瞬間しか撮っていないし」
「俺だって写真は検めた。
――それでも、会社の上層が否と返しちゃ文句も云えん。写真は全部、乾板ごと接収されたしな」
「せっしゅうぅ。越権じゃあないですかぁ……」
最早、口の端から魂ごと抜けていそうな泣き言を繰り返し、純子は床でいじけた。
金子の少ない貧乏記者の懐なぞ、雀が突けるほども余裕は無い。
純子の興味は、消えた乾板に掛かった金額と明日からの食事しか残っていなかった。
「……これは想像だがな。お前、何か不味いものでも写しちゃいなかったか?
――例えば洲議の密会だとか、違法取引だとか」
「百鬼夜行の最中に?」
「だよな。だが、そうでもないと理屈もつかん。
――我が社は吹けば飛ぶような三流雑誌だぞ。真実は二の次で、載るのは大抵が四方山話だと誰もが知っている。検閲だって本来は適当にしか行われん」
「そりゃあ、まぁ。知っていますけど」
身も蓋もない自社の酷評に、反論する事なく純子は同意を返した。
基本的には適当でしかない検閲が行われ、折角の特ダネを接収する。
それは、編集長も初めての経験であった。
「それが今回は、この強権だ。絶対に裏はあるんだろうが、理由が判らん。
――接収された後に探っても、証拠が返ってくる訳じゃないんだがな」
「そうですよねぇっ!?」
恨めし気に明日のご飯と呟く純子の頭に、やや厚みを持った茶封筒が落とされた。
渡されたその中身を確かめると、収められた円札の束が純子の視界を奪う。
「おおぉっ、お金ぇっ!? 何ですか、これ」
「接収はされたが、特ダネは事実だろ。
上層は評価しているみたいでな、臨時賞与だと。
――結構あるぞ、赤字を埋めて充分に足も出るはずだ」
「へんしゅうちょおっ! 一生、付いていきますぅぅっ」
「汚ねぇっ! 鼻水を付けんな、ドン子。
今日はこれで上がりにしてやるが、明日からまた外仕事だ。良いな!」
はい! 返る元気が良いだけの返事に、編集長は口元を歪めた。
喜びに勇んで去っていく純子の背中を追って、自身の仕事へと編集長も戻っていく。
平民たちの日常は、結局のところ変わらず流れるだけ。
――これはこれで、良い関係なのかもしれなかった。
TIPS:翌日の特集記事より抜粋
ダイ8守備隊快挙セリ! 光レル柱ニ消ユル大蛇!
昨夜未明、神託ニテ百鬼夜行ノ災禍ガ下サヘル。
上流デ待チ構ヘル守備隊精鋭ヲ前ニ、中流デ第8守備隊ガコレヲ撃退シタトノ報ガ入ッタ。
第8守備隊ト云ヘバ、カノ有名ナル阿僧祇厳次隊長ガ率ヒテイルト専ラノウハサ。
翌年ノ天覧試合ニ高マル期待、ソノ高名モ一層ト高マルデアロウ。
遠ク目ニスル防人ノ剣舞ニ、本誌記者モ当然ノコト目ヲ奪ハレル結果トナッタ。
(簡抜)
雄々シク聳ヘル光ノ塔ニカノ有名ナル大蛇ノ怪異ハ呑マレ、容易クモ浄滅ノ快挙ヲ上ゲタ事ハ確カデアル。
識者イハク、奇鳳院流ノ奧伝『彼岸鵺』ト推測サル。
万朶総隊長ノ主張サル作戦ノ正当性ニ、記者タチノ関心ハ如何ホドモ得ラレズ……
(簡抜)
幸運ニモ本誌記者ガソノ取材ニ成功。第8守備隊ノ副長、新倉信ハ詳細ヲ控エルトシツツモ早々……
TIPSが読み難いのはお許しください。趣味に走ったことは認めます。
だが後悔はしていない!
販促か反則か。言われるかもしれませんが、これくらいは作者の特権。
ご容赦頂ければ幸いです。
読んでいただきありがとうございます。
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