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泡沫に神は微睡む  作者: 安田 のら
五章 濫海浄罪篇
214/222

14話 天意を資するに、能わぬもの2

 寸前まで寒風だけが支配していた暮江鎮(ムージャチン)の大通りを、勢いよく少年の脚が駆け抜けた。

 その直後に轟音と爆風が吹き抜け、斑と路上を染めていた紙片が捲き上がる。


 視界を遮る紙の群舞を視界に収め、夜劔晶は剣指を振り翳した。

 振り下ろす。


「――()ッ」


 少年の意思に従い、紙箋兵であったその呪符に重ねられた別の術式が励起。紫電を撒き散らしながら、雷球がその場に顕現(けんげん)した。


 息も衝かぬその直後に、角から圧し寄せた棘の波濤が雷球と激突する。


「晶! 木行は、 、」「判っています!」


 晶の背で玄麗(げんれい)が警告を放ち、晶は怒鳴るように結論を遮った。


 シータは火行に属する神柱であり、――当然にして、パーリジャータも火行に縁が深い。

 そして夜素馨(パーリジャータ)は、植物(木行)としての側面さえも持ち合わせているのだ。


 木生火。刹那に棘が(くさむら)と雷球を衝き破り、微塵と砕いて天へと伸びる。

 ――路面を覆っていた水の鏡面に、棘の蠢く(かげ)りが落ちた。


「パーリジャータは、炎から生まれる涅槃(ニルヴァーナ)最初の樹。水行と木行が揃えば、勢いづくのは当然でしょう」

 軋む棘の群生が、鎌首を擡げて晶を見下ろす。

「私の救世で、お前(神無の御坐)の護る現世を圧し潰してあげる!」


 雪崩れるパーリジャータの向こうから、シータの勝ち誇る声が響いた。

 たった独りの神柱が生み出した不壊の群れが迫る威容に、玄麗(げんれい)が唇を尖らせて紅葉のような掌を広げる。


「それも、」


 棘の波濤が迫る際にも、神柱の手をそっと押し止めた晶の呟きが交差。

 神器の濁流へと呑み込まれる――。


「織り込み済みだ」


 焦躁の見えない晶の呟きと同時、儚い音を立てて棘は内側(うち)から溶け崩れた。


「…………は?」


 純白の棘が無数の破片に代わり、向こうから顕れる晶が無傷で歩く姿。

 予想だにしない結末に、シータは絶句した。


 パーリジャータは神器である。

 そして、ラーヴァナの九法宝典などの例外を除き、神器は本質的に不壊を有するからだ。


 神器を破壊する権能はあるにはあるが、この場に立つ玄麗(げんれい)それ(神殺し)を持ち合わせていないことも同様に知っている。


「何故」


 混乱のまま、パーリジャータを握っていたはずの己が右手へと視線を降ろす。

 そこに変わらず握られていたパーリジャータを目で確認し、漸く己の犯した間違いに気が付いた。


 パーリジャータが破壊された訳ではない。手から伝わるのは、未だ健在と応える己が半身の感触であった。


「どうだ? 自分の得意で出し抜かれた気分は。随分と新鮮だろ?」

「パーリジャータを壊した訳じゃない。…………あの蛇女(太源真女)の権能かしら」

「何のために、咲を囮にして芳雨省の風穴近くに誘い出したと思っている。

 お前自身は遷し身で制限されている今なら、太源真女(タイユェンジェンニュ)の権能の方が優先されるのは道理だろう」

「――やはり、下賤(論国海軍)は駄目ね。私の手勢と神器まで与えたと云うに、あれ(・・)の戦力を大して削ぐこともできずに終わるなんて」


 返る晶の眼差しが、何よりもシータの推測が的中した事を告げてきた。

 だからと気分が高揚する訳もなく、シータの怜悧な眼差しが苛立ちに歪んだ。


 太源真女(タイユェンジェンニュ)の崑崙に直結している風穴は6つ。それらを守護する勢力こそ、真国(ツォンマ)六教とその神器である。

 太源真女(タイユェンジェンニュ)の護りを削ぐべく、シータはこれまで論国(ロンダリア)海軍に真国(ツォンマ)六教の神器を回収させてきたが、思惑は上手く行っていないのが現状であった。


 ――加えて、

 シータは、漸く自分自身の状況へと意識を向けた。


「気が付いたか」

「お前たちが強く。いいえ、私が弱くなった?

 そうか、此処(暮江鎮)は、私を捕らえる為の罠なのね」

「そうだ。他の神柱の神域で隔絶し、内部の人間を極限まで少なくした。

 慶べよ。此処(ここ)は、お前だけを奉じる為に用意された祭壇だ」


 龍穴と云う限られた神域に留まってまで、神柱が現世を求める理由は幾つかある。

 世界の柱として秩序を維持する為、箱庭たる現世を(たの)しむ為。


 ――その為にも、奉じるものを得て、より強靭に世界へと在ろうとするのだ。


 神柱が一方的に人を守護しているのではない。その一方で、ただ(・・)人の信仰が神柱を維持しているのである。


「風穴を外れた暮江鎮(ムージャチン)なら、龍脈越しに神域を狙うお前の手管は使えぬであろう?

 (あれ)が降ろした神域で太源真女(タイユェンジェンニュ)の権能を隠せば、この程度の芸当は可能よ」

玄麗媛(げんれいひめ)。私の足元を掬って、得意の心算(つもり)? ……この程度、」


 玄麗(げんれい)の茶々に切り返し、シータは鞭剣(ウルミ)へと戻したパーリジャータを一振りした。

 僅かに歯噛みを残して、地を駆けだす。


「――逃れられぬよ。パーリジャータは其方自身。強固な象として鍛造されたそれは、今や其方専用の檻と同然じゃ!」


 玄麗(げんれい)の声に背を押され、後を追うべく晶も地を蹴った。

 直ぐに、出口に向かって大路を駆けるシータへと、晶の速度が追い付く。


 並走した瞬間に、晶は呪符を宙へと放った。


「疾ッ」


 呪符の霊糸を視界に定め、晶の剣指が虚空を斬る。――それと同時に、振り返ったシータの腕が複雑に踊った。


 ――不発。霊糸は切れる事なく、逢えなく呪符が路面へと落ちる。

 予想だにしない結果。直後に放たれた斬撃を、晶は咄嗟に横道へと回避した。


「――それ(剣指)を誰が与えたか、その恩ごと忘れた不躾どもが。

 ラーヴァナが真言(マントラ)で世界の在り様を伝えたように、私が手印(ムドラ)を其方たちに与えたと云うに!」

「自分自身で隠したものを、今更に恩着せがましいな。神話も恩も、お前自身が念入りに隠しただけだろうが」


 石と漆喰が破片と飛び散り、晶を追い縋るように鞭剣(ウルミ)が家を削っていく。

 息衝く暇もなく、晶は大路へと大きく迂回した。


 抑々、ただ(・・)人の身で神柱に挑む、その発想が常軌を逸しているのだ。

 口調だけ威勢を装ったが、晶にそれほどの余裕がある訳ではない。


 現状も、一見すると優位に見えるが、その実、追い込まれているのは晶の方。

 シータがこの準備に千年以上を費やしていた一方で、晶たちが準備できた札は限られているからだ。


 シータの手札がどれだけあるか判らない状況で、晶に残された手札は残り数えるほども無い。


 ――特に、暮江鎮(ムージャチン)の罠を相手に曝してしまったのが痛いな。


 相手に見破られる直前に自分から告げる事で、何でもない風を装ったが。――あれでシータが下手に勘繰ってくれなければ、無駄に札が晒されただけになってしまう。

 何方(どちら)にしても、これ以降に晶が採れる策は、短期決戦の一択しか残っていなかった。




 民家を削る爆風が止み、茫漠を土煙が視界を塗り潰す。

 その向こうにシータが立っていると確信し、晶は躊躇う事なく粉塵の中へと飛び込んだ。


 戦ぐ風が視界を晴らし、抜けた眼前にシータが視界に入る。

 来ると確信していたのか、躊躇う事なく相手も鞭剣(ウルミ)を振り翳して応戦の姿勢を取った。


 交差。晶とシータの斬閃が重なり、幾重にも火花を散らす。

 余裕を失ったシータが、体勢を退きつつ巻き込むように鞭剣(ウルミ)を撓らせた。


「La――、Aaa!!」


 縦に切り裂く鞭剣(ウルミ)の斬道が、絡みつくように晶の太刀を打ち据え――。

 元はパーリジャータだと云うその斬撃は、呆気なく晶の太刀を中程から断ち切った。


 甲高く悲鳴を残し、太刀から玄の神気が霧散する。


「これで――」

 それでも勢いを殺すことなく、晶は一歩を踏み込んだ。

「取り回し易くなった!!」


 刀身から零れる黒の輝きが、滂沱と視界を浚う。

 清冽な冬の気配が晶を取り巻き、瞬時に高みへと練り上げられた。

 義王院流(ぎおういんりゅう)精霊技(せいれいぎ)異伝(ことのつたえ)、――佳月煌々。


 加速した莫大な神気がシータへと届き、余さず虚空に轟き(わた)る。

 ――狙うは、シータの持つ鞭剣(ウルミ)の柄。


「月明星稀!!」


 本来は視界一帯を薙ぎ払う精霊技(せいれいぎ)が、シータの手元にのみ集中して吹き抜けた。

 勢いに負けたか、純白の杭へと戻ったパーリジャータが虚空へと舞う。


 シータが徒手となった事を確かに確認し、晶は後方の玲瑛へと視線を向けた。


「いいぞ、玲え、 、」「――駄目じゃ、晶!」


 晶の台詞を遮り、玄麗(げんれい)の警告が飛ぶ。

 その背から吹き抜ける爆風が、未だ相手の健在を告げてきた。


「私よりも、私の神器を警戒?

 ――そう。お前たちの狙いは、私を弱らせて封じる事ね」


 バレた。的確に晶たちの狙いを指摘する声に、晶は大きく飛び退く。

 逃さじとばかりに、風塵を捲いてシータが晶へと距離を詰めてきた。


「祭壇とは、神柱の神域にして封領地(・・・)

 お前たちは結局、私の救世を止める算段がつかなかった訳か」

「――く、そっ」


 徒手のままシータからの猛攻が再開され、虎と鷹を象る腕と蹴りが畳み込まれる。

 半分に刀身が目減りした太刀で衝撃を凌ぎつつ、晶はその攻めを必死に耐えた。


「救世は、末世を繋ぐ最後の希望。お前たちの一存で終わらせて良いものではないものね。

 現世に神去(かむさ)りを止める手立てが無いならば、結局は私に縋るしかないいのは道理でしょう」

「それが判っているなら、どうして大人しくしなかった!」


 晶の防御を擦り抜け、腹にシータの蹴撃が入る。

 二転三転。転がって距離を取りながら、晶は跳ね起きた。


神去(かむさ)りは何れ来る。今じゃないにしても、千か万年か。

 永劫を誇るなら、何故、その程度の短い時間を待てなかった」

「――うんざりだからよ」


 少年の糾弾を、少女にしか見えない神柱は莫迦莫迦しそうに応えて見せた。


ただ(・・)人共は口を開けば、やれ日々の辛さが、生きているのが厭だとか。私が創ってやった世に不平不満ばかり。

 ――あれを言祝いだラーヴァナだってそうよ。(盟友)を差し置いて、下らない男に惚れこんで」


 ――だから、龍穴から放逐してやったのよ。

 つまらなそうにそう断じるシータは、晶の隣に立つ玄麗(げんれい)を視界に収めて嗜虐(しぎゃく)(わら)った。


「お前はあの男に良く似ているわ。神柱(おんな)を誑し込んだ辺り、特にそう」

神無(かんな)御坐(みくら)か」

「だけど、あれよりは未熟に過ぎなくて善かった。

 太源真女(タイユェンジェンニュ)と組んで仕込んだ策は、これで打ち止めかしら?」

「さあな」

「この都を祭壇にして、私を封じる。狙いは悪くなかったけど――」


 少女の容をした神柱は、余裕を取り戻したのか頬に指を当てて首を傾げて見せた。


「そもそもからして、お前たちは私の狙いを勘違いしているわ。

 私が此処(暮江鎮)に向かったのは、此処(ここ)()が居ると思っていたからよ」


 (わら)うシータが背にした向こうで、紅に輝く神気の柱が天を衝いた。

 煌々と静かに。向こうに見える山は、信顕天教の総本山である黎隠山(リーインシャン)か。


 身構える晶へと、シータは悠然と(わら)った。


 暮江鎮(ムージャチン)は確かに風穴から離れているが、それでも龍脈の上として繋がっている。

 そしてその先にある風穴と神域には、咲が居るはずであった。


暮江鎮(ムージャチン)で罠を張ったのは下策だったわね。

 ――咲の魂魄を割る前に捕捉できたのは、私も僥倖だったわ」


 にたり。シータの神気の彩を佩いたような、紅の唇が勝利に歪んだ。


 風穴で走火入魔に備えている咲は、晶たちの中でも特にシータと縁が深い。

 神気を別け与えられた、新しい神霊(みたま)であるエズカ(ヒメ)。その契約により、手中で護るラーヴァナの九法宝典。


 そして、余り話題には上らないが、もう一つ。

 ――ラーヴァナが密かに持ち込んだ、シータの神器であるパーリジャータ。


 そしてパーリジャータは世界最多を誇るが、元々一つの夜素馨(パーリジャータ)から手折られた神器だ。


「パーリジャータの権能は、現世の外に在る龍脈で互いを結ぶ。

 崑崙は視えなくても、太源真女(タイユェンジェンニュ)の妨害さえなければ片は付くわ」

 自分の別け身でもあるパーリジャータを通じて風穴から龍穴を抉るのは、対象となるパーリジャータの位置さえ判っていれば、然して難しい問題ではない。


 残り少ない神気を総て掻き集めてでも、崑崙の龍穴を陥落(おと)しさえすれば帳尻は合う。


「救世が先になっちゃうけれど、此処(ここ)まで九法宝典に近ければ誤差の範疇。

 ――ここで救世を始めましょう」


 そう言葉を残し、シータは己に残った神気を総て、手に持つパーリジャータへと叩き込んだ。


 ――それは、混沌を(もたら)す棘。乳海に突き立つ、創世の(しるべ)

 世界を繋いだ臼の偉業を持つ、純白の神器である。


「ブーマウ・アンタハ・サンプールノーピ・スヤート、

――アハン・トゥ・ケーヴァラン・アーダルシャム・パシャーミ!」


 灼熱の神気が迸り、パーリジャータを通じて風穴へと逆流した。

 ラーヴァナが見せたように、それは龍脈越しに龍穴を穿つシータの常套手段である。


 その確かな手応えに、その場に立つ誰もが策の成就を確信した。


 ♢


 神代を含めて、この長距離穿孔とも云うべきシータの一撃を防いだ神柱は存在しない。

 何故ならば、龍穴や風穴の位置は誤魔化せても、動かす事はほぼ不可能だからだ。


 直結している風穴越しに撃たれれば、如何に防御していても神域は間違いなく破壊され尽くされる。




 所有者の意思を無視して、勝手に純白の薙刀が少女の掌中へと顕れた。


「来ました!」

「――だから云ったであろうが。あの阿婆擦(あばず)れは、失敗も反省も知らぬ。

 朕の知る限りであるなら、黴が生えきった戦術を得意満面で行使するであろう」


 少女の緊迫した報告に、別の少女の声がつまらなそうに応じて見せる。

 僅かに山の影が差し込むそこは、黎隠山(リーインシャン)の風穴の直上に在る広場。


 ひらひらと片手で仰ぐように、広場の中央に立つ太源真女(タイユェンジェンニュ)はもう片方へと告げた。


「病み上がりで耐えるなよ。

 神錬丹で魂魄を強化したと云っても、救世の一撃に耐えるほどの強度はないからな」

「ですけど――」

「其方の主戦場はこの直後だ。

 判ったなら、とっとと朕に向けてそれ(・・)を撃ち込まんか」


 揺らがぬ神柱の決定に、緊張した面持ちで輪堂(りんどう)咲はパーリジャータを構える。

 純白の切っ先は一直線に、太源真女(タイユェンジェンニュ)へと向いた。


「大丈夫ですよね」

「愚問。――放て」


 余りにも平然と神柱が応える。

 その直後に、咲の持つパーリジャータから紅く神気で象られた槍が撃ち込まれた。


 莫大な熱量に空間が軋み、撓むように広場の石畳が波打つ。

 太源真女(タイユェンジェンニュ)の編む神気と純粋な灼熱が、その中央で鬩ぎ合った。


「盗み聞いていたはずだ。――ラーヴァナは一時、朕の下に身を寄せていたと」


 槍が更に灼熱を帯び、滲むようにその先端が太源真女(タイユェンジェンニュ)の護りを穿つ。

 じりじりと。だが確かに、太源真女(タイユェンジェンニュ)との距離が狭まっていく。


 迫る神器の一撃を視界に、太源真女(タイユェンジェンニュ)暮江鎮(ムージャチン)に立つであろうシータの姿を捉えた。


「ラーヴァナは其方の手管を総て、朕に云い遺している。

 潘国(バラトゥシュ)での狙いが巧く運ばなかったら、間違いなく真国(ツォンマ)が次の標的になるだろうとな」


 だからこそ徹底的に崑崙と直結した龍脈を隠したし、主要な風穴に真国(ツォンマ)六教を置いた。

 シータの戦術を考えれば、それは当然の帰結と云ってもいいだろう。


 ラーヴァナと太源真女(タイユェンジェンニュ)の想定外は1つ。シータが先に救世の狙いとしたのは、西巴大陸の方であった事か。

 その所為(せい)で、数百年単位で策を遅延させざるを得なくなったのだから。


「ラーヴァナの分である。――その痛み、甘んじて受けるが善い」


 その言葉を最後に、太源真女(タイユェンジェンニュ)はシータの神気へと優しく触れた。


 ――その指は一つの真理、玉体は地の始まりから生まれ出た。

 ――一つが二つ、二つが四つ、四つが八つに。死から生が絶えず移ろうは、その象徴。


 世界の始まりに在った渾沌を象と知ろ示す、それは太源真女(タイユェンジェンニュ)の神域解放である。


乾・兌・(チエン・ドゥ・)離・震・(リー・ヂェン・)巽・坎・(シュン・カン・)艮・坤(ゲン・クン)


 太源真女(タイユェンジェンニュ)の呼びかけに応じ、8つ在る己の神器が応じるように見えない龍脈を結んだ。


 その直後に、太源真女(タイユェンジェンニュ)の神器が結んだ道を徹り、灼熱の槍は元居た場所へと飛翔。

 ――遠く見下ろす暮江鎮(ムージャチン)が、神代の一撃を受けて灼熱に輝いた。


 轟音。爆風が熱波を乗せて黎隠山(リーインシャン)の高みへと届き、2人の少女の前髪を揺らす。


「朕の教えを、道術(タオ)と呼ぶのはこれが由縁である。

 ――世界の外の龍脈への干渉が、貴様だけの専売特許だとでも思ったか」


 茫然(ぼうぜん)と見降ろす咲の背で、得意気に太源真女(タイユェンジェンニュ)がそう呟いた。



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