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泡沫に神は微睡む  作者: 安田 のら
四章 帰月懐呼篇
162/222

10話 明くるに未だ、霞を眺め2

先週は突然の休載、失礼しました。

再開いたします。

 雪の気配も遠く去った、翌日の明け方。

 松の枝から重く地面へと、垂雪(しずりゆき)が跡を穿つ。


「疾ッ」


 陽の差し込む高宿の中庭に響く、鋭く空を断つ閃き。

 踏み込んだ足が、ぬかるむ地面に波紋を刻んだ。


 攻め足からの大上段(火行の構え)。中段へと移り、八相に戻して脇構え。

 基礎である五行の構えが、晶の所作から淀みなく放たれる。


 久しくなかった巡る熱。白く呼気を吐く少年の背後で、舞良戸の硝子が佐々と鳴った。

 上り框に立つ誰かの気配。残雪を儚く踏み締め、咲が庭へと下りる。


「――精霊力を抑えているの?」

阿僧祇(あそうぎ)隊長との修練で気付いていた心算(つもり)だったけど、

 ……俺は確実に弱くなっている」


 精霊のさざめきが大気を揺らさないその鍛錬は、阿僧祇(あそうぎ)厳次(げんじ)が直前に課した内容。

 咲の指摘に切っ先を下ろした晶の呟きは、確かに実感の伴ったものであった。


 第8守備隊の練兵であった頃、奇鳳院流(くほういんりゅう)()ける晶の段位は四段。

 五段(開帳)が精霊力を扱うための精神修養である事を考えれば、平民としてはほぼ最高段位に晶は至っている。


「打ち込みは充分に鋭かったよ」

「踏み込む勢いで誤魔化したんだ。実際、御厨(みくりや)至心と競った際に、幾度か圧し負けている」


 至心との戦闘で斬撃に弾かれる瞬間を、晶は苦く認めた。


 刃の競り合いでの優劣は、身長と体重が大きく要因を占める。

 成長途上の晶と老練された至心の体躯で勝敗を競えば、軍配の指す方向は瞭然だ。

 辛勝はしたが、技術以前の問題が晶の成長を妨げていた。


「体幹、ね。晶くんが精霊技(せいれいぎ)を倣い始めて、未だ4ヶ月も経っていないもの。

 奇鳳院流(くほういんりゅう)の修練を急ぎ過ぎたわね」

精霊技(せいれいぎ)に重さを感じなかった。……組み上げたものから、中身だけが零れたような」


 身体限界を強化する現神降(あらがみお)ろしを始め、精霊技(せいれいぎ)の本質とは武技の伸長にこそある。

 つまり身体を仲介する以上、精霊技(せいれいぎ)には物理的な限界も厳として存在しているのだ。


 精霊技(せいれいぎ)の鍛錬とは別に、肉体の鍛錬も必須となる。

 思い起こせば阿僧祇(あそうぎ)厳次(げんじ)も、練兵の頃から事あるごとに晶たちを走らせていた。


「でも、央都であれだけの訓練を熟していたら、簡単に劣化は考えにくいんだけど」

颯馬(そうま)との仕合の、 、恐らく直後からだと思う。あの時点から考えて俺と咲の差は、

 ――多分、加護だ」

「そっか。晶くんは、あか(・・)さまと……」


 晶と咲の違い。神嘗祭の後、晶は玄麗(げんれい)に加えて朱華(はねず)の加護も享け直している。


 複数の神柱を宿し得る、空の位()の最大特権。

 大鬼(オニ)の一撃すら無傷とするほどの強度を誇る、大神柱の加護が二柱も揃えばどうなるか。


 高天原(たかまがはら)の勃興以来、空の位を得たのは晶で2人目。二重の加護が齎す結末(こたえ)を、誰一人として持っていないのだ。


「……常時、顕神降(あらがみお)ろしを行使している状態に近くなっているんだろうと思う。現実と加護の比率が逆転したなら、有り得ない可能性じゃない」

「だからと云って、加護まで閉じるなんて無茶。

 ――大丈夫なの?」

「違和感は無いけれど、疲労がかなりある。

 筋肉が鍛錬に追いついていないって、実感している最中だ」


 しとどに噴き上がる汗が晶の頬と腕を伝い、地面へと滴る。

 久しくなかった本当の疲労が圧し掛かる感覚に、晶は自然と笑った。




 茶碗に山と盛られた白飯と漬物。赤味噌の汁物で流し込むように掻っ食らい、晶は脇の目刺し(鰯の丸干し)へと箸を突き立てた。

 塩辛い目刺し(鰯の丸干し)を骨ごと噛み砕き、香ばしさが残るうちに白飯の山を頬張る。


 晶の肩と触れ合う先、咲が味噌汁から視線を上げた。

 少女の仔馬結び(ポニーテール)が、うなじに沿って流れる。


「何だか、通りの方向が騒がしくない?」

「……みたいだな、見てくる」


 垣根の向こうから響く革靴と怒号の喧騒。怪訝な咲の囁きに、晶は緊張を隠して立ち上がった。


 家人たちの忙しさを脇に抜け、高宿の主人を探して台所へと向かう。

 探している相手は、暫くもしない内に見つけることが出来た。


「御主人どの」

「おう。よく眠れたか」

「充分に。

 ――表の通りが随分と騒がしいようですが、何かありましたか?」


 大根の皮を剝く手を止め、主人の視線が明かりの差す方向を巡る。

 玄関の向こうを過ぎる誰かの気配に、主人が辟易と溜息を吐いた。


「何が起きたか、警邏隊に加えて守備隊までもが朝から総出らしい。

 雨月の屋敷で騒動のようだが、衛士殿の方が詳しいんじゃないか?」

「俺の方は何とも。

 とは云え、早めに(いとま)を請わせていただきます」

「吹けば飛ぶ宿相手に済まんな。……勝手口から回り込めば、人目を避けて駅に出られる」

「気遣いを感謝します」


 雨月の屋敷で騒動と聞けば、昨日の今日に不破(ふわ)直利の連れてきた晶たちへと不審の目が向くのは当然である。

 言外に面倒は御免だと告げられ、晶は然して落胆もせずに受け入れた。


 一晩の寒さを凌げただけでも有難いのだ。

 慰め代わりの提案に、晶は僅かと微笑みだけを残した。


 ♢


 高宿を後にした晶たちは、廿楽(つづら)の裏通りを漫ろ歩く。

 民家の垣根に白く残る雪の狭間、咲と晶は肩を並べた。


御厨(みくりや)至心の件が大事になったのかな」

「昨日の一件を公にする意味が無いと、天山でも理解はしているさ。

 不破(ふわ)先生も説明すると云っていたし、此方の予定を遅らせる真似なんてしない」

「――だと、良いんだけれど」


 晶たちの廿楽(つづら)寄りは、珠門洲(しゅもんしゅう)國天洲(こくてんしゅう)から許可を与えられたものである。

 その証明として監察札を与っている以上、雨月天山に隠蔽するだけの権限は無かった。


 立場を得ている晶たちと反対に、御厨(みくりや)至心は身分を隠して洲を跨いでいる。

 幾ら雨月天山の義父であろうとも、公務にある使者(夜劔晶)を相手に刃を抜いたとなれば、立場を無くす相手は明白(あからさま)であった。


 裏の砂利道がやがて途切れ、通りの建物越しに廿楽(つづら)駅の駅舎が視界へ飛び込む。

 華蓮(かれん)と違う疎らな人の流れへと、晶たちは紛れ込んだ。


 行き交う人が編み出す穏やかな日常を、幾人もの革靴のどたついた音が破る。


「――街道の封鎖は」

「連絡は未だです。雨月家からの催促は、 、」

「俺が宥める。兎に角、出入りを制限すれば良い」

「は、了承いたしました」


 警邏の服装を着たものたちの怒号を脇に、晶は少しだけ歩調を落とした。

 雨月に関連する何かが原因となっているのは間違いないだろう。


「――どうしたの」

「もう一つ可能性を忘れていた。雨月天山なら大事にしないけど、神無(かんな)御坐(みくら)を知らない陪臣たちなら……」


 空を断つ鋭い音。晶は呟く刹那を強引に、腰を(ねじ)りながら鯉口(こいくち)を切った。

 僅かと覗く精霊器の刀身と刃金が火花を散らし、跳ね上げるままに軌跡を虚空に刻む。


「晶くん!?」


()!」

「――暴走も有り得るよなぁっ」


 現神降(あらがみお)ろしを行使しつつ、晶の踏み込みが路面の砂利を踏み砕いた。

 先刻まで錬磨していた体幹が、巍々と揺るがず斬りかかった少年を弾き飛ばす。


 晶の手元で朱金の精霊光が舞い散り、刹那に収束。

 迸る精霊力に任せて、晶は精霊器の刀身を抜き放った。

 奇鳳院流(くほういんりゅう)精霊技(せいれいぎ)、初伝――。


燕牙(えんが)!」


 迸る晶の飛斬が、弾かれた勢いで宙に逃れた少年へと迫る。

 その軌道を阻むように、呪符が白く視界に舞った。


 一枚、二枚、三枚。少年の剣指が(ひるがえ)り、都度に呪符から霊糸が千切れ飛ぶ。

 瞬時に励起された水界符が、燕牙(えんが)の勢いを削るように圧し潰した。


 凍てつく水気が散る中、事態を理解した周囲から悲鳴と混乱が上がる。

 潮が引くように人の気配が去る中、晶は少年と睨み合った。


 一歩と譲る気の無い意志が、傲然と互いを掣肘(せいちゅう)する。


「随分と、騒ぎを躊躇わないじゃないか。

 ――穢レ擬き(もどき)を誅滅するためなら、何をしても良いとでも? 市中での抜刀(精霊技行使)は重罪と、高天原じゃなくとも(・・・・・・・・・)常識だと思っていたが」

「馴れ合い程度で死んでくれたら、興醒めだろう。――颯馬(そうま)さまがお呼びだ、付いて来い」


 吐き捨てる言葉を残し、少年が路上へと降り立った。

 騒動を聞きつけたか、同じ年頃の少年たちが晶たちを取り囲んだ。


「……誰?」

「さあ。陪臣の嫡男か、その辺りだとは思うけど。――正直、興味はない」

「それもそうね」


 剣林と囲む精霊器を牽制しつつ、咲が疑問を囁く。

 跳ねるような晶の淡白な声音に、咲は思わず納得を返した。


 見える限りの全員が、晶や咲と同じ年頃。年齢回りが合っていれば天領(てんりょう)学院へ通っていたはずだが、そこまでの末端を憶えていられるほど咲も暇ではない。


 晶の本音を耳に、斬りかかってきた少年が頬を歪める。


「釣れないな。雨月の道場で、指導をしてやった恩を忘れたか。

 犬猫でも、もう少しは貸したものを憶えているだろうに」

「ああ。あの頃の乱取りと称した多勢に混じって、(はしゃ)いでいた数匹か。

 ――どうした? 過去の勝利と人数を(たの)みに、猿山の大将が背競べに来たか」


 明白(あからさま)な少年の嘲笑。晶も負けじと、嘲笑で返した。

 押し付けられた屈辱を混ぜ返す趣味はないが、向こうから絡んできたものを譲る心算(つもり)も無い。


「……酒匂康晴(やすはる)だ。俺たちの指導を弁えん狭量に、名前以上は望まん。

 颯馬(そうま)様がお呼びである。粛々と御前(・・)に出頭しろ」

立場すら(・・・・)弁えん輩共が、一丁前に能書きを垂れるなよ。

 ――断る。出向くなら、手前ぇが足を運べと伝えてやれ」

「……吐いたな。颯馬(そうま)さまに対するその侮辱、呑み込めるほどに少なくは無いぞ!」


 侮蔑に満ちた晶の応えに、酒匂康晴(やすはる)の額へ青筋が浮いた。

 軒昂と抜き放つ白刃を閃かせ、鋭く重く踏み込む。


 叩き墜とされるその一撃を迎え撃つ、晶の太刀。廿楽(つづら)駅へと続く通りで、凶刃が鋭く火花を散らした。


「そもそもが何の用だ。

 雨月に俺を呼びつける権利が残っていないと、何度説明すれば理解するんだろうな」

「市中での精霊技(せいれいぎ)行使は重罪。それだけで、沙汰の心当たりには充分だろうが!」


 剣戟の合間に飛び交う怒号。飛び退る晶の喉元へ、一直線に康晴(やすはる)の突きが迫る。

 晶の刀身が鍔から噛み合い、火花を残して強引に流した。


「抜刀したのは手前からだろうが。何処の沙汰に甘える心算(つもり)だ、間抜け」

「ああ云えばこうと、口も随分と成長したな。俺たちの指導に、震えていたあの頃が懐かしくないか」

「――さあなっ!」


 嘲る康晴(やすはる)の挑発。記憶へと刻まれた屈辱に、晶は思わず懐へと踏み込んだ。

 至近で交差する互いの視線に、康晴(やすはる)の足が後退に蹴る。


 ――逃す心算(つもり)も無い。


 絡む体躯が離れる直前、晶は隠し持っていた撃符を相手へ押し付けた。

 奇鳳院流(くほういんりゅう)精霊技(せいれいぎ)、初伝、――鳩衝(きゅうしょう)


 ――衝撃。

 呪符を媒介にした精霊技(せいれいぎ)康晴(やすはる)を撥ね飛ばし、商家の漆喰壁へと叩きつける。


「――がっ」


 悲鳴すら轟音に呑まれ、康晴(やすはる)は瓦礫と崩れる漆喰壁の向こうへと埋もれて消えた。

 颯馬(そうま)の陪臣でも筆頭の康晴(やすはる)が一蹴されて、周囲の少年たちがどよめく。

 怖じ気すら滲む周囲に一瞥すら向けず、晶は精霊器を納刀した。


「咲。一旦は駅に……」

「晶くん」


 口を開こうとした晶の言葉を、少女が鋭く警告する。

 がらり。その視線の先で瓦礫が動き、埋もれていた康晴(やすはる)が身体を起こした。

 未だ戦意は失っていないのか、震える切っ先が晶を迷わず指す。


「決着はついたが」

「……雨月を終わらせる不忠者が。真実は如何あれ、間違いなく貴様は雨月にとっての穢レ擬き(もどき)だ」


 吐き捨てる康晴(やすはる)の糾弾に、晶の眦が歪んだ。


 過去を変えることなど出来ない。だが、その事実を承知して尚、的外れに繰り返す雨月家門に、ほんの少しだけ飽いた感情が浮かんだ。


 嘆息を吐き、晶は渾身で水気(玄麗)の精霊力を加速させた。

 黒曜の精霊力が透徹と澄み渡り、輝きはやがて煌めくほどに。


 ――相手が死ぬだろうとしても構いはしない。一撃で、その口を黙らせる。


 晶の殺意を悟ったのか、康晴(やすはる)は嘲るように精霊器の切っ先を天へ向けた。

 皮肉にもそれは、奇鳳院流(くほういんりゅう)が最も得意とする攻め足からの大上段(火行の構え)


 互いの呼気が同時に吐かれ、踏み込まんと爪先を――。


「――双方、退け!!」

 全力で急いだのだろう。息せき切った颯馬(そうま)が、2人の間へと立つ。

 (ひるがえ)颯馬(そうま)の左手が、康晴(やすはる)の肩を押さえて地面に膝を突かせた。

「どう云う心算(つもり)だ、康晴(やすはる)。夜劔殿を見つけたら連絡しろと、僕は厳命したはずだぞ」


 余程、焦っていたのだろう。その声音に、常の余裕は一切から窺えない。

 構えた晶の切っ先を右の掌で阻み、必死と言葉を紡いだ。


「夜劔殿。御気分を害された事は謝罪するが、もう一度、屋敷の方へとお戻り頂きたい」


「断る」

 颯馬(そうま)の要請に晶が決意を返すまで、寸秒の迷いすらなかった。

 息を呑む周囲に構わず、晶は足の先を駅の方へと向ける。

「屋敷に戻れとは、随分と上から目線だな。何か不満があるなら貴様の方から出向けと、雨月天山へ伝えろ」


「済まないが、それはできない。

 ――父上が身罷られた」


 迷いなく歩き出す晶たちの背中へ、苦渋に満ちた颯馬(そうま)の声が投げられた。

 意外過ぎるその返答に、唖然と晶が視線を巡らせる。


「昨日の時点では元気そうだった。――ああ、自裁でもしたのか。他人に口で圧しつけても、その度胸は無いと思っていたが」

「……自殺じゃない。雨月の母屋。父上の書斎の近くで、血溜まりと精霊器が見つかった。

 刀身に残った血痕から致命傷だろうと。現在、容疑者を追っている」

「精霊器が残っていたのか。登録されているなら、所有者ぐらいは判るんじゃないのか」

「判っているが動機も無い。混乱しているのは、雨月家も同じだ。

 ……母屋でも奥まった父上の書斎が現場だとすれば、容疑者は雨月の屋敷に精通し雨月天山に恨みを持ったものが可能性として浮かぶだろう」

「つまりは俺と云う訳か。――莫迦だろ、お前ら」


 余りに穴だらけな邪推に、晶は失笑を返した。

 確かに晶が、雨月天山を恨んでいるのは間違いない。――だが、すぐに晴らしたいかとなれば、それは違う。


 黙っていても、雨月天山は家門を道連れに潰れるのだ。

 ここで一息に終わらせてやるほど、天山には温情を向ける価値が残っていない。

 畢竟、晶には、現時点で天山を殺す必要が無いのだ。


「恨んでいる事に間違いはないだろうと、云い張るなら好きにしろ。

 ――だがもう一つの理由は、どう説明する心算(つもり)だ?」


 天山の書斎まで続く、入り組んだ母屋の通廊。そう聞いた陪臣たちは勿論、颯馬(そうま)の脳裏にも晶の可能性が浮かんでいた。

 ――雨月の屋敷に住んでいたのは、晶も同じ。母屋を人知れず抜ける方法など、幾らでも知っているに違いない。


 錯乱に近い雨月早苗(さなえ)の訴えも有り、晶は最有力の容疑者となっていた。


「夜劔殿とて、3年前まで雨月の屋敷に住んでおられただろう。

 否定するのは難しいはずだ」

「だから、莫迦だと云っているんだ。

 俺が詳しいのは、お祖母さまと住んでいた雨月の離れ周辺までだろうが。

 母屋は中広間しか足を運んだことは無いし、貴様らが浮かれていた大広間すら昨日が初めてだぞ」

「あ――」


 吐き捨てるような晶の侮蔑に、漸く思い至った颯馬(そうま)が呆然と呼吸(いき)を吐く。

 雨月の母屋に慣れ親しんだ颯馬(そうま)が晶の存在を知ったのは、晶が追放される少し前の事だ。


 当然のように罵られる晶の姿も、母屋の外側にある中広間でしか見ていない。

 指摘を受けるまで気付かなかったが、――晶は雨月の屋敷を知らないのだ。


「それでも犯人だと喚きたてるなら、証拠を以て義王院(ぎおういん)に裁可を願え。

 どの面を下げてと失笑されるのがオチだろうが、

 ――それよりも他の容疑者を探した方が有意義だと、俺は思うがね」


 嘲る晶の指摘に、颯馬(そうま)は蒼白になるだけ。

 返せるほどの反論は、思考の表面を揺らす事も無かった



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― 新着の感想 ―
[一言] 晶が天山をどう処したとして、今となっては文句言われる謂れは無いはず。 颯馬の対応も目が覚めた風に受け取る人も居るかもしれんが、これはこれで現状の彼我の立場を理解できてないので阿呆に見える。 …
[良い点] ここまで全て面白いエピソードでした。 話の進行ペースに不満をぶつける方も居るようですが、私は今のペースが丁度良いと思います。 また、定期更新を継続している点も素晴らしい。とても有難いです。…
[一言] 隔週更新にしてもええんやで
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