閑話 途上は昏く、終着は陰湿に
夜闇が広がる道の先、等間隔に瓦斯灯だけが頼りなく途上を照らし出していた。
ゆらり、ゆら。暗がりに塗り潰された向こうから、揺れる灯りと砂利を踏みしめる足音が響く。
「井實様。やはり、此度の奏上も梨の礫でしたか?」
「うむ。どうにも、義王院様方からの動きが芳しくない。
やはり、何か問題が起きているのは事実のようだな」
「旧家の方々からの無心も……」
「判っておる。……年明けまでには、何とか朗報をお届けしたいものだが」
國天洲に属する洲議の一人、井實業兼は角灯を手に先導する秘書の問いに苦く応えた。
義王院から委ねられた案件に対して、担当するものを割り振る洲議員たちの会議。
料亭で行われた退屈なだけの談合の帰り。その途上の会話であった。
國天洲に於いて洲議が保有する最大利権の一つに、地下水脈の管理権限が挙げられる。
所領持ちの華族たちに独占されていた利権であったが、現在では洲議の権限下で義王院の許可を俟つことなくその差配を下すことが赦されていた。
――高天原に於ける地下水脈の経路は、元を辿れば國天洲へと到達する。
水行の地が握る地下水脈の管理権が、洲議たちの優位性を保証しているのだ。
これは旧家、央洲央都であっても変わりはない。
井實は央都に向かう地下水脈の一つを旧家御厨家に委ねる密約を交わすことで、有形無形に留まらない支援を当てにしていた。
「全く。どいつもこいつも、保守的なものが多い。
もう少し革新を求める気概は持てんものか」
「旧来の派閥が堅すぎますからね。
水脈が吐き出す金子の流れは、それだけで利権を維持できますし」
「水源に縋るだけの無能が!」
吐き捨てる井實の口調に、隠しきれない不満が滲む。
どうにも、上手く事態が動かせない。苛立ちからか、井實の歩調に焦りが浮かんだ。
星すら見えない、不安を掻き立てるような闇の向こう。
瓦斯灯が照らし出す奥に、待たせておいた蒸気自動車が浮かび上がる。
料亭からの距離は数分も無いはずだ。
周囲から圧し潰してくる塗炭の闇に、國天洲ではまだ珍しい最新技術の塊は否応なく安堵を与えてくれた。
此処までくれば、角灯の光量は誤差程度に落ちてしまう。
腹心は角灯の下部にある調節の抓みを絞って、灯りを消した。
「……その角灯、使い心地はどうだ?」
「悪くないですね。見た目よりも燃料は入りますし、燃え方も具合が良い。
どうやって空気を入れ換えているのか、風防にも煤が付いていない。
國天洲の厳冬に耐えられるかは、今年の冬次第でしょうが」
「高天原よりも北方の侑国から輸入した角灯だぞ。
船乗りの粗野な扱いに容易く耐えると、向こうの商人が胸を張った一品だ」
高天原と北境海を挟んだ大国、侑国から密輸した角灯を覗き込み問いかける。
腹心の応えは満足のいくものだったか、井實の口調が上機嫌に弾んだ。
角灯は、蝋燭が一般的だった過去から電気式が普及のする現在までの短い期間、爆発的な人気を見せた時代の光源である。
華蓮では廃れつつあると聴くが、地理的にも珠門洲から遠く文明開化に遅れのある國天洲では未だに現役を誇っていた。
「侑国に留学させた奴らからの連絡は届いているか?」
「……無事に過ごしてはいるそうですが、基盤を築くに信頼は足りていないと。
運悪く難破しただけの学生たちですので、先進国の知識を学ぶくらいは許されても外交権限はありませんし」
数年前、井實が直々に選出した学生たちが釣りの最中に運悪く難破したのは、巷を席巻したこともある有名な話題であった。
北境海の海流に流されるままだった彼らが、幸運にも侑国の漁船に救助されたと一報が届いたのは去年の暮れ。
偶然にも学生たち全員が語学に堪能だったこともあり、予定通り大国の厚意に縋ってそのまま留学が叶ったのだという。
「――この角灯を見ろ。随所に鏤められた、西巴大陸に劣らずの技術力。
北土の大国を、雪に埋もれた辺境と見る馬鹿どもに見せつけてやりたいわ」
「御深慮、察するに余りあります」
「流行りばかりで世事に疎い南部だけ交易の口が開かれているなどという不公平、許容できている奴等の気が知れん。
見ていろ。義王院と央都の糸口は、雨月さまが繋げて下さった。
後、北境海に港を開拓すれば、國天洲に交易の未来が拓かれる」
「向こうの外交官殿は何と?」
「――北方港が拓かれれば、私の着任に期待を寄せると。
領事館の移設にも、前向きに返事を戴いておる」
角灯を腹心に戻し、井實は自動車に乗り込んだ。
――汽缶から蒸気が吐き出され、駆動音が車内を満たす。
高天原で漸く技術が追い付き始めた蒸気機関の音に身を委ね、北方港を見下ろす自身の姿を妄想した。
侑国との交易路独占を目的とした街の建設こそ、井實の人生を賭けた野望の集大成。
莫大な富を生むであろう港湾に君臨する。八家すら一目置き、四院も意見が無視できない存在。
目算では10年後にそうなっているであろう自分に酔いしれ、後部座席に大きく身を沈めた。
その夢想に酔う井實は、侑国が真に求めているものに気づきはしない。
気付いたところで、現実から都合よく視線を背けるだけであろうが。
――代表としての名称は何が良いであろうか?
つらつらと埒も無く思案し、泡と浮かんだ文字列を舌にそっと乗せてみる。
「北辺監査方統括、井實業兼。
――どうだ、良い響きだと思わんか? ん」
有頂天に口にしながら、準備を終えて運転席に乗り込んだ運転手へと戯れに声を掛けた。
話が見えずに眼を白黒とさせる相手を置き去りに、対面へと座った腹心の男が太鼓を持つ。
「全く以って井實さまに相応しい、威光を背にした響きに御座いますな」
「はは。そうだろう、そうだろう」
問答と云うよりも戯れ言の応酬。運転手に出発の意を込め、井實は右の掌をひらりと振る。
事実この日は、井實の人生に於いて最高潮を迎えていた。
野望にもうすぐ手が掛かる。成し得た偉業と共に國天洲の歴史に己の名が燦然と刻まれる様を幻視して、蒸気自動車が駆動する直前の一際高い音を――。
「――一寸とばかり、邪魔するぜぃ」
車内に満ちる浮かれた気分は、闖入者の声に敢え無く霧散した。
制止する間も無く扉が引き開けられ、声と共に誰かが井實の隣に割り込む。
短髪に浅黒い肌をした小兵の男性。車内に闖入したというのに、邪気の無い笑顔を井實に向けた。
「な、何だ、貴様!」
「俺を知らない? かっ! 嘆かわしい、これでも家名だけは売れているのが自慢でね。
――まぁ。実情は? と訊かれれば、ご覧の有り様ではあるが」
呵々と自嘲も交えて哂うその男性は、洋装と和装を合わせた流行りの装いをしていた。
和装の奥襟。その奥から覗く、匕首よりもやや長い程度の短刀。
毒気を感じさせない笑顔と裏腹の物騒な存在に気圧された井實たちは、無言の内に沈黙を強いられた。
相手の心情を理解してか、……それともそんな事には興味も無いのか。
黙り込んだ井實たちを放り出して、男は腕組みをしながら自身だけの雑談に耽る。
「いやね。娘が主家に青田買いされた時なあ、我が家にも日の目が向くと慶んだものだが。こうなると一向に洲都から帰ってこようとしない。
郷里に顔を出せとせっついても、年の明けに面倒くさそうな表情を浮かべたままときた。
――まぁ、そうなっても仕方の無いくらいに田舎ではあるんだが」
誰も期待していない身上話を聞かされたとて、反応のしようがない。
男性の論点がずれた独り語りは続く。
酒の匂いはしないが、料亭の多い地域からして酔漢の類か。少しばかり緊張が解けた腹心と井實は困惑の視線を交わし、無言の催促を受けた腹心が口火を切った。
「済まないが、何方らかと勘違いさ――」
「今年もそうだ。年度の報告に上がったってぇのに、娘はさっさと入れ違いで央都の学院に向かっちまったってぇんだから薄情な話だよ。
――まぁ、そこで聴かされた情報に騒いでたんで、娘の不在に気付いたのは一日経った先刻だったんだがね」
「済まないが!」
男性が口にしている民衆芝居の蓮っ葉じみた伝法調に、最初の緊張が薄れた腹心がやや強い語調を投げる。
言葉が尻切れ蜻蛉に断ち切られ、男性の視線が腹心の方へと向いた。
「何でぃ」
「誰かと勘違いしていないだろうか? 此方は洲議の、」「井實って小者だろう? 知っているよ」
肩を竦めた返事と共に、勘違いの線は消える。
しかし、強引に乗り込まれた挙句、聞かされたのは興味も無い己語りだ。
流石に困惑から黙り込まざるを得なくなった腹心に代わり、仕方なしに井實が口を開く。
「私を知っているなら人違いの線は無いな。
――これでも忙しい身、手短になら用件を聞いてやる」
「お、話が分かる御仁だ、嬉しいねぇ。
実の所、俺の名前を知ったら、全員が全員、話を長引かせようとせがんできてね。
こっちも気ぃ遣いさぁ、元から長話を誤魔化そうとするのが癖になっちまった」
恐らく、嘘を交えるのは好まない類いなのだろう。呵々と笑う声に嫌味なものは感じなかった。
だが、追従する気もない。眼光を強めて井實は無言で続きを催促。
空気を読んだのか、男性も軽く肩を竦めて視線を天井に向けた。
「三ヶ岬の領地。――応。北の岸壁辺りに間者を派遣してんの、あんただろ。
邪魔なんだよなぁ、退いてくんない?」
「は。語るに落ちたな。大方、依頼主は周辺の領主か。
――断る。あれは國天洲の将来を切り拓く、乾坤一擲の光明だ。
既得権益に縛られた封領地の虫共に意見される謂れはない」
惚け顔の男性から投げられた要請を、井實は鼻で嗤ってやる。
井實の野望が領主たちの理解を得られないことは覚悟している。目の前の男性は、その辺りが向けてきた仲介役か手勢だろうと目算を付けた。
こういった類との鉄火場も、井實は何度か経験もしている。
退けと云われて怯むほど、井實は修羅場を知らない訳では無かった。
「既得権益はお互い様だろう。
――水利権を独断で手放して央都の旧家に尻尾振った時点で、お互い様のどっこいさ」
「水利権の移譲は、國天洲に定められた洲議の権限に於いて赦されている。
貴様如きが意見を語る資格はない」
「騙るも何も。北方港のために土地選定はするなってことだ。
その港だって、許可を央都、資金を侑国って集めているんだろう? 義王院家を無視して、寄生虫紛いの立ち回りは好かれんぜぇ」
「貴様っ、崇高な私の理念を、俗人の尺度で嗤うか!」
どこまで実状を掴まれているのか。突かれて困る事実を口にされて、井實は逆鱗とばかりに怒気を吐いた。
侑国は勿論の事、央都も國天洲の外に存在している。管轄の違うものに権利を与えるのは、洲議として明確な裏切り行為だ。
――特に侑国の支援を受けている事実は、国家反逆とも見られる。
雨月にすら伝えていない事実が露見している。現実を受け止められず、井實は殺意を籠めて男性を睨んだ。
陥った窮状に、半ば腰を浮かして激昂を見せる。
感情の制御を意図的に外し、上位精霊の威圧を余すことなく男性にぶつけた。
口塞ぎを目的とした威圧による封殺。車内という限定空間での交渉に逆転の目を見るための井實の手管を、隣の男性は眉根一つ揺らすことなく嗤って流す。
「その尺度でしか動いていないから嗤ってんだよ、凡俗。
抑々、侑国が本気でお前を支援しているとでも思っているのか?
北土が欲しいのは、自国の都合で好きに通れる大洋に繋がる不凍港だ。――手前ェの価値は体の良い使い走りが精々だな」
「貴っっ、様ぁぁっ!!」
己の半生を掛けた野望を嗤い飛ばされ、井實は懐に隠し持っていた撃符を引き抜いた。
金撃符。急激に膨れ上がる内圧に、蒸気自動車の扉が弾け飛ぶ。
緊急時の手順に従い腹心が水撃符を引き抜く瞬間を背に、井實は車外へと転び出た。
金生水。相生関係を利用した威力の上積みは陰陽師の技術であるが、暴走前提で行使するなら呪符を励起するだけでも可能な方法である。
凍てつく衝撃を覚悟して地面に伏せる井實は、一向に襲う事の無い爆発に背後を振り向いた。
扉を舐める青白い焔。確かに励起した呪符が結果を伴わないまま無為に散る光景に、井實は思わず瞠目した。
咽喉を一突きにされたか、既に息の絶えた腹心が外れた扉の端からずるりと落ちる。
物体に成り果てたその身体を押し除けて、男性が地面に立った。
「――娘が央都行きで入れ違いになってくれたのは、良い誤算だったかもな」
じゃり。井實の未来を暗示するように地面を踏み躙る音を立て、男性が降り立つ。
人間一人を殺して崩れる様子の見えない口調が、一層不気味に井實の耳朶を打った。
「こういった汚れ仕事は、余り女子供に見せたいものじゃないからねぇ」
「く、く。私を殺したところでどうとなる。
――國天洲が他洲に一歩譲っているのは、貴様らも周知のはずだ。
仮令、侑国や央都に魂を売ったと論われても、このままでは浮かぶことも無いままの将来よりかマシであろうが!」
劣勢に打開も見えない状況、井實の反論が口を衝く。
國天洲の将来を真剣に案じる憂国の士が、目前に控えた野望の達成を見ることなく暗い道端で果てる結末。それは井實にとって受け入れ難い現実でもあった。
「どんな非難を受けようとも、世界に國天洲が在ると証明せねばならんのだ!!」
「――ああ。良いんだ、良いんだ、んな事ぁ」
本心を糊塗した井實の叫びは、ある意味で本音でもある。
真に迫ったその叫びを、それでも男性は迷惑そうに掌を払って返した。
「そもそも、手前ェの所業は俺にとっちゃあどうでも良い事でな」
「な、 、に」
「本命の理由は別に有るんだ。
まぁ、手前ェの生命は次いでも次いで。前座の前辺りが精々だな」
「ふ、巫山戯るな! 私の野望を踏み躙るのが次いでだと!?
そんな暴論、受け入れられる訳も無いだろう!」
どうでも良さそうな男性の呟きは、それでも井實の理解できる事実では無い。
死の間際すら忘れて、井實は男性に噛みついた。
「認められるか、こんな仕打ち!
名前も知らん兵六が、世界を相手取るこの井實業兼を前座扱いだと」
「正確にゃあ、前座ですらない。
総てが終われば、
――ああ、あったなそんなのも。で忘れてしまう程度だ」
如何、叫ぼうとも、男性の口調は崩れてくれない。
分の悪さに、立ち上がった井實は二、三歩の後退を見せた。
僅かに間合いが開くも、直ぐさまに男性の一歩が詰める。
相手が見せる揺るがない一歩。確かに窺える技量の差を敢えて無視し、井實は慎重に間合いを測った。
彼我の距離は、凡そ3間。僅かに足りないが、それでも反撃と賭ける価値はある。
相手に悟られないよう気息を整え、井實は浅く腰を下ろした。
脇構え。攻めにも護りにも移れるように、歩法を中庸に保つ。
「お。逃げる心算かい?
良いねぇ。生き汚いのは、華族にとっちゃ美徳だしな」
「――――逃げる?
無礼てくれるな雑兵。貴様如きに背を向ける井實業兼だと思うなよ!」
決然と吐き捨て、井實は水撃符を放った。
励起と同時に、水気の塊が男性の顔面へと向かう。
単純な呪符の攻撃が通用しないことは想定済みだ。故に、この水撃符は目晦ましの価値しかない。
――本命は、
腰から素早く匕首の精霊器を抜き放ち、呼吸に紛れて練り上げた精霊力を注ぎ込んだ。
義王院流精霊技、初伝――、
「偃月!!」
水気の三日月が虚空を斬り断ち、彼我の距離を疾走り抜ける。
戦闘の素人である井實をして、勝利を確信できるほどの完璧な奇襲。
視界を塞ぐ水撃符に対処しても、偃月を防ぐ手段はない。
仮令、水撃符を無視して偃月に対処できても、視界が奪われたままでは井實の追撃に耐えられるとは思えない。
圧倒的な優位から来る相手の油断を完璧に突いて、井實は更に追撃を重ね、 、 、
――散。
「……………………は?」
夜闇を断ち切る斬閃が水撃符諸共に偃月を処理するさまを見て、井實は今度こそ思考が致命的なまでに止まった。
音すらなく舞い散る精霊光。想像が一切つかない初めて見る事象に、井實の手が止まった。
「姑息だが、良い手管を行使うじゃねぇか。
少なくとも、俺は好きだぜ」
わざと開けたのだろう、奥襟に男性の家紋が覗く。
――二つ扇に一枝の梅花。
その現実を理解できないまま、井實は有りっ丈の水撃符を叩き込む。
その度に相手の白刃が閃き、水撃符は燃えるだけの紙へと変えられていった。
義王院流精霊技、異伝、――白夜月。
やがて、手持ち全ての水撃符が青白いだけの焔と散った頃、そこに残るのは男性と肩で息をする井實のみ。
「……同行殺しが、私に一体何のようだ」
全てを悟ったらしい井實の呟きに、
男性。――同行家当主、同行晴胤は、どうでも良さそうに眉間を掻いた。
「死ぬ理由についちゃ、あの世でゆっくりと考えてくれや。
まぁ、表向きの理由は事故になるし、探ったところで侑国との密通が精々だがね」
「ふ、ふ。侑国の密通容疑が精々だ、と。國天洲の未来を賭けた私の野望が、その程度だと?」
國天洲の歴史に燦然と刻まれるはずであった己の偉業を、当主自らとは云え八家の端如きに鼻であしらわれる屈辱。
理不尽な暴力による結末、悔しさのあまり井實の眦に涙が浮かんだ。
だが、最後に残ったその抗弁すら、
「國天洲の未来、ねぇ。
勘違いしているようだが、手前ェ程度が策動する事例が初めてだとでも思っているのか?」
「何、」
「帝国主義の侑国が南征政策を打ち出して早100年だぞ。
侑国の唆しは毎年の事だし、手前ェのように煽てられて調子に乗った奴は10人に1人は出てくる」
短刀を正眼に構えて、同行晴胤はゆっくりと精霊力を練り上げた。
戦闘の素人である井實にも判るように、ゆっくりと。
「同行は高天原で家名は通っていないがね、大陸、特に侑国の方面では悪名が高い。
自慢じゃないが、大陸と殺り合った数だけ見れば久我よりも多い」
同行家は、義王院より大陸の干渉を防ぐことを第一の目的に定められた華族である。
自領に引き籠っているように見える理由は、基本的に高天原にはいないという事実を隠すためでしかない。
その総ては、高天原の安堵を護り切る意思が故。
八家第七位、同行家。
「巫山戯、 、 !!」
井實の咽喉から、己を否定された哀切が迸る。
だが、その呼吸が尽くされるよりも疾走く、晴胤の斬閃が井實の首を断ち切った。
くるり。視界が回る。
「――つまんねぇ仕事だぜ、全く。
娘に嫌われてまで、続けたい家業じゃ無ぇなぁ」
急速に意識が暗闇へと呑まれていく中、晴胤の常と変わらない独り言が井實の耳に遺った最後の形あるものであった。
拙作「泡沫に神は微睡む」を読んでいただき、ありがとうございます。
皆さまの応援有って、拙作の続刊発売が6月に決定いたしました。
この後、活動報告にも出しますが、カドカワBOOKS様より拙作の応援コメントを募集させていただきます。
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