急章:叶わぬ望み-17
クートゥに語り掛けて来た存在……それはあの剣を手にしたその日から自身を苦しめ続けて来た憎きスキル《暴食》でした。
スキルという存在は物にもよりますが、強力な物や特殊な物には屢々スキルそのものに意思が芽生えている事があります。
今語り掛けて来た《暴食》もまた、その内の一つという事になるのですが、当然クートゥはそんな事は知りません。
彼女は若干混乱し、頭の中で《暴食》を名乗る存在についての様々な疑問が浮かび上がりましたが、今は何より最も重要な事を最優先で訊かねばならない、と《暴食》へと質問を投げ掛けます。
(さっきの問題無いって……スターチスは私みたいにはならないって事?)
(『そうだ』)
(なんで、そんな事が判るの?)
(『お前の今の身体。俺の権能が暴走したせい。封印されてたせいで溜まって、澱んで、濁った俺の権能がお前に一気に入って。それを受け止められる身体に成った。それが今のお前の身体』)
(っ!? それじゃあ、アレは……)
それはクートゥにとって衝撃的な真実でした。
あの「何でも願いを叶える剣」を手にした際に聞こえた悪魔のような声……。あの声が言うには自分の醜い姿は過ぎた大願を叶えようとした代償だと、そう言っていたのです。
もし《暴食》の言葉が真実ならば、つまりあの時に嘲笑っていた声のいう代償というのは真っ赤な嘘だという事。彼女をより深い絶望に落とす為の欺瞞だったという事です。
(は、ははは……私は最初から最期まで、本当に愚かだ……。だけど……)
そう。それはつまり《暴食》がまだ自分の中にある限りはいくらスキルをスターチスに持って行かれようと彼は化け物にはならないという事に他なりません。
ただ問題は《暴食》までもがスターチスへ渡ってしまう可能性があるという事ですが……。
(さっき問題無いって言ったけど、アナタはスターチスの所へは行かないって事なの?)
(『ああ。俺達〝大罪〟は相応しい奴にしか宿れない。それにお前の中で初めて覚醒したから、お前の……魔族の魂に馴染んだ。だから人族には合わない』)
(それ、本当? 無理矢理入っちゃったりは……)
(『出来なくは、ない。ただかなり無理する。負担が大きい。普通の魂じゃ、無理』)
(そう。……そう)
クートゥはホッと胸を撫で下ろします。
愛しい我が子が自分のようにならないのならば、最早彼女に心配する事は無くなったのです。
自分の力だった不死性や膂力が彼に備われば、例えまだ十一という頼りない年齢でも生きていけるでしょう。
賢い子に、と様々な本を読ませたおかげで、一般的な教養もある程度は身に付いています。
母親を気遣い料理だってお手の物。その手腕があれば食い扶持に困る事もありません。
自分が居なくても、スターチスは生きて行ける。
そう、クートゥは納得します。
大丈夫……大丈夫……。
……。
…………。
…………ああ、寂しいな……。




