急章:叶わぬ望み-8
ちょっとした総集編みたいな感じですね。
一気読みしている方は前後のみを読んでいただいても恐らく差し支えないです。
クートゥは愛息子スターチスに、自身の人生の全てを聴かせました。
魔族の国で女として生まれ、男にも勝る程の剣術をその手にしていた剣士として国の期待を背負っていた事、そしてそれに誇りを持っていた事。
そんな祖国を守る為、竜退治へ向かい英雄になってくれと国王に命ぜられ旅に出た事。
しかし自身に竜を倒す程の実力が無い事を悟り、親友に聞いていた「何でも願いが叶う剣」という眉唾な言い伝を信じ、竜にも勝る力と身体を手に入れようとした事。
散々迷い、色んな人を助け、助けられを繰り返し、漸く見付け出した「何でも願いが叶う剣」を手にした事。
ですが歪んだ形で強くなるという願いが叶えられてしまい、自身の姿がこんな化け物のように落ちぶれてしまった事……。
『ふふふ……。わだじ、ぼんどうにばがよね……。よぐをがいで、ごんなずがだになっで……』
『お母さん……』
『ごめんなざい、どぢゅうだっだね。でも、このざぎはぼんどうにひどいがら、づらがっだら、いっでね』
『う、うん……』
そこから先の、自身が化け物になってからどうしたのかも、クートゥは包み隠さず話し出しました。
現実が受け入れられず、叫びながら当てもなく彷徨い走った事。
嘆き、叫び疲れて立ち止まった所が偶然にも祖国の側の森であり、そこでは自分が居なかった間に戦端が開かれてしまっていた事。
気になり様子を見た際、親友が敵国に襲われていたのを目撃し、助けに入った事。
化け物の姿である自分を見た親友が自身の背中を剣で貫き、いくら自分はクートゥなのだと言っても信じてくれなかった事。
そして偶然怪我を負わせてしまった瞬間に意識が飛び、うろ覚えではあるが、恐らく親友や国の仲間達を食い殺してしまった事……。
『そんな……お母さんは友達を……』
『いいの。だっでわだじ、ごんなんだから……。ぞれにわだじは、ゆるざれないごどをじだ。ずぐいようのない、ね……』
『……』
『ぞんな、がおをじないで……。ぐるじいおもいはじだげれど、あなだに、あえだもの』
クートゥは確かに後悔していました。
自分の欲張った願いの末路であるこの姿が忌々しく、あの時にあの時に、と自身の姿を見る度に夢想し、考えない日は一日だってありません。
ですがそんな苦悩の毎日を耐える事が出来たのは、紛れもなくスターチスの存在があったからでした。
『わだじにどって、あなだは、ぎぼう……。ごうじでぐるうごどなぐ、あなだの母親どじで、じがんをずごぜでいる……。ごれいじょう、もうなにもいらない』
『お母さん……』
クートゥの心の中心にあるのは最早《暴食》などではありません。
そこにあるのは紛れもない____
『っ!?』
突如、クートゥの鋭敏な聴覚が異音を捉えます。
幾つもの金属が擦れぶつかる音が乱雑に鳴り、それが棲家を取り囲むようにして徐々に近付いて来る音でした。




