急章:叶わぬ望み-7
その日の夜は大いに盛り上がりました。
何気ない……些細な事をただお互いに話し合ういつもの会話ではありましたが、それでも目の前に広がるご馳走が、そんないつもと同じ会話に花を添えてくれていたのです。
いつもは食欲に任せついつい早食いしてしまうクートゥも、舌に広がる芳醇な味と花を抜ける甘美な風味にゆっくりと味わい、愛する息子と存分に笑い合いました。
そして宴もたけなわを迎えようとした頃。何かを決心したように真剣な面持ちになったスターチスは、改めてクートゥへと向き直り彼女の四つある目を真っ直ぐ見据えます。
『どうじだの?』
『お母さん……。お母さんのお陰で、ボクは今日で十一回目の誕生日を迎えられたよ。本当に、ありがとう』
『スターチス……』
思わず涙ぐむクートゥ。しかし次のスターチスの言葉に、その涙が一気に引いていきました。
『だからお母さん。お母さんの秘密、教えて』
『え゛っ!?』
思いもよらなかったスターチスの言葉に意図せず荒い声を上げてしまったクートゥは、少しだけ混乱した頭で先程の息子の発言をなんとか噛み砕きます。
(この子……なんで……)
クートゥは一応、自分が人間ではない事は伝えていました。
生まれてから余り人間と関わってこなかったスターチスではありましたが、将来もそうであるとは限りません。
いつかもっとスターチスが大きくなり、一人でなんでも出来るようになってから困らない為に、クートゥは攫って来た人間に手伝いをさせるのと同時に「アレが人間なのだ」と教えていたのです。
ですがそこで生まれる当然の疑問……「ならお母さんは何なんだろう」という疑問がスターチスの中で浮かびましたが、聞く事など出来ませんでした。
聞きたい気持ちはありましたが、クートゥの心情を慮ることが出来たスターチスはその秘密がきっと、母親がずっと抱えている悔恨にも繋がるものなのだと、半ば確信していたのです。
なのでスターチスはずっと決めていたのです。自分の歳が十を過ぎたら、思い切って母親に訊ねよう、と……。
『な、んで……』
『本当はねボク、お母さんが何か隠してるって分かってたんだ。でもボク子供だから、お母さん心配して話してくれないと思って……』
『だがら、このひまで、まっだの?』
『うん。お母さんボクね。もう大丈夫だからっ! 難し過ぎるとわからないかもしれないけど……。でもボク、ちゃんとお話聞いて、わかるようになるからっ!! だから……』
『……そっか』
必死に自分を理解しようとしてくれている愛息子にクートゥは再び四つの目に涙を溜めると、そんなスターチスへとゆっくり寄り添い、優しく抱き締めます。
『お母さん?』
『ありがとう……ありがとうスターチス……。わだじ、ほんどうにうれじい……。うれじいよ……』
『うん……』
『わがっだ……。ちゃんどはなず……。はなずがら、ちゃんど、ぎいてね』
『うん……うん……』
そうしてクートゥは、徐に自分のこれまでの経緯を、話し始めました。




