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急章:叶わぬ望み-6

今日は忘れませんでしたっ!!

 


『ん? おかえりなさ____わぁっ!! 凄く大きなエモノだねお母さんっ!!』


 棲家の入り口から物音がしスターチスが振り返ると、そこにはクマの魔物を担いだクートゥの姿がありました。


 彼はエモノを見て満面の笑みを浮かべると開口一番にそう言い、クートゥへと駆け寄ります。


『うんがよがっだ。まものだがら、ごちぞうがでぎる』


『そうだねっ! うーん、多分美味しいと思うけど、一応焼いて味見してみようっ! それでどんな料理にするか決めるねっ!』


 笑顔でそう言うスターチス。しかしその言葉を受けたクートゥは少しだけ申し訳なさそうに眉を(ひそ)めました。


『ごめんねスターチス。ぎょうはスターチスのだんじょうび、なのに、ごぢぞう、づぐらぜちゃって……』


 クートゥは日頃からスターチスに申し訳ない気持ちを抱えていました。


 それは自分の化け物の姿のせいで家事全般がまともに出来ず、力加減を間違えるとすぐに物を壊してしまうからです。


 まだスターチスが赤ん坊や幼な子であった頃は出来る事だけを何とかこなし、どうしても出来ない事は攫った人間にやらせ、彼を今のような立派な姿に成長させる事が出来ました。


 しかしスターチスが今ほどまでに大きくなった頃、彼自身が率先してクートゥの手伝いを買って出たのです。


 それからは生活水準が上がり、今現在のようにスターチス中心で生活が回るようになりました。


 その事を嬉しく思ったクートゥではありましたが、同時に母親としてまともな事をしてやれていない、と内心で嘆くようになったのです。


 今日のような誕生日は特に顕著で、クートゥの本心としては、まだ自分が化け物でなかった頃に両親にやって貰っていたようなもてなしを、スターチスにしてあげたいと強く思っていました。


(……こんな身体で、なければ……)


 クートゥはスターチスに悟られぬよう奥歯を強く噛みながら、あの日欲張ってしまった自分と、自分をこんな姿に変えたあの声の主を強く、強く呪います。


『……お母さん?』


『っ!?』


 黙り込んでしまっていた事に気が付いたクートゥはなんとか笑顔を作ると「えもの、がいだいじでぐるね」とだけ言い残し、魔物を解体しに別の部屋へと向かいました。






『……お母さん、また……』


 スターチスは、そんなクートゥの心情を全て理解していました。


 スキル《心情感知》により他者の感情を万全に理解出来る彼は、物心付いた頃からクートゥが向けてくれる無尽の愛情と庇護欲をしっかりと受け取り、それに応えたいと日頃から思っていたのです。


 彼が母を手伝いたいと申し出たのもその一環であり、自分が手伝う事で喜んでくれる母に、スターチス自身も嬉しくなっていました。


 そして同時に、彼は母親から伝わって来る愛情と同等なだけの悔恨と怨恨を抱いている事も、理解していたのです。


 それが自分に向けられたものでは無いのは充分に分かっていました。


 ですがそれだけの感情がどこから来ているのか知らないスターチスは、日々その感情に不安を覚え、同時に母が心配でなりませんでした。


 スキルにより同い年の少年少女よりも精神年齢が高くなっていたスターチスならば、打ち明けられればもしかしたら母の気持ちを楽に出来たかもしれません。


 しかしクートゥはスターチスがそんなスキルを持っている事も、ましてや自分だけが抱えている感情を理解している事も知るよしもありません。


『いつか、僕が大人になったら、必ず恩返しするからね。お母さん……』


 スターチスはそう心に誓うと、気を取り直して料理の支度を始めたのでした。

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