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破章:暴食と小さな幸福-7

 


 クートゥは困惑します。


 何故この赤ん坊がこんな化け物の自分を見て笑っているのか分からず、開こうとした口を思わず止めてしまいます。


『な゛、な゛ん゛で……わ゛ら゛っでる゛の゛?』


 そう赤ん坊に問うてみましたが、当然赤ん坊にそんな言葉は理解出来ません。


 ただそれでも、赤ん坊は笑顔を絶やす事なくしっかりとクートゥの事を見て笑っているのです。


 赤ん坊は感じていました。


 四つの目から注がれる視線。


 極力尖らないように気を遣った口調。


 決して傷付けないよう優しく抱えてくれる両手。


 それら全てから、赤ん坊は慈しみを正しく感じ取っていました。


 そう、赤ん坊にはクートゥが誰より〝人〟に見えていたのです。


『ど、どゔじよ゛ゔ……』


 クートゥは更に困惑します。


 いっその事自分を怖がり、泣いてさえくれれば何かと自分に言い訳をして赤ん坊を丸呑みに出来たでしょう。


 もしくはもっと化け物としての本能や狂気に意識が溶け込んでいれば、そんな迷いすら生まれなかったかもしれません。


 しかし赤ん坊は彼女の本質を《心情感知》で見抜き、見透かされたクートゥもまた、微かに残った良心が赤ん坊を食べる事を拒絶してしまいました。


 それによって今のような膠着(こうちゃく)状態に陥ってしまったのです。


『ぞ、ぞゔだ……ま゛ぢに゛がえ゛じで……あ゛』


 クートゥはそこで何かに気が付くと、自身の身体を()めつ(すが)めつして見ます。


 一般的な容姿の者ならば、赤ん坊を拾ったとしても街などにある協会や相応の施設に預けられたでしょう。


 ですが溜め息が漏れてしまう程に痛感した自分の今の身体では人が住む場所に姿すら見せる事が出来ません。


『……も゛ゔ、お゛い゛ぐじが……』


 と、そう結論を出そうとした瞬間、赤ん坊の顔が途端に歪みだし……。


『オギャーッ! オギャーッ! オギャーッ!』


『え゛っ!? あ゛、あ゛ぁ、ご、ごめ゛ん゛ね゛っ!! よ゛、よ゛じよ゛じ……』


 泣き出した赤ん坊を、クートゥは必死にあやします。


 自身を揺り籠のように左右にゆっくり揺らし、どう足掻いても怖くなってしまう顔を、なんとかしてマシになるように動かします。


 すると赤ん坊は笑顔を取り戻し、再び愉快そうにクートゥを見て笑い出します。


『はぁ……。お゛い゛でい゛ぐな゛ん゛で、でぎな゛い゛……』


 八方塞がりのクートゥ。


 いえ、決してどうする事も出来なくなったわけではないのです。


 一つ、残された道がありました。


『……い゛っじょに、ぐる゛?』


 クートゥがそう言うと、赤ん坊は彼女に向かって一層嬉しそうに笑いました。

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