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1-93 決着


突如出現した巨大ゴーレムに魔人グァルデも虚をつかれたのか、僅かに動きが止まった。


「先手を取るぞ、エーテリアル・パニッシャー!!」


魔操銃にコマンドを入力すると左腕となった『ボルディア』の魔力弓が展開し緑光の粒子が収束する。矢の形を取った魔力エネルギーは、螺旋の尾を引きながらグァルデの肩に深々と突き刺さった。


「グァァァオオ!!」


いきなりの一撃にに激怒の咆哮を上げるグァルデ。刺さった光の矢を握り潰し、お返しとばかりにその巨大な口からドス黒い炎の息を吐き出した。炎は石畳を飴細工の如く溶かしながら『グランゼリオ』と俺達に襲い掛かってくる。


「ごごご、ご主人さま!?」


「慌てるな、バリア展開!」


 ヴィィィィィ!


弦楽器を激しく鳴り響かせたような音と共に『グランゼリオ』の左足、『エゥオプロ』の白い宝玉が輝き出し虹色の光のカーテンが周りを覆った。グァルデの炎の吐息はカーテンに阻まれてあっさりと拡散する。


「す、凄い!」


「封印の宝玉の力だ」


魔力弓の攻撃もバリアも一つの宝玉では今のようなパワーは発揮できない。五個の宝玉のエネルギーを圧縮循環させることで単体とは桁違いの出力となるのだ。とは言え、自分で作っておきながらここまでのモノとは予想しえなかったが……。


(しかし、このエネルギーに『グランゼリオ』自身のフレームが保つかどうかだな……)


内心で冷や汗を隠しているうちに魔人が次の攻撃に出てきた。


「グォォォォォン!!」


グァルデの太い腕がやたらめたらに振り回される。石柱や天井が発砲スチロールのように砕かれ大小の破片が俺達の頭上に降ってきた。


「うおお!?」


「危ない!身を守れ!」


 『グランゼリオ』が無事でも俺たちがやられてしまっては身も蓋もない。盾や防御魔法でお互いを庇いながら一時後退をする。


 「くそ、どうしたらいいんだ」


 「邪魔をするなら切り捨てればいい、ソフィーヤ!」


 「はい!」


 魔操杖を振り上げるソフィーヤ。その指示に従って『グランゼリオ』が光の剣を振りおろす。


ズァァシュッ!


 「グオオ!!」


 白い光の飛沫を散らしながら光の剣は魔人グァルデの太い腕を切り落とし、さらに反対の左腕もざっくりと切り飛ばした。流石の魔人も絶叫を上げ身を引く。


 「やったぞ!」


 「い、いや、見ろ!」


 切り飛ばされた右腕の切断面に黒いキノコのような肉塊がむくむくと生え始めた。それはどんどんと成長し再び元の剛腕の形となる。そして左腕も。


 (さすが魔人と呼ばれるだけあるな)


 「ちくしょう、これじゃキリがねぇ!」


 「いや、待て」


 ラドクリフの声に皆が沈黙して魔人を見る。


 「左腕の再生には時間がかかっている。ヤツも無敵では無いということだ」


 彼の言う通り、右腕はあっという間に戻ったが左腕はまだ不完全だ。火力で押し切れば勝てるかもしれない。


 左腕を庇うようにグァルデは身構えた。その背後に再び魔法陣がいくつも浮かび上がり、異界のデーモンが大量に姿を見せる。


 「また出てきやがったぞ!」


 「ジュンヤ様!?」


 「全砲門展開!」


 『グランゼリオ』の魔力弓、背中のキャノン、そして襟首についた『ステルギア』の脚ライフルに右腕の火炎放射器を発射モードにする。


 「行け!レギオン・グランド・フォール!!」


 ドゴゴゴゴゴゴ!!


 『グランゼリオ』の全火器が一斉に発射された。七色に輝く横殴りのスコールのような銃弾の嵐がデーモン達どころか、その出入り口である魔法陣まで撃ち抜いて消滅させていく。グァルデに召喚されたデーモンは何もできずにすべて粉砕された。


 「すげぇ!!」


 「流石ジュンヤだぜ!」


 一気に敵を制圧した『グランゼリオ』と俺にみんなが称賛の声を上げる。しかし。


(……もう、か!?)


俺の握る魔操銃は『グランゼリオ』のエネルギー低下警告を発していた。


 (宝玉のエネルギー量が……しかしここまで手を抜ける場面は無かった。なんとか再チャージまで切り抜けないと)


 デーモンは全滅させたが魔人グァルデの左腕は完全に復活した。両腕を振り上げ『グランゼリオ』に掴みかかってくる。パワーダウンした『グランゼリオ』はその手を撥ね退けられず、光の剣を落とし捕まってしまった。


 「ああっ!」


 「こ、堪えるんだソフィーヤ!」


 一生懸命『グランゼリオ』の姿勢を制御するソフィーヤ。が、いつの間にか『グランゼリオ』の足元にも魔法陣が出現しており、そこから半身を乗り出して『グランゼリオ』の両脚にしがみついて倒そうとしていた。


 「クソ、あいつら!!」


 「みんな!援護するぞ!!」


 ケインが剣を持って突撃するのに続いて、半死半生の冒険者たちが残った力を振り絞ってデーモン達に肉弾戦を仕掛ける。リティッタも『ロゼンラッヘマーテⅡ』(急いで作っておいた)を召喚してその後を追わせる。巨大な魔人とゴーレム、そしてデーモンと冒険者たちの泥沼の白兵戦が始まった。


 増援のデーモン達は『グランゼリオ』に集中しているとはいえ、無傷の状態だ。ラドクリフやケイン達が返り討ちに合う前に何とかしないとこちらが全滅してしまう。それだけじゃない、グァルデが封印を振り切って外に出てしまえばこの大陸全てが破壊しつくされるかもしれない……。


(せっかくこの世界で俺は新しい人生を始めたのに、こんなところで終わるのか……!?)


絶望に打ち負けそうになる心を、歯を食いしばり叱咤する。しかし打開策がなければどうしようもできない。


「ジュンヤ様!リティッタさん!」


そんな俺の近くにソフィーヤが駆け寄ってきた。その手には一本の短剣が握られている。


「それは?」


「封印の宝玉と同じ鉱石で作られた短剣です。お守り代わりに持たされていた物ですが……これでグァルデを傷つければ、隙が生まれるかもしれません。私をあのゴーレムでグァルデの頭まで投げてください」


そう言ってソフィーヤは『ロゼンラッヘ』を指さす。


「無茶だ、危険すぎる!」


俺は反射的に反対した。可能性は否定しないがソフィーヤに上手くグァルデに一撃を与えられる技量があるとは……。


「時間がありません!お願いします!」


「しかし……」


躊躇する間にも『グランゼリオ』は劣勢に追い込まれていた。バリアは既に無く、ヴェゼル鋼の装甲がどんどんと破壊されていく。このままでは合体が維持できずにバラバラにされてしまうだろう。そうなれば俺達の負けだ。


「そういう美味しい役は、俺の仕事だろジュンヤさん!」


いきなりそう言いながらソフィーヤから短剣を奪ったのはケインだった。


「ケインさん!?」


「こう見えて短剣の腕にも自信があるんだぜ」


あちこち出血しているが一応まだ元気そうだ。そんなケインに体力回復と防御力アップの魔法をかけるルゥシャナ。


「いいのか?ルゥシャナ」


「そこのお嬢様に任せるよりは、ケインに行かせた方がまだ勝ち目がありそうですから」


逡巡を振り切るようにルゥシャナは魔法が詠唱を終えた。よっしゃ!と気合を入れたケインが『ロゼンラッヘ』の腕に飛び乗る。こちらを見るリティッタに俺は仕方ない、と頷いた。


「頼むぜ、リティッタちゃん!」


「しっかり当てて来て下さいよ!行けえー!」


リティッタの操作でケインを上空に投げる『ロゼンラッヘ』。グルグルと変なポーズで打ち上げられたケインに嫌な予感を覚えたが流石一流の冒険者、空中で見事姿勢を整えた。


「くらいやがれええええええ!!」


ザシュッ!


全力で投げつけられた短剣がグァルデの左眼に突き刺さった。バチバチッ!と放電を放つ短剣に悶絶し『グランゼリオ』から離れるグァルデ。


「やったぞ!」


「封印します!お願い、『グランゼリオ』!!」


ソフィーヤが魔操杖を振る。穴だらけでボロボロの『グランゼリオ』が地響きを立てながら走り、逆に魔人グァルデを羽交い絞めにすると同時に、ソフィーヤが聞いたことも無い言葉の呪文を唱え始めた。


「ご、ご主人さま!」


「ああ、宝玉が!!」


グァルデを締め付ける『グランゼリオ』の宝玉が太陽よりも眩しく輝き始めた。魔操銃の表示が計測不能なまでにパワーが上がっている。


(これが、この宝玉の本当の力なのか……!?)


俺が今まで制御していたのは、その何十分の一という量だったのか。全てはこの封印のために……。


「今こそ真なる封印が結ばれる時!魔人グァルデよ、暗黒の異界へ退け!」


五つの宝玉から光の古代文字が溢れ出しグァルデの全身を覆い始めた。その光に照らされ足元もデーモン達が消滅していく。そして苦しみ見悶えるグァルデもまたゆっくりとその姿が薄まっていった。


「グゥ……ォォォ……ォォ……」


長い苦悶の呻きが消え、そして魔人グァルデの姿も消えた。闇夜の中に霧が消えるように、跡形もなく。


「ふ、封印、出来たのか?」


ラドクリフの問いにソフィーヤは答えられずにぐったりと倒れかけた。慌ててその華奢な体を支える。顔色は真っ白で全く生気がない。


「ソフィーヤ、ソフィーヤ!!」


揺さぶるが反応は無かった。その代わりというわけでは無かろうが、封印の間が激しく振動を始めた。天井が崩落を始めどんどんと破片が降りそそいでくる。


「な、何だ!?」


「ここだけじゃない、迷宮全体が揺れているんだ!」


「ここは危険じゃ、脱出するぞ!」


魔法使いのポルタ爺さんが杖を振り上げた。あらかじめ全員にかけておいた脱出魔法を発動させる。俺達は魔法の光に包まれて迷宮の中から姿を消した。



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