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1-87 最後の冒険


 「よし……」


 ソフィーヤから受け取った二つの宝玉をそれぞれ新しいゴーレムにセットした。専用の魔導力炉はその過剰なエネルギーを噛み締めるようにゆっくりと起動し、各部の歯車が回転し始めた。


 「無事に動いたようだな」


 「ああ。あとは装甲と武器の調整だ」


 並んでいる二台のゴーレムはほぼフレームがむき出しの状態で、動くには動くが戦闘などさせられない状態だ。ソフィーヤやラドクリフ達が迷宮に潜る前にロールアウトさせておかないと。


 「なんとか間に合うと思うが……むしろ良く間に合わせたな、ダンナさま」


 半ば呆れたような表情のウーシア。俺がこっそりと製作を進めておいたソフィーヤ用のゴーレムの事を言っているのだ。


 「こうなる事は予想がついていたからな。街の平和もかかってるとなればやれることはやっておくしかないだろ」


 「さすが名誉騎士サマだな」


 「おだててないで、装甲を作ってくれ。みんなの出発に間に合わせないと」


 わかったよ、と言って腕をまくり鍜治場に向かうウーシア。その後ろからリティッタもひょっこりと顔を出す。


 「なんか、片方は大砲がついててわかりやすいですけど……もう片方は……」


 「なんだよ、わかりやすいだろ?」


 胡散臭げな顔をするリティッタに俺は何が不安なんだという態度で答える。


 「……迷宮の中で使うんですよね?大丈夫なんですか?」


 「大丈夫だろ。ソフィーヤの話によれば封印の間は大きいらしいからな。それにコイツはどうしても必要になるんだ。この5機をまとめて使うにはな」


 「?」


 全然わからないというリティッタに、いいからメシを頼むと言って俺もゴーレムの方に取り掛かる。薄く伸ばした金属板を何枚もつなぎ合わせ独特の曲線を描くパーツを作り上げた。それから武装、戦闘プログラム。やることは山盛りだ。


 そうしている間に時間はどんどんと過ぎ、日も暮れたあたりでラドクリフが俺の工房にやってきた。


 「やあ、やってるな」


 「ラドクリフ、作戦会議は終わったのか?」


 「まだ大まかなところまでだな。部隊編成や細かいところはあと丸一日はかかりそうだ。そこから準備でまた二日……その間街の防衛もしなくてはいけない」


 三日か、それなら何とか間に合わせることができそうだ。


 「大まかな作戦って?」


 「騎士団を中心に魔物を殲滅しつつ封印の間まで行って“強大な者”を宝玉で封印する」


 「何もヒネリがないな」


 分かりやすすぎる作戦に笑って二人で淹れたてのコーヒーを飲む。ブラックの苦みが疲れた胃の中に染みた。


 「一応考えてはいるんだぜ、魔物の少ないルートを選ぶとか、他の所で陽動隊を暴れさせて本隊を進みやすくさせたりとか……これが例のゴーレム達か?」


 ラドクリフが工房に並ぶゴーレム達を興味深げに見た。


 「ああ、その“強大な者”を封印するためのな」


 「なかなか頼もしそうじゃないか」


 「で、その肝心な“強大な者”ってのはなんなのかわかったのか?」


「ソフィーヤの話では、古代王国時代に野望を抱いた邪悪な魔術師が呼び出した魔界の戦士だか覇者だか……とにかく強くて騎士や魔法使いたちが総がかりで戦って弱らせたところをなんとかって大聖者が命と引き換えに封印したとか」


 飲み終わったコーヒーカップを机に置いてラドクリフが大きくため息を吐く。


 「古代王国っていうのは凄い魔法科学が進んでいて今より強力な軍隊がいたんだろう?そんな連中が苦戦した相手なのか」


 「そうなるな。古代王国が滅んだ直接の原因ではないがソイツとの戦いで衰退に向かったのは間違いなさそうだとアナスタシアも言っていた」


 「そんなバケモノと戦うのか」


 勘弁してくれと肩をすくめる俺に苦笑が返される。


 「まだ完全に復活してないから、そこまでの強さでは無いっていうソフィーヤの話を信じるしかないな。頼むぞジュンヤ」


 「できる限りの事はやるけどさ、俺は勇者でも神の使いでもないんだぜ」


 「地球からやってきた奴ってのは、だいたいこういう時に活躍するもんだってのがこっちでのお約束らしいからな」


 ハハハと意地悪く笑ってから、俺の肩を叩きラドクリフは帰っていった。






 そして三日後、再び冒険者ギルド会議室。


 「諸君、よく集まってくれた」


 壇上には寝不足で憔悴しまくった市長がハチマキを巻いて立っている。冒険者たちはしっかり寝てきているので元気はあるがやはり緊張の面持ちだ。その奥には美しい装飾を施された青い鎧を纏うイーサン以下騎士団の代表が数人、そして彼らを連れてきたアナスタシアにソフィーヤ、チェルファーナと主要なメンバーが並んでいた。


 (ジグァーン討伐を思い出すな)


 「作戦を再確認する」


 市長の言葉に秘書のマーテ達が壁に巨大地図を貼った。ディルクローネから下、地下50階から地下100階までの地図だ。


 「市民は大事をとって郊外の草原に5日間避難してもらう。これは群青騎士団10名に守ってもらう予定だ。迷宮の方だが、ディルクローネはすでにほぼ魔物たちに制圧されている。ギリギリでまだ確保できているエレベーターで先遣隊を送り草原迷宮側までの通路を確保する。これはヒムとジェフのパーティの担当だ」


 部屋の端の方にいるヒムとジェフが頷く。あの駆け出しを卒業したばかりのジェフももうベテランの冒険者になっていた。


 「群青騎士団を先頭に地下59階まで順次草原迷宮を下っていく。ここで砂漠迷宮側に『巨人の槌』メンバーを分離、地下64階で『灼光の槍』、『ザルヴェスの風』を荒野迷宮側に分離。それぞれ地下80階付近の大広間で暴れてもらい魔物を引き付けてもらう」


 市長の言葉にまたそれぞれのパーティのリーダーが手を挙げる。魔物の数は多いものの倒すそばからすぐに湧いて出てくる訳ではない。この大手パーティが全力で暴れればかなりの魔物を引き寄せられるだろう。


 「群青騎士団はそのまま地下95階まで進攻し、封印の間へ繋がる細い通路の入り口を確保。『月光一角獣』のケイン達を先頭に地下100階への螺旋階段を突破する。討伐隊全体の指揮権はラドクリフ。封印の中核となるソフィーヤとジュンヤは『レデュカの涙』と『色眼鏡』のパーティに直衛してもらう」


 「マジかよ……」


 思わず出てしまったボヤキに女戦士のプレクとその後ろのユアン達がニヤリと笑った。


 「こうなるとジュンヤとも腐れ縁だな」


 「しっかり守るから封印の方は頼んだぞ」


 「だなっす」


 「みんなに守ってもらえれば安心して仕事ができそうだよ」


 半ば棒読みで応えると、プレクの分厚い手の平が俺の背中にベチンとお見舞いされた。


 「言うじゃねえか、この野郎!」


 「肝心の“強大な者”を弱らせるためにはいくらでも戦力が欲しい。分散した各隊も可能な限り最下層を目指してくれ。出撃は1時間後、全員準備に入ってくれ」


 ラドクリフの言葉に全員がおう!と気勢を上げた。最後に市長がまた一人一人に視線を合わせる。


 「……正直、こんな事になるとは思っていなかった。冒険者を集めて迷宮探索をすれば街は大きくなり皆が豊かで安定した生活が送れると思っていたのだが、こんな事になってしまうとは」


 「別に市長だけの責任じゃないだろう」


 「みんな、冒険が好きで集まってきた連中だからな」


 「ここの冒険者ギルドは管理がしっかりしてて良かったぜ」


 「他の街なんか嘘情報やら手数料5割とか滅茶苦茶なところがあるからな」


 「依頼受けて現地に行ったら3つくらいのパーティがバッティングしてたりな」


 ガハハハハと冒険者が爆笑するのを見て、市長の顔にもやっと小さな笑みがこぼれた。その横にソフィーヤも上がり頭を下げる。


 「みんな、ありがとう。死なずに帰ってきてくれ」


 「私も精いっぱい戦います。ご助力お願いいたします」


 

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