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1-85 暗闇と光明:前編


雨の中、街の西門に迫ってくる魔物たちの影があった。オーガーやトロールといった連中で、一様に眼を血走らせ知性の欠片もない獣の顔をしている。それはかなり異様な光景だった。俺はざっと魔物の数を把握すると魔操銃にマナ・カードを挿入してゴーレムを召喚する。


「我が命により界封の楔を解く!出でよ、『剛龍』!!」


泥でぐしゃぐしゃになった街道に緑色に光る魔法陣が広がり、その中から大きな鎧武者を思わせるゴーレム、『剛龍』が出現する。


「行け、『剛龍』!」


俺の命令に背中の薙刀を手に取った『剛龍』が駆けだした。二個の魔導力炉から生み出されるパワーは重量級の『剛龍』を一気に魔物の前衛に接近させる。


ブォン!!


横一文字に振り抜いた薙刀が二匹のオーガーの首を撥ねた。ゴロッと水たまりの中に転がった仲間の頭を見て逆上したのか、続く魔物達が雄叫びを上げながら武器を構え『剛龍』を取り囲む。


さすがに数的不利だな、と唇を噛んだ時。背後から甲高い声が聞こえた。


「ジュンヤ!」


「遅いぞ!」


「これでも急いだのよ!」


ローブをまとい杖を片手にチェルファーナが、そしてその助手のウェインが駆けつけた。二人はすぐに長さ1メートルはありそうな大きな巻物を地面に広げる。


「なんだ?」


「黙って見てなさい!」


カーペットのように広がった巻物には魔法陣が並んでいた。その両端に立ったチェルファーナとウェインが共に呪文を詠唱する。


ブォォォ!


「うわっ!?」


呪文の詠唱が終わると同時に巻物に描かれた魔法陣の全てが一気に光を放ち、次の瞬間にはアイアンゴーレムがズラリと召喚されていた。計七体のゴーレムが陣形を組むように横一列でトロールやオーガー達に立ち向かう。


「ゴーレムを一気に召喚出来るように考えていたアイデアよ。なんとか実用化できそうね」


「凄いじゃないか」


素直に褒め言葉が出てしまった。チェルファーナが小さな胸をドヤァと張る。


「ハッハッハ!この天才ゴーレム術師の実力を思い知ったかしら?」


「チェルファーナさん、戦力はまだ拮抗してますよ!」


ウェインの言葉に慌てるチェルファーナ大先生。


「ええっ!?ちょっとジュンヤ、もっとゴーレム出しなさいよ!」


「ここんとこの戦いでもう予備のゴーレムなんか無いんだよ」


『剛龍』は健在だが武装した大柄なトロールに囲まれるとなかなか自由に動けず、一気に敵を片付けるという訳にはいかない。チェルファーナのアイアンゴーレムも健闘しているものの、次々と現れるオーガー達に押されはじめていた。


ヤバいかな……と思い始めた俺達の元に、全く予期せぬ方向から援軍が現れた。


「フライングぅ……サンダークラァァァッシュ!!」


前触れもなく、一匹のトロールが縦に裂ける。真っ二つに割れたトロールの死骸の上には見覚えのある槍使いの戦士。


「エディオ!」


「お待たせですよ!ここはお任せっス!」


それは、ディルクローネの防衛兵士のエディオだった。ドラゴンゴーレム『リヴァンガルー』に捕まったエディオは再び空に舞い上がりバンジーのように飛び降りては魔物を退治していく。


「何だか……危なっかしい技ね」


「まぁ、あれでも上達した方だ……とりあえず今のうちに一気に勝負を決めちまおう」


ベルトからマナ・カードを取り出し魔操銃に挿入。『剛龍』の背中に狙いをつける。


「エディオ、危ないから離れてろよ!」


「!?は、ハイ!」


『リヴァンガルー』が高く高度を取るのを見て俺はすぐにトリガーを引く。


「灰の理、隼影の疾風、魔に従いその様を変えよ。乱陣轟嵐!」


『剛龍』が掲げた薙刀の刃が魔操銃の光を受け、黒い竜巻に包み込まれる。 薙刀が回転する度に竜巻はさらに風を集め辺りは台風の中のような暴風域と化した。俺達はもちろん、オーガーやトロールも完全に動きを封じられている。


『剛龍』の目がギラリと青く光る。瞬間、両腕で力強く振り回した薙刀の刃が周囲の魔物達の首や手足を次々と切り裂いた。


「ヒャッ!?」


見ていたチェルファーナが思わず顔を背ける程に、それは凄惨な光景だった。10体以上残っていた魔物は全てバラバラ死体となり、街に続く街道が血の海と化してしまった。


その向こうに、竜巻でバランスを崩したらしく『リヴァンガルー』から落ちて地面に墜落するエディオ。


「大丈夫か?」


駆け寄って見たところ、首が少し傾いている以外は怪我はなさそうだった。丈夫な奴だ。


「な、なんとか……やっぱジュンヤさんのゴーレムは凄いッスね」


「それより、さっきのクソダサい技の名前はなんとかならないのか?」


「え?ダサい?」


存外なというエディオの顔に俺達三人は首を縦に振った。


「言いにくいですが……」


「ちょっと近くで繰り出されたく無い感あるわね、ぶっちゃけ」


「そんな……鮮烈のアポカリプス・レイニー・デイとかの方がいいですか?」


「それも無いな」


ガックリと肩を落とすエディオを連れて、取りあえず雨を避けるために近い自分の工房へ向かう。


「ところでディルクローネの方はどうなっているんだ?」


本来エディオは地下都市ディルクローネの防衛を担っているはずである。地上がこの有様でディルクローネが平和なはずは無いのだが。


「……防衛隊も頑張りましたが、もうあそこでは住めません。魔物が多すぎて、辛うじてエレベーターが健在くらいで」


悔しそうに表情を歪ませてエディオが答える。地上のゴタゴタで少し離れている間にそこまで侵攻が進んでいたとは。


「住人は全員ノースクローネに戻りました。けど、この魔物の襲撃で二割がたの住人が他の街に逃げたとか聞いてます」


「まぁ……仕方のない事だな」









ほんの数日前からその異変は訪れた。


街の上空に暗雲が渦を巻き、赤い雷がいくつも落ちた。それに呼び寄せられたかのように街を囲む五つの迷宮から魔物が溢れ始めたのだ。その数は徐々に増え今では大半の冒険者達が迷宮に潜るどころか街の防衛に手一杯になっている。


俺も市長の要請で防衛用ゴーレムを貸し出し、さらにこうして自ら『剛龍』を使い魔物の侵入を防いでいる。


「それもこれも、“強大な者”の復活と関係しているという訳か?」


『リヴァンガルー』の飛行用ファンを取り換え終わったたウーシアが呟いた。ここの所の戦闘でこのゴーレムもあちこちダメージがあったのでオーバーホールしたのだ。


「冒険者ギルドではそういう噂になってるッスね」


「封印を施さないといけないのに、この魔物の量では最下層に行く事すら厳しいな」


「ソフィーヤさん、大丈夫でしょうか……?」


リティッタが不安そうに呟く。“強大な者”の封印という宿命を背負ったあの少女はまだ迷宮の中にいるはずだ。


「ダンナさまのゴーレムがついてるんだ。大丈夫だろう」


ウーシアから肩を叩かれリティッタも頷いた。今はそういう風に言ってくれるだけでもありがたい。正直なところ迷宮の最奥の魔物たちとソフィーヤがどんな戦いを繰り広げてるかもわからないのだ。


「よし、取りあえず『リヴァンガルー』は直したぞ。出来るだけ大事に使ってくれよ」


「ありがとうございました!あと市長が明日対策会議をするのでギルドに来てほしいとの事ッス」


「わかった」


(ノースクローネを放棄して逃げ出すという案も選択肢に入るだろうな……)


そんな事を考えながら、雨の中帰っていくエディオを見送る。それからウーシアと工具の片つけをしながらリティッタの晩御飯を待った。


「お待たせしました、白鯛の香草焼きですよ」


テーブルにドン、と大皿で置かれたのは皿からはみ出さんばかりの大きな焼き魚。少し前にウーシアが釣ってきた大物だ。


「これでウーシアさんが釣ってきてくれた魚さんは最後です。市場の方もあんまり商人が街に来てくれて無いみたいで、買えないものが増えてきています」


「仕方ないさ、それにまだみんな元気で生きてる。明日にはいい作戦ができるかもしれない。平和になればまたウーシアが魚を釣ってきてくれるさ」


「ああ、もっと大きいのをな」


パンパンと二の腕を叩くウーシアにやっとリティッタも笑顔を見せる。


「さ、あったかいうちに食っちまおう。せっかくの大物だからな」


「はい、今切り分けますね」


淡泊な白身は様々なスパイスで味付けされていて、腹の減っていた俺達はあっという間に魚を食い尽くしてしまった。リティッタの料理の腕はまだ上がっているようだ。


「毎日美味いメシが食えて俺は幸せだよ」


「じゃあ明日もモリモリ働いて下さいね」


「へいへい」


どっちが雇い主かわからない会話をしながら、食後のコーヒーを飲みつつ窓の外を見る。昨日から降り続く雨は更に勢いを増し、豪雨に近づいているようだった。


(……?)


ふと、窓の外で暗い影が動くのが見えた。続けて、ドシャッという何かが濡れた地面に落ちる音。


「何でしょう?」


「ちょっと見てくるか」


皿を洗っているリティッタ達をおいて玄関を開ける。暗い中、警戒しながら窓の下に向かい目にしたのは。


「……ソフィーヤ!」


そこには、激しい雨と泥の中に倒れた金髪の美少女、ソフィーヤがいた。





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