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1-63 変形と転職:後編



翌朝、俺が工房のハンモックからもぞもぞと降りる頃合いでリティッタとウーシアが帰ってきた。一晩チェルファーナに付き添っててくれたのだろう。


「チェルファーナの様子は?」


「とりあえずは落ち着いて、ご飯も少しは食べてくれましたけど……」


「自分でも思ってた以上にウェインの事が気になってたんだろうな。生きて帰ってきたからいいもののあれで死んでたらどうなってたかわからん」


ウーシアがそう言いながら首や肩をグルグルと回した。夜通し面倒を見ててくれたのか、二人とも凄く眠そうだ。


「ダンナさま、オーザーの依頼の方は?」


「まだ時間がかかる。二人とも今日は夕方まで寝てていいぞ」


ありがたい、と言ってウーシアはすぐに二階へ行った。申し訳なさそうな顔をしているリティッタもお尻を押して後を追わせる。


「ちゃんとご飯、食べて下さいよ!」


「わかったわかった、心配するな」


静かになったところでコンロに火を入れ、熱したフライパンでハムエッグを焼いた。ついでに青リンゴ(こちらの青リンゴは本当にブルーという色合いだ)を皮ごとガリガリと齧る。これでリティッタも文句は言うまい。


(そんなことよりゴーレムだ)


昨日帰って寝ながら考えた条件としては、

①自動推進できる。

②陸上もで簡単に移動させられる(マナ・カードにこまめに収納しない)。

③頑丈かつ転覆に強い。

の三つだ。この中で技術的に難しいのは②で、他の二つはなんとかなると思う。


「単純に足の生えたボート……ってのはゴーレム屋としては芸が無いしな」


そんなものを連れて迷宮内を歩き回るのは不便だし、どうせならジュンヤに頼んで良かったと言わせるような仕事をしたい。となるとやはり難しい技術を投入しなくてはならなくなる。


(本格的に作ろうと思ったことは無かったが……やってみるか)


図面に簡単なボートを描く。その横にはゴーレムのフレーム。船底を割るわけにはいかないのでそのまま背面に回し、その先端と後端にそれぞれ上半身と下半身をくっつける。この二つはお互いにジョイントで合体するようにし、横にはフロート、両腕に錨と『ウェラッヘ』にも取り付けた銛。これをそれぞれのモードで破綻の無いようにサイズを決め、回転軸を決め、ロック位置を決め……とやっているうちに時間は飛ぶように過ぎてゆきあっという間に夕方になってしまった。


「ご主人さま、調子はどうですか?」


寝ぼけ眼でリティッタとウーシアも起きてきた。日中暑かったのでそんなに熟睡はできなかっただろう。二人ともまだ疲れた顔をしている。


「おう、おはよう。調子は……ぼちぼちってとこだな」


「なんですかこれ、船と……ゴーレム?今回は二個作るんですか?」


目をこすりながら図面のラフを見る二人に俺は胸を張った。


「いや、コイツは変形ゴーレムだ」


「「変形!?」」


眠そうだった二人の目が一気に真ん丸に見開かれるのを見て俺はささやかな愉悦に浸った。


「そう、船からゴーレムに完全変形!まさにロマン!男の子の夢!ちなみに“完全”ってとこが大事なんだぞ」


「ロマンとかは正直わからんが……こんなゴーレムが実際に作れるものなのか?」


(なんで女には変形とかロボの素晴らしさが伝わらねーのかなぁ)


ウーシアの感想にがっかりしながら俺はテンションの下がった声で答える。


「戦闘はほぼ考えて無いし、『ラッヘ』タイプよりも二回りも大きいから動力系の搭載には余裕はある。各パーツの固定位置の擦り合わせと部品代が不安だが……オーザーからOKをもらったらやるしかない。二人とも、よろしく頼むぞ」


「ダンナさまがそう言うなら」


「私たちも頑張るしかないですね」


二人とも、そろそろ付き合いも長くなってきたせいか俺の性格もわかってきたようだ。苦笑しながらウーシアはシャワーに、リティッタは夕食の準備を始めた。


翌日、オーザーがやや待ち切れなさそうに朝早くからやってきたので変形ゴーレムの図面を見せてやる。


「……こんなゴーレム、聞いたこともないな」


「俺も無い。でもやってできない代物ではなさそうだ。一度に乗れる人数は四人がギリギリになりそうだが……どうだ?」


俺の話に腕組みしながらオーザーが頷く。


「クライアントのパーティは丁度四人だ。陸地を自動で移動できるのは便利だし俺は『ウェラッヘ』に乗ってでも水場を渡れるからそれで大丈夫だろう。早速作ってくれるか?」


「毎度あり。出来るだけ急ぐよ」


オーザーからgoサインを貰ったのですぐに具体的なフレームと部品の設計に入る。まず本体の基礎となる船底のサイズを決めウーシアに作ってもらう。続けてフロート、プロペラ、腕に脚、それらを支えるフレーム、歯車にワイヤーにシリンダーとほとんどパーツの流用が効かないものばかりだ。


「これは久しぶりに徹夜コースもありそうだな」


忍耐強いウーシアが早くもボヤいた。


「全く新しいタイプの上に人を乗せて進む船になるわけだからな。慎重に組み立てないとならん。慌てずにやろう」


まずは船モードでの作成を進める。ゴーレムモードの擦り合わせはある程度自由が効くからだ。パーツの接合部には撥水力の高い塗料を塗った革を張り浸水を防ぐ。


俺もウーシアもまともに手が離せないためにリティッタがサンドイッチを作ってくれた。二人とも機械油で手が真っ黒なために口まで運んでくれるサービス付きだ。太ナスとミートソースを挟んだサンドが絶品である。


「りふぃっふぁの、メシは、いつふっへも、うめぇふぁあ」


「ボロボロこぼしてまでお世辞を言わなくていいですから、作業に集中してください」


三人の頑張りの結果、初日は船底とフロートをくっつけるところまで終わった。まだまだ先は長いので今日はちゃんと寝ようと風呂と夕食を済ませたあたりでコンコンと工房のドアがノックされた。


「はーい、ちょっと待ってください……ウェインさん、どうかしましたか?」


来客は若い冒険者、いや元冒険者のウェインだった。チェルファーナのお客である彼が何故ウチに来たのかリティッタには見当がつかないようだったが、俺にはすぐにわかった。


「すいませんこんな時間に……ジュンヤさん、お願いがあって」


「一人じゃ言い出しにくいか?」


俺の問いにウェインは恥ずかしそうに頭を下げた。若いとは言え一人前の男なのに頼りないなと思いながら、しょうがないので最後まで世話をしてやることにする。


「わかったよ。ちょっとチェルファーナの所に行く。丁度いいからリティッタ達も行くか」


?と事情を把握出来ていない二人とウェインを連れて、暗くなった夜道を歩く。三分もすればチェルファーナの工房だ。ノックをしてすぐガチャリとドアを開けると、チェルファーナが泣きながら大量のパスタをドカ食いしていた。


「そんなに食ったらデブになるぞ」


「五月蠅い!ていうか勝手に入ってくるなって言ってるでしょ!」


「まぁまぁ、そう怒るな。いい話を持ってきてやったんだから」


そう言って俺の後ろにいたウェインを前に引っ張り出してやる。


「ち、チェルファーナさん……」


「……何よ」


チェルファーナの氷のような冷たい態度にひるむウェインのケツを小突く。


「あ、あのッ!ぼ、僕をっ!チェルファーナさんの所で、働かせて下さい!」


「はあっ!?」


突然のウェインのお願いに目を大きく見開くチェルファーナ。


「私の所で………って、ゴーレムを売る仕事を?」


はい、と返事するウェインにチェルはたっぷり二秒かけてため息を吐いた。


「そんな事言ったってウェインは魔術の勉強してないんでしょう?」


「魔法陣が書けなくても、ゴーレム屋には部品の仕入れやら客との交渉やら薬品の整理やらいくらでも仕事はあるだろう?チェルファーナも客が増えて一人じゃキツイって言ってたじゃないか」


「そうだけど……」


俺の助け舟に今度はチェルがまごまごする。急な話を持ちこまれたので判断に困っているのだろう。


(もう一息だ、キバれ!)


「仕事は何でもします!ゴーレムの事も頑張って勉強するから!お手伝いさせて下さい!」


机に手をついて深々と頭を頭を下げ……ゴン!と机におでこをぶつけたままの格好で頼み込むウェイン。チェルファーナも流石に無下に断る事ができずに、最後にはやれやれと肩をすくめた。


「掃除とご飯の用意全部やってくれるなら、考えなくもないわ」


「やる、やります!洗濯もやります!」


「洗濯はやらなくていい!!」


ウェインに怒鳴ってから、チェルがギロリとこちらを睨む。


「こっちの意見も聞いてから話進めてよね!」


「いやあ、いい事をした後は気持ちがいいな」


「話をちゃんと聞きなさいよー!!」


チェルファーナの怒鳴り声を無視して、俺はニヤニヤ笑いながらリティッタとウーシアの肩を抱いて帰った。













心配事が一つ片着くと他の問題も不思議とサラサラ解決するものだ。オーザーから頼まれた船ゴーレムは驚くほど順調に製造が進んだ。湖での進水試験も問題無し、積載量もクリア、変形後の各部稼働もクリア。丸五日と時間はかかったものの、『ユーヴェンス・シマノ・ゴーレムファクトリー』初の完全変形ゴーレムは無事に完成を迎えた。


「全く……大した発明家だよ、ジュンヤは」


挿絵(By みてみん)


完成したゴーレムを見上げてオーザーが呆れ混じりの褒め言葉をくれた。


「この腰のところな、上半身と下半身を接続してるだけだから気をつけてくれ。正直戦闘は船モードの時の方が安全だ。あと搭乗人数はフル装備の戦士四人まで。これも守ってくれよ」


「わかった、本当に感謝するよ。代金の大銀貨13枚だ」


「毎度あり。気をつけて行ってきてくれよ」


俺に銀貨の入った小袋を渡しながらオーザーは、任せとけってと軽く返事をした。


数日後、全身に小さな噛み傷をつけまくったオーザーがやって来た。その痛々しい外見とは裏腹にニコニコ不気味に笑っている。


「上手く行ったのか」


「ああ、四人を乗せた船ゴーレムは無事に水場を渡り切ったよ。ジュンヤの仕事は完璧だった」


「そりゃどうも……それだけじゃ話は終わらなそうだな」


不審がる俺にオーザーは遂に笑い声を上げた。


「水場の奥にはたんまり財宝があったのさ。俺は船に乗れなかったから向こう岸に残っていたんだが


、奴らいっぺんに持って帰ろうとして全部船に積んだんだ」


「何でいっぺんに運ぼうとしたんだ?」


「ノロノロやってたら俺も渡ってきて取り分が減ると思ったんだろう。一応船が沈むからやめとけって言ったんだがな、言うことを聞かずに案の定転覆して財宝ごと全員ボッチャンよ。寝覚めが悪いから一応全員引き上げてやったけど、お陰で魚に噛まれまくりさ」


そう言いながらも機嫌のいいオーザーの顔を見て俺はピンと来た。


「……それで、後でこっそり財宝を拾いに潜るのか」


「それには答えられないな」


オーザーは俺にウィンクすると懐からこぶし大ほどもある大きなルビーの原石を出して、ゴン、と応接テーブルに置いた。素人目で見てもおそらく銀貨30枚は下るまい。それを見て俺も苦笑してこう嘯く。


「答えられないなら、仕方ないな」


「ジュンヤが話の分かるいい奴で本当ありがたいぜ」


その後、結構後になってオーザーの羽振りが大分良くなったと聞いたが、それは俺の与り知らぬ話である。





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