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1-42 タコとプライド:後編







「よし、やるぞ」


『ラッヘ』ゴーレムを用意して、いつも通り装甲をバラす。魔動力炉の下の内殻部分に電撃エネルギーを発生させる電魔鉱の入った壺を取り付ける。メルテの魔道具屋で埃をかぶっていたマジックアイテムだ。あそこにある商品は、そのままでは冒険者には使いにくいがゴーレムの部品として見ると結構いいものがあって重宝する。どうか潰れずに経営を頑張って欲しいものだ。


「今回は随分と紐や鎖を使うんですね」


胴体から伸びるいろいろなケーブル類を見てリティッタが呟いた。右手と両脚に順番にそれらを接続する。確かに普段のゴーレムとは雰囲気の違うメカニズムに見えるかもしれない。


「電撃エネルギーってのは意外と自分に跳ね返ってくるダメージも大きいんだ。昔会った魔法使いが言うには、魔術で反動を制御しているけど破壊力の割に消費魔力が大きくて、純粋な攻撃となると火炎魔法の方が好まれるらしい。ま、電撃魔法も直線に強いとか敵を貫通しやすいとか迷宮で使うメリットがあるんだけどな」


 「冒険者の人も大変なんですねぇ」


「ダンナさま、できたぞ」


ウーシアが頼んでいた槍を作って持ってきてくれた。一見長めのスピアーだ。持ち手の真ん中の部分に丸い球状のパーツがある以外は。


「この丸いところ、頼まれたとおりに魔鉱石を入れておいたが……何に使うんだ?」


「増幅器だ。本体から流れてくる電撃エネルギーを収束・整流して更に圧力をかける。電撃エネルギーは水と同じでちびちびと流すよりは短時間に大量に浴びせた方がダメージになる」


二人とも俺の言っていることはあんまりよくわかっていないのだろう、それぞれほー、とかへー、とか言っているが仕方ない。こちらの世界で電気について学ぶ事などないだろうし。

 

 「これを持たせて手首から延びているケーブルに接続する……この接続が外れると電撃攻撃はできなくなる。ちょっと不便だが安全装置でもあるな」


 頭のフレームの中にある動作回路にその復旧動作も入力する。コイツが万全の状態なら自分で戦闘前にケーブルの接続が出来るはずだ。もちろん外れていても普通の槍として使うことは出来る。大体の回路を繋ぎ終えた俺は最終確認をしながら装甲の類を取り付けていく。


 「よし、これで一通り装備は整ったな。リティッタ、動作チェックしておいてくれるか」


 「わかりました、お疲れ様です」


 ゴーレムを組み終わった後、最終工程として歩行や走行、転回などの動作チェックをするのだが、最近はそれをリティに引き受けてもらえるようになった。その分俺は他の仕事ができるので、彼女の成長はとてもありがたい。社員教育の大事さが俺は異世界で身に沁みてわかった。


 次の日、昼前にやってきたヨーゲムに俺は電撃ゴーレム『リューラッヘ』をお披露目した。


挿絵(By みてみん)


 だが、その外見を見たヨーゲムは少し肩透かしを食らったような表情を見せる。


 「その辺の連中が使っているゴーレムとあまり変わらない様に見えるな」


 「一撃必殺に特化したからな。通常戦闘はほどほどの能力しか無い」


 「疑うつもりはないが、本当に一撃で仕留められるのか?」


 「威力が高すぎるからあまりデモンストレーションはしたくなかったんだが……仕方ない」


 俺はヨーゲムと『リューラッヘ』を裏庭に連れ出した。そこには古びて錆びた全身鎧が置いてある。射撃用ゴーレムの照準調整用に前に格安で買い取ってきたものだ。俺はゴーレムをそれに向かわせると、魔操杖のボタンに手を掛けた。


 「少し離れていてくれ。一回しかできないからよーく見ておいてくれよ」


 ボタンを押す。『リューラッヘ』が槍を構え、全身鎧に向けて走り出した。同時に体内の発電回路が稼働しフィイイイイイイイン!と甲高い音とスパークが身体から漏れ出す。


 「な、なんか凄いな」


 「いくぞ!」


 ゴーレムの槍が鎧の継ぎ目に突き刺さった。とその穂先から落雷の様な電流が放たれる!青白い閃光が目を焼き、そして耳障りな破裂音が辺りに響き渡った。恐る恐る目を開ける(言った俺自身まで目を閉じてしまった)と、『リューラッヘ』の前にいたはずの金属鎧は、小手やつま先部分を残し消滅していた。地面に散らばるわずかばかりの液状になった金属が、鎧がどうなったのかを辛うじて物語っている。


 「な、なんて威力だ……」


 歴戦の戦士であるだろうヨーゲムも声と全身を震わせていた。


 「凄いなジュンヤのゴーレムは。これならどんな奴だって一撃で倒せる。あのタコも一瞬でおだぶつだ」


 「あの槍を差し込むことでタコの粘膜に妨害されずに体内に高圧電流を流せる。気をつけて欲しいのは、連射が出来ないという事だ。全エネルギーを使うのでああなったらしばらくは歩くこともできない」


 俺は槍を突き出したまま立ち尽くす『リューラッヘ』を指さした。全身から煙を吹き出し、指一本動かすことが出来ないでいる。


 「火力だけを追求したからな。他に強敵と戦う事になってもこの技はタコと戦うまで使わないで欲しい。肝心な時にエネルギーが足りなくて動作不良を起こすかもしれない」


 「本当に切り札という訳だな」


 ヨーゲムの神妙な顔に俺もゆっくり頷いて見せる。


 「いいさ、こっちだってあのタコ野郎以外はどうでもいいんだ。俺の冒険者人生を賭けてアイツを必ず叩きのめしてやる。これは代金だ、取っといてくれ」


 銀貨のたっぷり詰まった袋を受け取る。俺が上げた手のひらにパンと拳を打ち付けると、ヨーゲムは真剣な顔でゴーレムを連れて歩き出した。












 それからまた数日後。


 「ジュンヤ、いるか」


 そう言いながら俺の工房に包帯だらけのヨーゲムがやってきた。右手にはあの『リューラッヘ』の電撃槍が握られている。


 「まさか、駄目だったのか?」


 俺が青い顔をして近寄っていくと、ヨーゲムは弱々しく首を振った。それから難儀そうにイスに腰を掛ける。


 「俺の復讐は無事に成し遂げたよ。苦戦はしたがあのタコ野郎のツラを黒焦げにしてやった。ただ動けないゴーレムを道連れに水の底に沈んじまったんだ。一緒に連れて帰ってきてやりたかったが、回収できたのはこの槍だけだった。すまんな」


 「いいさ、ゴーレムの宿命なんてそんなもんだ。それで、これからどうするんだ?」


 彼の言葉に一安心した俺は、リティッタの淹れてくれたお茶を一口飲んでそう聞いた。

 

 「さぁ……どうするかな。冒険者家業を辞める気は無いけど、少し他の街を回ってみるのもいいかな。他のパーティから勧誘も来ているが、途中から参加するといろいろ気を使ったりするし」


 「冒険者ってのも大変なんだな」


 「結局、ワガママな連中なのさ。俺を含めてな」


 そう言ってヨーゲムは苦笑いするとまた難儀そうに立ち上がった。


 「しばらくは養生しながら先の事を考えるよ。また世話になるかもしれないが、その時はよろしくな」


 「ああ、また来てくれ」


 




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