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第七十九話 やってみればできるもんだ

誤字・脱字ありましたらご指摘お願いします。


今回はエスカイアさん視点で書かれてます。

※エスカイア視点


 背後ではギブソンで雇った人足達が騒がしく石畳用の石を敷き詰める作業をしていた。わたくしは陣頭指揮を執るとおっしゃった翔魔様のお供をして、敷設現場に帯同をしている。


「エスカイアさん、ここで曲がると大回りだから、あの山ぶち抜こうか?」


 ヘルメット姿の翔魔様が目の前の山を指して考え込んでいる。一瞬、仰られた意味が理解できなかったわたくしですが、山々が連なる連山のふもとに沿って迂回する旧道を整備するよりも目の前の山を貫くトンネルを作った方が確かに距離は半分以下で済むことは分かっていましたが、切削道具が不足しているため、涼香さんも断念していたルートであったはずでした。


「翔魔様、残念ながら予算の都合上、あの山にトンネルを掘ることはできませんわ。道具も無ければトンネルは掘れません」

「でも、真っすぐ行けた方が時間も短縮できるし、人足達も楽できるでしょ? トンネルって言っても要は向こう側まで掘り抜けばいいんだよね? オレが切削刃(カティング・ブレード)で掘って、同時に地形変化トポグラフィック・チェンジで岩盤に変化させちゃうえば大丈夫だろ? 確かこんな感じで日本のトンネルマシーンはトンネル作ってはずだし」


 幼さの残る童顔で無邪気な笑顔を浮かべる翔魔様に思わず、見惚れてしまいそうになってしまいましたが、翔魔様の言っていることを了承するわけにはいかなかった。


「そ、そのような危険なことをされなくても、大回りすれば大丈夫ですわ。万が一、翔魔様が山で生き埋めになったらどうするんですか!」

「いや、埋もれたら山ごと吹き飛ばすし。ここら辺は人家もないし、イシュリーナからは街道を作るうえで邪魔な物は自由にしてもらっていいとお墨付きも貰っているしね」

「た、確かにそのような許可は頂いていますが、そのようにせずとも……それに掘り抜く先を確認せずに掘っても無駄掘りになってしまいますわ。キチンと調査してからでも」

「大丈夫、そう思って聖哉を山の反対側に先発させているよ。試してダメそうなら迂回路にするからさ」

 

 現場にいたはずの聖哉君の姿が見えないと思ったら、翔魔様のお手伝いをしていたとは知らなかった。


「まさか、カードの発する位置情報を使って測量するつもりですか?」

「そのまさかだよ。聖哉いる場所目指して掘って行けば掘り抜く先に道が無かったなんてことにはならないだろ? これでもダメ?」

「それなら無事に掘れますわね……って本気で掘るのですか!」

「ああ、やってみる価値はあると思うよ」


 そういった翔魔様が山のふもとの方へ向かって歩き出していった。わたくしも心配なので後をついていくことにした。しばらく二人で歩くと、山のふもとに入り足元の勾配が少しついてきていた。先頭を行く翔魔様が立ち止まるとわたくしに立ち止まるようにと手で合図をしてくる。


「この辺から掘るとするかな。エスカイアさんは危ないから下がっててね」

「だ、ダメです。わたくしも一緒にお供しますわ」


 翔魔様一人でやらせると何だか不安だったので、わたくしも一緒にお供するべく、翔魔様の腰に掴まって身体を寄せていく。


 最近では、とても派遣勇者として、またチームの主任としての自覚が芽生えた翔魔様は、入社試験の際に会った時よりも一段と男ぶりを上げられており、涼香さんともども、翔魔様の成長を観察してはそれを酒の肴に楽しいお酒が呑めていることは、彼には内緒にしていることです。ちなみにクラウディアさんも翔魔さんのことが気になっている様で、カマをかけてみたら、恥ずかしそうに白状したため、『柊翔魔を愛でる会』に参加を許してあり、翔魔様がクラウディアさんに夜伽を求めるのであれば、わたくしも涼香さんもあえて邪魔をしないと誓い合っていた。


 そんな大事な翔魔様を一人で危険に曝す訳には行かず、少しでもお役に立てるようにトンネル掘りに同行することにした。


「そんなに危なくないと思うけどね。それじゃあ、行くからエスカイアさんは水平に掘れているか確認しておいてくれるかい。下に潜って行くと修正しないと行けないからさ」

「は、はい。承りましたわ」

「よし、じゃあ行こう!」


 翔魔様が切削刃(カティング・ブレード)の刃を複数作り、自分の周囲に直径12メートルの円錘状に展開させてドリルのように回転させていく。そして、一歩ずつ歩を進めると切削刃(カティング・ブレード)の刃が触れた山肌の土が直径15メートルの円筒形に削り取られていった。その様子を見た翔魔様は一歩一歩の歩く速さを増していく。山肌の土はまるで抵抗を示そうとはせずに刃によって削り出されていった。


「物理障壁も張っておくからね。これで土もこっちへ飛んでこないはずだ」

「ですが、土はどうされるのですか? このまま掘っても土を出さないと埋もれてしまいますわよ?」

「土はこれでいいでしょう」


 翔魔様は削り出された土を切削面に障壁で吹き飛ばし、地形変化トポグラフィック・チェンジによって直径15メートル、内径10メートル、厚さ2.5メートルの鋼鉄以上の強度のある巨大な岩盤のパイプに変化させてトンネル内を強固に補強していった。しかも、3メートル級の魔物が牽引する魔物馬車がすれ違えるように二車線分の幅を取ってすれ違えるようにしたり、トンネルの内径の底から3メートルの高さまである岩盤による石畳(道路面)を水平していくということを、魔術の多重起動という離れ業をしながら行う翔魔様の力に眩暈がしそうになる。この御方はそういう御方でしたわ。なにごとも想定の上を行く力を見せつけてくれる御方なのを失念しておりました。この方法であれば日本のトンネルと同程度の強固なトンネルがいとも簡単に開通させられてしまいますわ。


 目の前で行われている作業に面食らっている内に翔魔様の切削スピードは上がっていき、日本のトンネル工事もビックリのスピードで山の中を掘り進んでいった。


「エスカイアさん、水平は保てているかい?」

「へあ!? あ、はい。ほぼ水平に向かって掘り進んでいますわ。道路面も素晴らしく平らで石畳を引けばすぐにでも馬車が通れますわ。それにもう二〇〇メートルほどは掘り進んでいますし、聖哉君の座標まで、あと半分ほどでぶち抜けるはずですわ。魔力は大丈夫でしょうか?」

「ああ、これくらいの魔術程度なら自然回復の方が勝っちゃってるね。減らないや」


 た、多重起動って確か魔力が数倍の消費量に跳ね上がると聞いてましたけど、ガセネタだったのかしら……。それとも、翔魔様の総魔力量が桁違いに多くて減ったように見えないだけなのか。どちらにしても、こんなことをできるのはエルクラスト広しと言えども翔魔様だけですわ。


 わたくしはとんでもない力を秘めた勇者様の下でお仕事をしているのかも知れなかった。きっと、今回のトンネル敷設のお話も後の世には翔魔様が行った奇跡として史書に残されることになるんでしょうね。ああ、わたくし、この御方の傍に侍るためにはもっと高みに登らねば置いて行かれてしまうかもしれませんわ。


 目の前であり得ないほどの力を見せつける翔魔様に対して、わたくしは近くに侍る存在として自らの力の物足りなさを痛感し、トルーデ陛下が仰られていた言葉を思い出して更なる努力を重ねていかなければならないことを自覚していた。


「翔魔様……」

「ん? どうかしたエスカイアさん?」

「なんでもありませんわ。ただ、とっても翔魔様が素敵だなと思いまして。わたくしも嫁としてもっと頑張らないといけないなと思っている所です。不束な嫁ですがよろしくお願いいたしますわ」

「な、なんで急に改まって挨拶をしているのさ。エスカイアさんはオレにはもったいないくらいの嫁だよ。ああ、そうか、入籍の件だね。それも、この派遣勇者としての仕事がキチンとできるようになったらちゃんとするつもりだから安心して。今のオレは未熟だし、エスカイアさんとは釣り合いが取れているとはいい難いから、きっともっといい男になってやるからね。それまでちょっと時間かかるかもしれないけど待っててくれるとありがたい。我ながら自分勝手だけどさ」

「そんなことありませんわ……。ずっと、お待ちしておりますわ」


 翔魔様のやさしい思いが焦るわたくしの心にじんわりと染み込んでいく。この方であれば、共に成長していける夫婦になれそうな気がした。


 このような素敵な勇者様を巡り合わせてくれた神様に感謝しますわ。


 わたくしは翔魔様の背中をギュッと抱きしめると、触れた肌の温もりにニコリと笑みがこぼれていく。


「おっと、大分柔らかくなってきた。そろそろ、出口かもね」


 翔魔様がそう言うと、目の前が崩れ、日の光が一気に差し込んできて目の前が真っ白になる。


「翔魔さん、お疲れ様でした。意外と早かったですね」


 トンネルを抜けた先にいた聖哉君が余りの早さにビックリした顔をしていた。


「無事抜けたようですわね。それにしても、僅か半日程度で四〇〇〇メートルのトンネルを掘り抜くだなんて……日本の技術以上ですわよ。翔魔様」

「やってみればできるもんだね。これなら、みんなが大回りしないで一気にギブソンまで来れるでしょ。街道なんて高速道路みたいなもんだから真っすぐがいいんだよ。これで予算も浮いたし、人足の人達の食事のグレードアップでもしようか?」

「承りました。涼香さんにご連絡差し上げて浮いた予算の割り振りを考えてもらいますね。人足達の食事代は最重要にしておきますわ」

「ありがと。また山があったらこの工法でいこう。涼香さんには山はトンネル掘るって伝えておいて」


 顔に少し泥を付けた翔魔様が無邪気な笑みを浮かべて自らが完成させていったトンネルを点検していく。トンネルは直径15メートルで掘られていましたが 厚さ2.5メートルの岩盤で補強され トンネルの内径10メートルの底から3メートルまで岩盤による石畳(道路面)で水平に整地した目線の高さが1番広い蒲鉾型となり、馬車同士がすれ違えるスペースが確保され、明かりの魔道具を設置予定の数多くの窪みもあり、トンネル待ちの渋滞もないと思われる。そのうえ、真っすぐに平坦な道にされているため、山のふもとを縫うように進む旧街道に比べて半日近くは早くヒイラギ領に到着できる道が完成しそうであった。


 そんな大事業を翔魔様はたった一人で簡単に完成させたお力はやはり凄いとしかいいようがなかった。


派遣勇者の力は土木工事に最適だな。今度は山ごと吹き飛ばしてみるか。トルーデさんに叱られそうだけど。 (柊翔魔)

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