第百十二話 二個目の領地を手に入れることになったが如何しよう?
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涼香さんがニンマリとした顔で持ち込んだ書類の束は、エルクラスト各国からの授爵依頼関係の書類であった。
すでに俺がSSSの勇者適性を持っていることはエルクラスト全土に知れ渡っており、持参金がわりの爵位と領地をセットに大貴族の令嬢や王女などの婚約話として舞い込んでいたようだ。
だが、そういった婚約付きの話は涼香さんレベルで断ってもらうようにしてあったが、それでもなお領地を授けたいという話は山のように来ていたらしい。
エスカイアさんも業務に支障がないなら、あと二~三個は領地を増やしても問題ないと言わんばかりにこちらを見ている。
(株)総合勇者派遣サービスの社員としての仕事は、現在SSランクの害獣が出た際に逃げ込むシェルターの建設のお手伝いをするくらいで、そちらの方は各国が作ったシェルターに付与魔術を行使して構造強化するくらいの仕事なので、暇と言ったら暇であった。
今日も今日とて子供たちの訓練や書類仕事をしているだけなのだ。
「柊君、これなんかどう? 周囲を断崖絶壁の険しい山に囲まれた陸の孤島の領地、陸路は完全に遮断されて、川をさかのぼっての船便でしか往来ができない領地。褒美として受け取った貴族が没落するといういわくつきの物件なのだけど」
涼香さんは自分が魔改造できる領地を嬉々として俺に売り込んできていた。
仕事熱心なのは良いけども、受け取った貴族が没落するって頂けない気がするが……。
「でもね。この領地は周囲を山に囲まれた盆地だし、広さもヒイラギ領よりもあるし、水は多いし農業立地としてはポテンシャルはヒイラギ領より断然高いのよね。それに近隣に魔境の森が全くない土地柄も加味すると、万が一の場合の避難所としても使えそうだしね。ギブソンとヒイラギ領の住民が逃げ込む先は確保しておかないと」
涼香さんはSSランクの害獣のヤバさを知ってから、常に領民の退避先を考えていたようだ。
イシュリーナも聖哉から見聞きしたSSランク害獣の強さにヒイラギ領を退避先として頼ってきていたが、地下都市式のシェルターを作るのは現実的でないとの試算が出ている。
「退避先か。地下都市式は諦めたんだよね」
「ええ、地盤的なモノもあるし、何しろ食料が自給できないの。SSランク害獣が活動停止するまでは少なくとも籠らないといけないから、食料の自給ができるのが必須になってくるわ」
ヒイラギ領の周囲は見通しの良い緩やかな平原が続いており、構造的に強い建物を作っても、害獣の眼に触れやすく、集中で襲われる可能性もあった。
地下都市式がダメなら、周囲の山を城壁と見立てるか。涼香さんはその領地を取り巻く山を構造補強してSSランク害獣への城壁とし、内部で籠って食料生産をしてやり過ごそうと考えているようだ。
SSランク害獣の強さは戦っているため知っているが、あれが何体も同時に出現したら、確実に蹂躙される都市は出てくるはずだ。その都市はヒイラギ領ではないとは完全には言い切れない。
暇な今のうちに準備を進めておくことが重要なのかも知れない。
「エスカイアさんはどう思う? 退避先」
「エルクラスト各国の中でドラガノ王国だけが住民の退避シェルターを作ってませんからね。ここは翔魔様が率先して退避先を作られた方がよろしいかと思いますわ。エルクラスト害獣処理機構に転移ゲートポイントの設置許可はわたくしが頂いてきますので」
エスカイアさんはシェルター候補地として、新たな領地を運営することを進めるべきだと言っていた。
「妾も退避先は早めに作った方がいいと思うぞ。涼香、資料を見せい」
孤児院での講義を終えてオフィスに戻ってきたトルーデさんが、涼香さんが持つ領地の詳細を記した書類に目を通していく。
「これだけの広さであれば、数万人は養えるな。転移ゲートポイントさえ設置されれば、常時は農業生産領として高い生産性を持つだろうし、緊急時は退避先としても十分に機能するであろうな」
「翔魔様が新しい領地を持つとなると、その畑で雇える子も出てきますね」
孤児院の仕事がひと段落付いたクラウディアも皆の分のお茶を持って、オフィスに入ってきていた。
孤児たちの就職先を求めているとは聞いていたが、就職先が農業とは思ってもみなかった。
「そうじゃのぅ。孤児院だけでなくギブソンで仕事にあぶれてる奴等に農地と家付きで移住を勧めるという手もあるぞ。どうせ、そんな辺境の領地だと住民はほとんどいないであろうし」
なぜか話が完全にその領地を運営することに傾いている。
いや、お金の使い道を考えるに、新たな領地を経営するために使った方が無難だと分かるし、シェルターの建設も考えれば、涼香さんが出してくれた提案はお得だとも言えた。
「ところで、その領地はどこにあるのさ?」
つい興味が湧いて涼香さんに場所を聞いてしまった。
ニヤニヤがニッコリに変わった涼香さんが、机の上にエルクラストの地図を拡げ、問題の領地のある場所を指差していた。
「エロクサルティム王国のトリアブル地方にあるんですが。ここです。ここ。リーチウォール」
涼香さんが指摘した領地の場所を確認すると、エルクラストのへそとでも言うべき中央の土地であった。
「立地的には素晴らしいといいたけど、陸路は隔絶されているんだったね。となると川はここからか」
交通路となる川を辿っていくと、やがて流れた先はヒイラギ領を掠めるように流れる川に合流していた。
川を遡上すれば、リーチウォールまで行けるのか。転移ゲートが使えない場合でもワズリンの川舟を動員してもらって輸送路は確保できるか。
というか常時、この川を物流路として使えば、農産物がワズリンから輸出できるかもな。
リーチウォールまでは船で一〇〇キロ程度遡上する必要があるが、陸路を考えれば、川の方が断然早く進むので、ヒイラギ領経由ワズリン行きとリーチウォールを繋ぐ定期便を開設してもいいかもしれない。
そう思えば、涼香さんが勧めてくれたリーチウォールはかなり良い土地に思えてきた。
「転移ゲート無しでも運用できるように川舟も整備していこう。よし、涼香さん。このリーチウォールを新たな領地として受け取ることにしたよ。エロクサルティム王国に連絡を入れてくれ。エスカイアさんはエルクラスト害獣処理機構に転移ゲートの設置許可とクロード社長への報告も頼みます。トルーデさんと聖哉を連れて一足先に現地視察してくるよ。どうせ暇だしね」
「承りました。わたくしと涼香さんで話は進めておきます」
「聖哉はギブソンにいるから呼び出さねばならぬのぅ」
「では、私が今からご連絡入れておきます」
俺が決断を下すと、チームのメンバー達の仕事は早かった。すぐにやるべきことに取り掛かり始め、聖哉がオフィスに駆け付ける頃には視察に向かう準備は完全に終わっていた。
来週、こっそりと店頭に並びます。アーススター様の公式サイトでも試し読みできるので、よろしくお願いします(`・ω・´)ゞ







