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第百八話 実家に帰らさせてもらいますって聞くと焦る。

誤字・脱字ありましたらご指摘お願いします。

 エスカイアさんとの休日デートを満喫したオレは、休み明けのけだるさを感じながら、エルクラストの大聖堂に転移していた。


 目下の所、オレのチームの仕事は無く、今日も日がな一日、孤児たちの戦闘訓練のお手伝いをする予定だ。


「翔魔様、わたくし、実家に帰らさせてもらいます」


 不意に一緒に歩いていたエスカイアさんが、爆弾発言を放り込んできた。


 実家に帰るって、ちょ、ちょっと待ってよ。オレなんかエスカイアさんの気に障ることした? 確かにまだ親父達には婚約したことを伝えてないけどもさ、オレの中ではすでに嫁であって……。


「エ、エスカイアさん!? オレになにか不手際でもありました? 嫁にする話はきちんと親父達にもするし、届け出は仕事が落ち着いたら――」


 オレの言葉を聞いたエスカイアさんの顔が一気に赤く染まる。


「ち、違いますわ。そういう意味の『実家に帰ります』では無くて、父から建国祭に出席しろと矢のような催促が来ておりまして、そちらに出席するために数日、お傍から離れるという話です。そ、その、翔魔様の口から『嫁にする』という言葉が聞けて嬉しかった……」


 聖エルフ連邦共和国の首席の令嬢であるエスカイアさんは、日本で言うところの皇族と同じであり、広く国民に慕われている女性でもあるのだ。


 そのエスカイアさんが、自国の建国祭に出席するために有給申請をしたいというのが、先程の発言の真意だった


 マジで焦ったぜ。色々と横着しすぎて捨てられてしまうのかと思った。ああいった発言で焦りを感じるのは、オレがまだエスカイアさんの隣に立てるだけの実力と実績を積んでないからだな。もっと、エスカイアさんに頼ってもらえる男にならねば……。


「あ、そうなの……。ハハハ、そ、そういった話なら涼香さんに有給休暇処理してもらうように伝えておくよ。ハハハ。エスカイアさんも働き詰めだから、たまには実家で少し羽根を伸ばしてくるといいよ」

「数日で戻りますから、翔魔様の身の回りの世話はクラウディアさんに頼んでおきますし、お仕事は涼香さんに仕切ってもらいますから、安心しておいてください」

「た、助かります」


 オレのサポートから外れるエスカイアさんは、すでに仕事の割り振りを決めているようで、社員証から二人に通話していた。


 デキル女性は仕事が手早い。さすがエスカイアさんだけのことはある。きっと、結婚してもオレはエスカイアさんの掌で、コロコロと上手に転がされて楽しく生活できるんだろうなぁ。子供は女の子二人と男の子一人がいいぞ。


「んん!! 柊君、大聖堂内でイチャイチャするのは自重してもらえるかね」


 エスカイアさん達との新婚生活に妄想を膨らませていたオレの目の前に、サングラスを掛けたイカツイ顔がぬっと現れていた。


「ひゃぁああ!? ク、クロード社長!! おはようございます」


 いきなり現れたように見えたクロード社長の顔に思わず現実に一気に現実に引き戻される。


 就活全敗のオレを救ってくれた恩義ある社長であり、実は日本でも有数の巨大グループを率いる有能な経営者でもあるクロード社長なのだが、見た目は完全にヤかマが付く職業の人としか思えないのだ。


 いきなり現れるとやっぱり、心臓に悪い顔だよね。いい人なんだけどさ。


「エスカイアと涼香君、それとクラウディア君との結婚の日取りが決まったら、ちゃんと会社に慶弔休暇申請するようにね。そうしないと、柊君は私に黙って式を挙げるだろ?」


 クロード社長は先ほどの話を聞いていたようで、結婚式を出汁にしてまた何かを企んでいるらしい気がするのは、オレの危機本能が正常に働いている証左であった。


「絶対に何か企んでいるでしょう?」


「クロード社長、わたくしたちと翔魔様の式には及びしますが、粗相をしたら、東雲さんにお仕置きしてもらいますわ」


 エスカイアさんもオレと同じ危機を感じたらしく、先手を打ってクロード社長の動きを封じることにしていた。


「ぬぅ、エスカイア。私は柊君を出汁にエルクラスト各国首脳と個別会談をもとうなどと思っておらぬぞ。日本側では色々と規制がかかるだろうから、せめてエルクラスト一豪勢な式を行おうと思っておるのだ。わが社に取って柊君は大切な人材だからな」


 豪勢な式を挙行してくれるのはありがたいが、主催者がクロード社長だと、会場が各国の首脳クラスが揃う、エルクラスト国際会議という名称に変わっても違和感の発生しない式になりそうだった。


「ほ、程々にお願いしますよ。でも、まだ段取りとか日取りとか決めてないんで。決まったらご報告します」

「HAHAHA、任せておきたまえ。この大聖堂を貸し切っての盛大な披露宴も――」


 明らかに一社員の結婚式レベルを超越した披露宴会場を提案しようとしたクロード社長の鳩尾にエスカイアさんの鉄拳が捻じ込まれた。


「ふぐぉ……エスカイア。酷いじゃないか。私は柊君の将来を思ってだな……」


 鳩尾に正拳を受けたクロード社長はガクリと膝を突いた。明らかに自業自得である。


「クロード社長。翔魔様は『程々に』と言われておりますわ。『程々に』の意味はご理解していただいてますでしょうか?」

「本当なら、我が社の社員、機構の職員、各国の貴族全てを呼んで盛大なパーティーを挙行したいところを、この大聖堂を埋めるだけの人数で自重しようとした私の気持ちを汲んで――」


 背後からツカツカと歩み寄っていた東雲さんが、オレの結婚披露宴の力説をしていたクロード社長の首すじを手刀でうち気絶させた。その手際は見事というしかなく、歴戦の戦士であるとの噂があるクロード社長も不意を打たれ対抗手段がなかった。


「柊君、クロード社長の言うことを真に受けちゃダメよ。私がきつく叱っておくから、気にしないでね」


 クロード社長を気絶させた東雲さんが、ワイシャツの襟を持つと、ズリズリとクロード社長の巨体を引き摺っていった。


 東雲さん……貴方、何物ですか……クロード社長も一応、噂ではトルーデさんとためを張る強さだと聞いているのですが。


 オレの動揺を察したのか、エスカイアさんが疑問に答えてくれていた。


「東雲さん、Sランクでしたからねぇ。しかも、休暇使ってバリバリに鍛えているし、日本では武道の経験もあったから、結構強いらしいですよ」

「そうだったのか……クロード社長、ご愁傷さまです」

「まぁ、あのキャラの濃い社長の秘書を務めるには、東雲さんの冷静さと強さが必要かもしれませんわ。わたくしも何度もクロード社長のお手伝いをさせられたことか……」


 官公庁街で『最凶の事務員』と恐れられているエスカイアさんですら、制御不能であるクロード社長をいともたやすく制御する女傑の東雲さんは、ある意味似合いの二人なのかもしれない。


 オレ自身はエスカイアさんに褒められてコロコロと転がされていたい。嫁三人の尻に敷かれる生活はきっと楽しいことがいっぱい待ち受けているんだろうな。


「さて、わたくしはこのまま、実家へと飛びますので、留守の間はよろしくお願いしますね。最近、トルーデ陛下のメイド遊びも酷くなっているので、翔魔様からも注意してもらえると――」

「わ、分かりました。トルーデさんにはキチンと注意しておきます。エスカイアさんは気兼ねなく実家のお仕事をこなしてきて」


 急にトルーデさんの話を持ち出してきたエスカイアさんに、オレはドキリとしていた。なぜなら、トルーデさんが推し進めているミチアス帝国に開設予定のメイド喫茶『ダークエルフ亭』には、オレも出資に加担させられているからだ。


 魔が差したとしかいえないが、トルーデさんが自分の稼ぎで開設しようとしているメイド喫茶の存在に気付いた時、一枚の写真で出資契約書にサインをしてしまっていたのだ。


 日本で撮られた写真には、開設予定のメイド喫茶の制服姿のヴィヨネットさんが写されていた。肌色成分が多い、とても素晴らしいメイド服にやられたオレは悪魔の契約書にサインをしてしまったのだ。


 以来、トルーデさんには強く諫めることができず、彼女はメイド道を極めるためのメイド研究を邁進していたのだ。


 さりげなくヴィヨネットさんに進捗を聞いたら、すでに店員の選考過程まで進んでいるらしい。しかも、クロード社長が日本政府に認めさせている文化交流枠を使って、選考した人を(株)総合勇者派遣サービスのグループ企業のメイド喫茶にて研修させるといった熱の入れようであるのだ。


 恐ろしいスピードでトルーデさんの野望が進んでいるのだが、今のところ実害がないため、契約書の件もあり静観しているのだ。


 さすが元一国一城の主だった人だ。目標を決めたら、行動力が凄まじいというしかねぇ……。


「トルーデさんには、遊ばないように講師以外にも何か仕事を割り振っておくから」

「そうでね。あの方は暇ができると遊びに夢中になられてしまう方なので、お仕事をさせておいてください」


 エスカイアさんも薄々、メイド喫茶の存在には気付いているようだが、オレが出資していることまでは突き止めてないようで、同じように静観するようだ。


 あの契約書、燃やした方がいいかな。何か致命的な失敗をした気がしないでもないが……。


 オレがトルーデさんとかわした悪魔の契約書に思いを巡らせていると、エスカイアさんがオレの頬に手を当てて、視線を合わせてきた。

 

 翡翠色の瞳が心なしか潤んでいる。


「翔魔様、何か他に困ったことはないですか? しばらく、お傍を離れるので、あれば先に片付けておきますが」


 その瞳を見て、『肌色成分の多いメイド喫茶に出資してます』とは、とてもじゃないが言えなかった。

 

 マズい、速攻でトルーデさんからあの契約書取り戻さないと……。なにやってんの、オレ。


「だ、大丈夫。問題ナイヨ。エスカイアさんは実家で骨休めしてきていいからね」

「そうですか。では、数日ですがよろしくお願いしますね」


 頬に当てていた手を放すと、小さくお辞儀してエスカイアさんは実家のある聖エルフ連邦共和国へ転移していった。


 そして、残されたオレはトルーデさんのいるヒイラギ領へすぐさま転移することにした。


※なろうで新連載始めました。

『最強チームから追放された元Sランク冒険者のおっさんが、辺境の弱小ポンコツチームと起こす奇跡の話』

 師匠から追放されたおっさんが冒険者が、辺境のダメダメ冒険者たちとともに周囲が驚く凄いことをして成り上がるお話です。本日より5月まで12:00に毎日定期更新で予約投稿してありますので、お時間ありましたらご一読してもらえると幸いです。目次下にリンク貼っておきます。世界観は〇ンハン風ともいうw


久しぶりに更新しました。お待たせして申し訳ありません。

書籍化作業も校正終えましたので、ほぼ山は越えました。発売まで時間がかかっておりますが、原稿はほぼ仕上がりました。キャライラストも出版社の許可が下りたら掲載しようと思いますので、今しばらくお待ちください。

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