第098話 悪いのは部長 ★
俺達は個室のシートに腰かけて外を見ていると、列車が動き出した。
「これから2時間でしたね。いつぞやの寝台列車に比べればすぐです」
「まあな。この国の旅はこのまま徐々に北上して、ランスに向かうことになりそうだな」
一緒に地図を眺めながら相談する。
「そうですね。他のルートがないです。もちろん、空路はありますが」
飛空艇は高いからな。
「他にも海路はあるが、遠回りになる」
「ええ。やはり北上してランスでしょう。どうします? ランスはイラドの同盟国ですよ?」
確かにその通りだ。
リスクがある。
「王都は避けた方が良いだろう」
ランスとゲイツの王都は一番避けなければならないところだ。
「じゃあ、王都はスルーする感じですね」
「そうなるな。まあ、ランスに着いてから考えよう」
「わかりました」
俺達はウェンディが張り付いている窓から平原を眺めながら到着を待つ。
「本当に何もない平原だな」
遠くに森や山は見えているが、ずっと平原が広がっていた。
「確かにこれでは騎兵が強そうですね」
この国は歴史的に見てもかなり強い国だ。
北は山々に囲まれ、その他は海なため、防御がしっかりしている。
確か一度も侵略されていない国だったはずだ。
もちろん、逆に攻めに出にくいというのもあるが。
「この国にもイラドの密偵の類はいるかもしれんが、そこまでだろうな」
「遠いですし、ターリーやポード同様にほとんど外交のない国ですもんね」
密偵で情報を集めても……って感じだろう。
「とはいえ、危険は危険。適当に観光して北に向かうか」
「はーい」
◆◇◆
「うーむ……うん?」
余がエルシィの旅行雑誌を読みながら考え事をしているとノックの音が執務室に響いた。
「誰だ?」
『私です』
宰相か……
「入れ」
許可を出すと、扉が開き、宰相が部屋に入ってくる。
「失礼します。おや? 旅行雑誌など読んで、どうかされましたか?」
「どうかも何もない。奴らがどこに行ったのか考えていただけだ。それでお前は何か用なのか?」
「まさしく、そのことの報告です。ランスの密偵を送り、ターリーの密偵に確認させましたが、レスター、エルシィの両名の姿は確認されなかったようです」
うむ。
実は余もそう思っていた。
「エルシィはレスターを水着で悩殺したかったわけだ。つまり海に行きたかったわけだな」
「そうなりますな」
「これは余のミスだ。よく考えたらシーズンじゃない」
今はまだ春だ。
最近は徐々に暑くなってきたし、うっとうしいなと思う日も増えてきた。
しかし、さすがに海に入るような季節じゃない。
「確かにその通りですな。申し訳ございません。我らも失念しておりました」
ちょっと焦りすぎたようだ。
冷静にならなくては。
「この雑誌に丸がしてあったポードの王都には確かに現れている。夏になればターリーに姿を見せる可能性は非常に高い。時期を見て、再び、密偵を送れ。もちろん、それまでに見つけられればそれが最上だ」
「はっ!」
こいつらに見つけられるか……
無理っぽいなって思ってしまう。
「ハァ……」
「いかがなさいました?」
思わずため息をついたら宰相が反応する。
「いや……見つからんなと思ってな」
本当は臣下が使えなさすぎるって言いたいが、それは言えない。
王にとって、臣下共のモチベーション管理も重要な仕事なのだ。
「広い世界から2人の人間を見つけるわけですからね。それは難しいかと。それにまだ1ヶ月程度です」
それはそうなんだが、時間が経てば経つほど見つかりにくくなる。
「すべてはあのバカのせいか」
初動さえ良ければ……
いや、良くなくてもいいから最悪だけは避けてくれれば良かったのに。
それをあのバカがまあ、ことごとく選択肢をミスりおった。
「過ぎたことは仕方がありません」
「わかっておる。王たるもの、これからのことを考えねば」
ターリーはない。
ポードもすでに去った後……ランス、ゲイツには現れない。
あとは南のイパニーア、ルドガー……まさか北のデイン、ウェール……いや、いっそこの地域から離れて東の諸国に向かった可能性も十分にある。
「陛下、あまり考えすぎないでください。王妃様より、最近、陛下の様子がおかしいと相談を受けております」
そうは言うが、エリクサーだ。
「王妃に余から言っておくし、極力、そういう姿を見せないようにしよう」
「陛下、御身に何かあってはいけません。我らにお任せください」
何かあってもエリクサーがあれば問題ないんだがな。
それを失った原因はお前らの派閥争いのせいなんだがな。
こんなに悩んでいるのはお前らが無能なせいなんだがな。
「そうだな……」
不満をぐっと呑み込んだ。
余はきっと名君だな。
「陛下、考え方を変えませんか?」
ん?
「というと?」
「おそらく、エリクサーは我らのもとには戻りますまい」
まあ、そうだろうな。
刺客を送っているし、殺せと命じてあるし。
「それが?」
「我らが恐れるのはエリクサーが他国に渡ることです。具体的には他国の王家に渡ることでしょう。積極的に探すのは中止し、王都周辺を探ることに集中しませんか? 正直、後手後手に回っています。ここはどっしりと構えるべきです」
「ふむ……」
これまでずっと空振りだったわけだしな。
「王家ではなく、貴族の手に渡るかもしれんぞ」
「貴族が個人で使う分には我らに何の影響もありません。怖いのは量産し、不死の軍勢を作られることです。その場合、必ず、レスターは王都に現れます」
そこを狙えばいいわけだ。
「悪くないか……」
最悪は密偵がいない国に行かれることだが……
まあ、そこまで行かれたらどっちみち、どうしようもないか。
途中で野垂死ぬのを祈るしかない。
「正直に言いますが、各地の密偵から不満の声が上がっているのです。エリクサーのことを説明できませんので何の説明もなく、あっちこっちに行かせたことがマズかったようです」
旅行とでも思えばいいだろうに。
「そうか……密偵に不満を持たれるのはマズい」
あいつらこそ、裏切られたら国が揺らぐ原因になる。
「はい。情報は最も大事な武器であり、盾でもあります」
その通りだ。
「密偵に特別手当を出してやれ」
「はっ! 各地に散らばっている密偵を元の地に戻してもよろしいでしょうか?」
「仕方がない。ただ、夏にターリーを忘れるなよ」
「かしこまりました」
ハァ……まあ、もしかしたらあの2人はどこかに仕える気もエリクサーで金儲けをしようとも思っていないのかもしれない。
何よりも実はエリクサーなんか作れないのかもしれない。
結局、あのエリクサーの検証もできていないからな。
しかし、そうなると、ウチは貴重な2人の錬金術師を失っただけになるな。
おのれ……あのバカさえいなければ……
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