第009話 休憩
光だ……
明るい……
これがセミが地中から出てくる時の感情だろうか?
「せ、せんぱーい……」
明るさに感動していると、可愛らしい顔が見えた。
「おー……エルシィ……痛っ!」
立ち上がると、腰に痛みが走る。
「だ、大丈夫ですか?」
「ポーションをくれ」
痛みもだが、それ以上に喉が渇いた。
「ど、どうぞ!」
エルシィが急いでポーションをくれたので一気に飲む。
すると、痛みがすーっと消えていき、喉の渇きも治まった。
しかし、今度は空腹が襲ってくる。
「エルシィ、すまんが、何でもいいから食べるもんを買ってきてくれ」
「わかりました。ちょっと待っててください」
エルシィは走って、裏道っぽいところから出ていった。
「ウェンディ、無事か?」
エルシィの魔法のカバンにくっついている天使ちゃん人形を抱える。
「はい。私もエルシィさんも大丈夫です。レスターさんこそ、ご無事で何よりです」
「何度も発狂しかけたがな……なるべく楽しいことを考えるようにしていた」
全然、寝られなかったし。
「せんぱーい、そこに屋台があったので串肉とパンを買ってきましたー」
エルシィが戻ってきた。
「くれ。とにかく栄養補給だ」
「どうぞ」
エルシィが串肉を渡してくれたので頬張る。
鶏肉に塩胡椒がかかっただけのシンプルなものだったが、今の俺にはごちそう過ぎた。
あっという間に食べると、さらにはパンも食べていく。
「お水です。どうぞ」
パンを食べえ終えると、エルシィが水筒をくれたので水を飲んだ。
「あー……これが生か……寒いし、身体は痛い。飢えに水分不足……さらには風のうるささと睡眠不足で死ぬかと思った……」
「お、お疲れ様です」
「大変ですね……」
ホントだよ。
「確認だが、ここはランスだな?」
「はい。ランス王国のレムの町です」
「イラド脱出は成功か……」
ひとまずは安心だな。
「ですね。これからどうしますか? 私は資格証を見せていますので追手が来るかもしれませんよ?」
「わかっている。ちょっとその辺を話し合いたいが、まずは休ませてくれ。どれだけ早くても明日のこの時間までは追手も来ないから今日はこの町の宿屋に泊まろう」
イラドからランスまでは1日1便しかないのだ。
「それもそうですね。では、宿屋に向かいましょう。歩けます?」
「大丈夫だ。行こう」
俺達は裏道を出ると、イラドの王都と比べると少し寂しい通りを進んでいく。
「宿屋は……」
「あそこでいいんじゃないですかね?」
エルシィが指差した先には【月光の宿】と書いてある看板があった。
「よし、行こう」
俺達は宿屋に入る。
すると、受付には暇そうにしているおっさんが座っていた。
「こんにちはー」
エルシィが声をかけると、おっさんが立ち上がった。
「いらっしゃい。泊まりかい?」
「はい。1泊ほど」
「2人か……1部屋でいいかい?」
「はい」
いいんだ……
「了解。3000ゼルになる。朝食と夕食を付けると5000ゼルになるが、どうする?」
「お願いします」
エルシィが頷いたのでカウンターに5000ゼルを置く。
「じゃあ、これが鍵な。部屋は2階の5号室だ。あと、食事はそこだから」
おっさんは鍵を渡してくると、右の方にある食堂を指差した。
「わかった」
俺達は階段を昇り、5号室と書かれた扉を開け、中に入る。
部屋は10畳程度でそこまで広くないし、質素だがベッドが2つにテーブルが置かれており、最低限のものは揃っているように見えた。
「あー、疲れた……」
そう言って、ベッドに倒れると、一気に睡魔が襲ってきた。
「せんぱーい、お風呂がありますよー。入りましょうよー」
風呂場の方からエルシィが顔を出す。
「入っていいぞ。俺は寝る。まったく眠れなかったんだよ。夕方には起こしてくれ」
「わかりましたー」
エルシィの声を聞くと、すぐに意識を手放した。
目が覚めると、隣のベッドで寝ころびながら人形と話をしているエルシィが見えた。
「今何時だ?」
「あ、起きました? 5時過ぎです」
一瞬だったが、そんなに寝たのか……
「腹減ったな」
「私もですよー」
「私もー」
人形は腹が減るのか?
あ、いや、ウェンディはかなり食いしん坊だったな。
「飯に行くか」
「その前にお風呂に入ったらどうです? すごく気持ち良かったですよ?」
「それもそうだな」
当たり前だが、2日間風呂に入っていない。
「お風呂に入ったらご飯にしましょうよー」
「そうするか。ちょっと待っててくれ」
俺はカバンを手に取ると、風呂場に向かった。
風呂場は小さいがちゃんと浴槽もあったので湯を溜め始める。
その間に服を脱ぎ、シャワーを浴びると、湯船に浸かった。
「あー……これぞ人間の生活だ」
けっして暗くて狭いカバンの中は人が生きる場所じゃない。
ストレスがヤバかったし、閉所恐怖症や暗所恐怖症になってもおかしくないレベルだった。
俺はゆっくりと風呂に入り、心の疲れを取ると、風呂から上がる。
「あー、良い湯だったわ」
「ですよねー。ご飯に行きましょうよ」
「そうするか」
「食べまーす」
エルシィが起き上がると、ウェンディもふよふよと浮き上がった。
「ちょっと待て」
「ん? どうしました?」
エルシィが足を止めて聞いてくる。
「そいつをどうする?」
宙に浮いている人形を指差す。
どう見ても不自然だ。
「あ、ウェンディちゃん……」
人形が浮いているのですら変なのに食べさすのか?
しかも、しゃべっている。
「え? 私はお留守番ですか?」
人形のウェンディの表情ががーんとなる。
「えっと……使い魔で通せませんかね?」
使い魔は魔法使いが使役する動物や魔物のことだ。
主に絶対に服従のペットみたいなもの。
「俺達、錬金術師だぞ」
魔法使いとは別物だ。
「周りはわかりませんよ」
まあ、わからないだろうけど……
「レスターさん、これからイラド王国から追手が来ると思います。その際におそらくですが、あなた方の人相なんかを聞きだし、どこに行ったかを探るでしょう。しかし、人間というのはインパクトがある人間を見ると、そのインパクト要素を覚え、他は意識に入りません。例えばですが、ここに来るまでに大きなハルバードを持った戦士がいましたね?」
いたな。
多分、冒険者か何かだろう。
「覚えている」
「私も覚えてます。大きい斧だなーって思いましたし」
だよな。
「その人の顔、髪型を思い出せますか?」
「いや、思い出せん」
「そういうことです」
つまり俺達を思い出そうとしてもウェンディという天使ちゃん人形のインパクトが強すぎて俺やエルシィのことは思い出せないって言いたいらしい。
「わかった。じゃあ、お前は使い魔でいいわ。飯に行こう」
納得したわけじゃないが、それほどまでにご飯が食べたいのは十分に伝わったのだ。
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