第079話 引退しよっかな…… ★
「ハァ……」
余は執務室でため息をついた。
レスター達がランスにいるのではないかと思い、密偵を送ったのだが、良い報告が上がってこないのだ。
「ハズレか? あいつらは一体どこに行ったというのか……」
すぐに見つかると思ったのだが、まったくその気配がない。
もしや、他国なんかに行っておらず、この国に留まっているのではないかとまで思ってしまう。
「いや……」
あいつらは確かにポードの王都にいたのだ。
その線はないはず。
余はエルシィの家にあったという雑誌を開き、ポードの王都にあるイルミネーションが綺麗な並木道を紹介されている特集ページを見る。
そこには確かにペンで丸が描かれていた。
「うーむ……ん?」
悩んでいると、ノックの音が部屋に響いたので顔を上げる。
「誰だ?」
『私です』
この声は……妻だ。
「入ってくれ」
そう答えると、扉が開き、余の妻である王妃が部屋に入ってきた。
「失礼します。お仕事中なのに申し訳ありません」
いや、ホントにな。
「構わない。それよりもどうした?」
何かあったのだろうか?
「いえ……最近、陛下のご様子がおかしいとのことで様子を見に来ました。いかがなされたのです?」
様子がおかしかっただろうか?
いや、エリクサーと聞いて、焦っていたのかもしれんな。
「ちょっと仕事がな」
いくら王妃といえど、エリクサーのことは言えない。
「そうですか……何を見ておられるんですか?」
王妃が余が持っている雑誌を見て、首を傾げる。
「あー、これか……たいしたことじゃない。休暇が取れたらどこに行こうかと考えていただけだ。まあ、夢の話さ」
余は王だ。
つまりこのイラドが余ということになる。
休暇なんてない。
ただただ国のために生き、国のために死ぬのが王の務めである。
「そうですか……どこに行きたいと思いましたか?」
ん?
珍しく食いついてくるな……
余のことを心配しているんだろうか?
「そうだな……これなんてどうだ? お前と2人で歩いたら若い頃のことを思い出せる」
エルシィが丸を付けたイルミネーションが綺麗な並木道を見せる。
「まあ……! 素敵だと思います!」
ホント、女は身分関係ないな。
何が良いんだろう?
「お前は他に行きたいところがあるか? 夢の話でも話すだけで楽しいものだ」
「そうですね……海に行きたいです」
海?
泳ぐのか?
絶対に泳げないだろ。
「それは良いな。王位を息子に譲ったらイラドの海になるが、一緒に行こうじゃないか」
「まあ……! それは良いと思います!」
こいつ、何しに来たんだろう?
余を慰めに来たのか?
それとも余のご機嫌取りをしに来たのか?
まあ、なんでもいいか。
これも身分に関係ないことだが、妻が幸福ならその家庭は幸福なのだ。
「王妃様……そろそろ」
部屋の外に控えていた侍女が王妃に告げる。
「そうでした……陛下、これからお茶会があるので失礼します」
本当に何しに来たんだろう?
「そうか。余も仕事を続けるとしよう。良い息抜きになった。感謝する」
「いえ……」
王妃は上品に微笑むと退室していった。
「ハァ……」
ため息をつくと、雑誌をパラパラとめくり、海に関する特集を見ていく。
「海か……釣りでもしながらのんびりとした余生を送りたいな……ん?」
んー?
「ハァァ…………誰か! 誰かおらんか!?」
深いため息をついた後に大声を出すと、すぐに扉が開き、兵士が入ってきた。
「はっ! お呼びでしょうか!?」
「至急、大臣を呼んでくれ」
「はっ!」
兵士はすぐに部屋を出ていった。
「ハァ……心労だ。余の様子がおかしいのは間違いなく、無能な臣下のせいだ」
あいつら、本当にバカか?
頭を抱えながらしばらく待っていると、大臣が部屋に入ってきた。
「お呼びでしょうか?」
「ああ。これを見ろ」
エルシィの雑誌を大臣に見せる。
「ふむ……【悩殺★ これで気になるあの男子もイチコロ! 夏の海の水着大作戦!】ですか……陛下も若いですな」
陛下も若いですな……じゃないわ!
「なんでそのページのそれを読んだ?」
「丸が付いてますので」
そうだな。
丸が付いているな。
「余は何も描いてない」
「はて? どういうことでしょう?」
こいつ、ボケてないか?
「余は丸を描いてない。では、誰が描いた?」
「エルシィでしょうか? なるほど。レスターを悩殺したかったわけですかな?」
余が天才説が真実味を増してきたな。
「エルシィはそれに丸を描いた。つまりエルシィはそこに行きたかったわけだ。実際、同じ丸を付けたポードの王都にも現れておる。つまり、次はそこじゃないか?」
「なるほど。ここは……ターリーですな」
………………。
「1つ聞きたい。ポードのイルミネーションに丸がしてあったことを見つけたのは良く見つけたと褒めよう」
遅いけどな。
「ありがとうございます」
嫌味すら通じんか。
「その丸を見つけ、慌てて余に報告し、雑誌の調査をやめたわけか?」
続きを読まなかったのか?
「おそらくは……」
「それで余が見つけたわけか?」
「そうなりますな」
頭が痛い……
「……ターリーに密偵を送れ」
「ゲイツかランスから動かしますか?」
「それで構わん。王都や海沿いの主要都市に送れ」
「かしこまりました」
大臣はそう答えると、退室していった。
「ハァ……」
余が早死にしたらあいつらのせいだな。
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