第077話 エスカレーター……
仕事を終え、町に戻ると、造船場を通る。
すると、船乗りや職人達が昨日、一昨日よりも忙しなく動いているように見えた。
「どうしたんですかねー?」
エルシィが聞いてくる。
「さあ? 何かあったのか?」
「海賊だったりして」
「まさかー」
「ないない」
ウェンディの言葉に笑いながら答えた俺とエルシィだったが、急いで坂を登り、海を見渡す。
普通の船が2、3隻あるようにしか見えず、海賊船や敵船らしき船もそれに対抗する軍の船の姿もない。
「海賊船は見当たりませんね」
何故かウェンディが残念そうに言う。
「見たくないわ」
「そうだよー。怖い、怖い」
「この町の戦力はすごいって言ってたじゃないですか」
それはそうだが、危ない目に遭わないのが一番なのだ。
「安全第一なんだよ」
「そうそう。しかし、そうなると、何があったんですかね?」
「さあ? ニーナのおじさんに聞いてみるか」
俺達はそのまま坂を登っていき、店に入った。
そして、受付にいる店主のもとに向かう。
「おー、帰ったか。実はちょっと持ち逃げの心配をしていたわ」
店主がそう言って笑う。
「そんなことはしない。俺達は店を開くのが目的なんだぞ」
「そりゃ偉いこった」
「これが今日の成果だ」
そう言って借りていた魔法のカバンを提出する。
「ちょっと確認してくる」
店主がカバンを持ち、立ち上がった。
「その前にちょっと聞いていいか?」
「何だ?」
「造船場の方が騒がしがったんだが、何かあるのか?」
「あー、それか。たいしたことじゃない。単純に雨が降りそうなんだよ」
俺達はそう言われて窓から外を見る。
朝からずっとそうだが、雲一つない快晴だ。
「晴れだが……」
「そういう予報があったんだよ。この国はそういう気象に関係する分野が進んでいるんだ。そんでもって、この町は特に雨に関して過敏だから船乗りや職人連中が備えをしているんだろ。まあ、この辺の高さに住んでいる俺達や観光客にはあまり関係のない話だ」
この町は天気予報があるんだな。
「本当に降るのか?」
「多分な。2、3日は降るって言ってたな。じゃあ、ちょっと待ってろ」
店主はそう言って奥に引っ込んでいった。
「雨か」
「降るとは思えないんですけどねー」
うーん……
「ウェンディ、わかるか?」
「天使は天気のことはわかりません。ただ、おじさんは嘘をついている感じではなかったです」
「そうか……」
俺達が窓から空を眺めながら待っていると、店主が戻ってきた。
「待たせたな。いやー、すごいわ。お前ら、本当に優秀な錬金術師だな。あれだけの質と数を1日で納めたのはお前達が初めてだ」
店主が絶賛してくる。
「頑張りましたー」
「ああ、すごいな。すべてまとめて220万ゼルで買い取ろう」
すごっ……
「ありがとうございまーす!」
店主が札束を数え、カウンターに札を10枚ずつ纏めて置いていく。
「今後はどうするんだ? 新婚旅行中なんだろ? まだ働くか?」
「明日から雨なんだろ? 森には行けないな」
「そうだな。木材の採取はできても加工はできないだろうな。それに森には川もあるんだが、増水して氾濫することもあるし、何よりも足元が悪いから研究職の人間は行かない方がいいぞ」
そもそも雨に濡れるのが嫌ってレベルだ。
「2、3日は休むかな……その間に今後のことでも考える」
「そうか。まあ、ゆっくりしていってくれ。ほら、代金だ」
店主が金を数え終えたので220万ゼルを受け取る。
「なあ、それと本屋ってどこにあるんだ?」
「本屋、2つ上の階層にあるぞ。ただお前らが読むような専門書はないと思う。そういうのは取り寄せになる」
王都以外は大抵そうだろうな。
理由は需要が少ないから。
簡単に言えば売れないんだ。
「いや、次に行く国を検討する旅行雑誌的なものが欲しいだけだ」
「だったらいくらでもあるな。2つ上の階層の右に行ってすぐのところにある」
「わかった。じゃあ、行ってみる」
「おう。ありがとうな。助かったぜ」
俺達は店を出ると、坂を登っていき、店主が言っていたように2つ上の階層を右に曲がった。
すると、すぐに本屋を見つけたので中に入る。
本屋は娯楽小説やら雑誌やらがたくさん売っていた。
「今後のことを考えて、色々買っても良いかもな」
「そうですね。明日から宿屋の中でしょうし、船旅や列車での旅になりそうですし、買っておきましょう」
話をしながら過ごすのも悪くないが、読書も良いもんだしな。
「ウェンディ、欲しい本があれば言えよ。儲かったし、いくらでも買ってやる」
220万ゼルは大金だ。
資金集めが目的とはいえ、本を買うくらいは良いだろう。
「本当ですか? 私、恋愛小説とかを読みたかったんですよー。勉強です」
興味があるのか……
「エルシィ、俺は旅行雑誌を探すからウェンディと適当な本を買っておいてくれ」
「わかりました!」
俺達は手分けをして見ていき、本を購入した。
ウェンディは王子様と恋をする庶民の娘の小説を選んでおり、何が勉強なのかわからなかったが、まあ、買ってやった。
そして、本屋を出ると、坂道の通りまで戻ってくる。
時刻は17時を回っており、夕日が綺麗に見えていた。
とても雨が降るとは思えないくらいに綺麗な夕焼けだ。
「エルシィ、元気はあるか? 明日から雨だし、上に行ってみないか?」
「良いですねー。せっかくですし、行ってみましょー」
エルシィがご機嫌に腕を組んできたのでそのまま坂を登っていった。
そして、頑張って上まで登ると、多くのカップルや観光客がいる中で夕日に染まる海を見る。
「綺麗、ですね……」
「ああ……」
疲れた……
「ホント、インドアな夫婦ですね。ここはあの夕日の先に俺達の未来が待っているんだぞって言いながらちゅーするところですよ」
ちゅー禁止区域だぞ。
というか、オーケーな区域があるのかって話だが。
俺達はちょっと休憩をし、水平線に沈んでいく夕日を堪能すると、宿屋に戻った。
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