第075話 私は……?
俺とカルロは店で食事を終えると、2階のバーみたいなところに上がり、もう何杯か酒を飲んだ。
そして、お開きにすることになり、坂を登っていくと、宿屋までやってくる。
「飲んだ後にこの坂はきついな」
「だろう? 休日の朝方になると、諦めた船乗りが道端で寝ていることもあるぜ」
ひっどいな。
「お前も経験があるのか?」
「さすがにないな。俺はそこまで飲まないし。同僚なんか今日の2倍は軽く飲むぞ」
それはすごいな。
「この町で馴染める気がしないな」
「慣れだけどな。まあ、せっかく来たんだし、楽しんでくれ。じゃあな」
「ああ。今日はありがとう」
そう言うと、カルロは手を上げて、店がある方向に帰っていった。
そんなカルロの後ろ姿を見送ると、宿屋に入る。
「あ、おかえり。奥さんの方はもう帰っているわよ」
受付にいる女将さんが上を指差しながら教えてくれた。
「そうか。ニーナは?」
「ニーナちゃんはここまで送ったらご機嫌で帰ってたわ。楽しかったみたい」
そりゃ良かったな。
「わかった。ありがとう」
「いえいえ、ごゆっくり」
俺は階段を上がり、部屋の前に来ると、一応、ノックをした。
「帰ったぞ。入っていいか?」
『いいですよー』
エルシィの声が聞こえたので部屋に入る。
すると、寝巻き姿のエルシィがベッドに腰かけ、窓の外を見ていた。
なお、ウェンディはすでにベッドのど真ん中を占領して、寝ている。
「ただいま」
「おかえりなさい。どうでした?」
エルシィが笑顔で聞いてくる。
「意外にも話が盛り上がったな。実はちょっと不安だった」
何を話せばいいのだろうと思っていたのだ。
「あはは。大丈夫ですって。それでちょっと遅かったんですか?」
「飯食った後、2階にあるバーで飲んだんだ。色々と話を聞いてきた」
「そうですか。あ、お風呂、どうぞ」
「ああ」
頷くと、浴室に行き、風呂に入った。
そして、1日の疲れを熱い風呂で癒すと、部屋に戻る。
「まだ寝ないのか?」
部屋ではエルシィがさっきと同じようにベッドに腰かけ、外を眺めていた。
「先輩を待っていたんですよー。一緒に寝ましょう」
わざわざ待っていたのか。
「そうか。そっちはどうだった?」
そう聞きながらエルシィの隣に腰かけた。
「楽しかったですよ。雰囲気の良いお店でしたし、久しぶりにゆっくり話せて良かったです。相変わらずだなーって思いました」
「あいつが目立ってただろ」
すやすやと寝ているウェンディを見る。
「それはもう」
エルシィは笑うと、頭を傾け、寄りかかってきた。
俺はそんなエルシィの頭を撫でる。
「カルロに聞いたんだが、海路で次の国に行くなら西のランスかイパニーアだってよ」
「良いですねー。ランスは少し危ない気がしますが、王都以外の田舎町なら行っても良いかもしれません。イパニーアはわかりませんね」
俺もわからない。
ポードと同様にイラドとは何の関係もない国なのだ。
「そうだな。まあ、そのどっちかだ」
「ちょっと本屋さんに行って、観光雑誌でも買いますか。それで決めましょう」
「そうするか。明日も森だし、寝るか」
「はーい」
俺達は灯りを消し、就寝した。
翌日、昨日より早めに起きると、朝食を食べ、準備をする。
そして、部屋を出て下に降りると、女将さんからバスケットを受け取り、宿屋を出た。
「今日も良い天気ですね」
エルシィが言うように雲一つない快晴だ。
「伐採日和って言っていいのかはわからんが、森に行くには良いな」
「森デートですね」
普通に仕事だな。
「いっそ御二人で船を作って、それで旅に出るのはどうですか? 楽しいかもしれませんよ」
ウェンディが名案を思いついたといった感じで提案してくる。
「作れたとしても動かせないな」
「間違いなく、遭難するね。本当に大冒険になっちゃうよ」
大冒険で済めばいい。
普通に死ぬと思う。
「楽しいと思うんですけどね」
「俺達ができるのは小型のボートを作って湖でぷかぷかするくらいだ」
「それは良いですね。湖デートです」
イラドの王都近くに湖なんかなかったし、俺もちょっと良いかもなって思った。
俺達は坂道を降り、左の方の通りを抜けた。
そして、門にまでやってくると、門の兵士達が俺達をちらっと見てくる。
しかし、エルシィがニコッと笑って挨拶をすると、『気を付けてなー』という言葉だけでそのまま門を抜けることができた。
「俺が同じことをしたらどうなると思う?」
森に向かって歩きながら聞いてくる。
「止まるように言うと思います」
「先輩、微笑むことはあっても笑わないですもんね」
うーん……
「ふっ……」
「バカにしてるんですか?」
「ニヒルすぎませんか?」
笑ってみたのだが、不評のようだ。
「難しいな」
「あなたはそのままで良いと思いますよ」
「そうですよ。かっこいいんですからそのままで」
この性格は前世からだったから治すのが難しい。
いつだって皆が賑やかに騒ぐ中、ただ一人、一歩下がって静かに見ていたのが俺だったのだ。
でも、今ならわかる。
だからこそ、あの後悔しかない死に際なのだ。
「お前がいてくれて良かったよ」
エルシィの頭を撫でる。
「おや? 愛の告白?」
「お前がいてくれるおかげで良い人生を送れそうだ」
多分、後悔はないだろう。
「当たり前じゃないですか。楽しく生きましょうよ」
「そうだな……」
なんかウェンディがめちゃくちゃ見てきたのでとりあえず、撫でておいた。
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