第066話 大事なのは愛嬌か……
ニーナの店にやってくると、親父さんが受付で暇そうに頬杖をついていた。
「帰ったか。もう客も来ないから店じまいにするぞ」
時刻はすでに16時を回っているが、店を閉めるのは少し早い気がする。
しかし、その判断も店の店主が決めることだろう。
これまでずっとどこかで働いてきた俺はこういうのにもちょっと憧れるし、良いと思う。
「そう? じゃあ、あとは任せて。ちょっとレスター先輩とエルシィにオイルや防腐剤の材料を売るからさ」
「あー、そっちの仕事をするのか」
「うん。おじさんの所に話をつけてきた。そういうわけで明日は2人に同行するね」
「わかった。じゃあ、あとは頼むわ」
親父さんはそう言って、奥に引っ込んでいった。
「じゃあ、ちょっと材料を持ってくるね。どれくらいいる?」
「どうでしょうかね?」
エルシィが聞いてくる。
「とりあえず、5つくらい作っておくか。足りなきゃ明日また作ればいいし」
「それもそうですね。ニーナちゃん、5つ分」
「わかった。ちょっと待っててね」
ニーナは頷くと、店の中を回っていき、籠に入った何かの木の実、銅とクロムのインゴットをカウンターに置いていく。
そして、木の実を数え、計算をしだした。
「えーっと……1万1000ゼルだけど……まあ、ご祝儀割引きで1万ゼルでいいよ」
「ありがとよ。ほら」
ニーナに1万ゼル札を渡す。
「まいどー。この辺の材料はいくらでも在庫がありますから足りなくなったら言ってください」
船の町だし、需要はかなりあるだろうからな。
店を開く際はその辺りの地域性も考えた方が良いだろう。
「そうするわ。とりあえずは作ってみる」
「そうしてください。これがレシピ本です」
ニーナがそう言って本をくれたのでぱらぱらと見ていく。
オイルや防腐剤の作り方だけでなく、木材の加工の仕方全般が書いてある本だった。
「この本って貴重なものじゃないのか?」
「いえ、普通に本屋に売ってますよ。多分、この国ならどの町にも置いてあるんじゃないですかね? それくらいにポピュラーな本です」
これも地域性か。
イラドの王都にはなかった気がするし。
「悪いな。読んだら返すわ」
「はい。では、宿屋に向かいましょうか」
「ああ」
俺達は買った材料を魔法のカバンに収納すると、店を出る。
そして、何度も通った道を歩いてくと、坂道の通りまで戻ってきた。
「ここね」
ニーナが見ているのは坂道の大通りとこの階層の通りがある十字路の角にある建物だった。
建物は2階建てであり、【風の宿】と書かれた看板がある。
木造であり、ぱっと見は歴史がありそうだ。
「ここが1万ゼルの普通の宿屋か?」
「はい。老舗の宿屋ですね。それとアドバイスをしますと、この町の飲食店って観光客用の眺めが良いけど、高いお店が上の方にあり、地元民が使う眺めゼロだけど、リーズナブルなお店が下の方にあります。どっちに行っても良いですが、おすすめは宿屋で出される料理を部屋で食べることですね。基本的にはどこの宿屋も眺めを重視していますし、食べ物も地元で捕れた新鮮な魚やお肉を使っていますので」
なるほどな。
まあ、今日はもうこの坂道を歩くのも億劫だし、部屋で食べた方が良いかもしれない。
「わかった。今日はありがとうな。色々見られたし、紹介してくれたから助かった」
「ニーナちゃん、ありがとー」
「ありがとうございます」
エルシィとウェンディも礼を言う。
「いえいえ。これくらいは当然のことですよ。それと明日ですけど、何時に出ますか?」
「森まではどれくらいの時間がかかるんだ?」
「30分ってところですかね? 奥にまでは行きませんし、そんなものだと思います」
となると、明日の朝はちょっとゆっくりしたいし……
「10時くらいでいいか?」
エルシィに確認する。
「はい。いいと思います」
エルシィが笑顔で頷いた。
「ニーナ、10時で頼む」
「わかりました。では、その時間にお迎えに上がります。まあ、近くですからね。それではまた明日。今日はゆっくり休んでください」
ニーナはそう言うと、坂を降りていった。
多分、いとこおじのおじさんの店に向かったのだろう。
「本当に至れり尽くせりだな」
「ありがたい限りですね」
「これも御二人の人徳でしょう。では、宿屋に入りましょう」
ウェンディが勧めてきたので扉を開け、中に入る。
宿屋は吹き抜け構造となっており、開放感があった。
木材の落ち着いた雰囲気がどこか心地よく、老舗って言われてどこか納得した。
「いらっしゃい。観光客かしら?」
受付にいる30代くらいの女性が優しい笑みを浮かべながら声をかけてくる。
「はい。ニーナちゃんの友達なんですけど、紹介されたんですよー」
エルシィが笑顔で答えた。
「あら、ニーナちゃんのお友達だったの?」
「はい。魔法学校で一緒だったんです。こちらの夫はお兄さんのカルロ先輩の友達です」
うん、カルロの友達。
「へー……そういえば、あの2人は留学してたわね。それでこの町に来たの?」
「はい。新婚旅行中にたまたまニーナちゃんに会ったので寄ってみたんですー」
エルシィがそう言って腕を組んでくる。
「それは良いわね。それで泊まり?」
「はい。何日か滞在しようと思っています」
「2人部屋だと1泊朝夕食付きで1万ゼルよ。ニーナちゃんのお友達だし、サービスでワインを付けてあげる」
「わぁ! ありがとうございまーす。あ、それと食事を3食分いただけませんか? 実はこの子は使い魔でして、ご飯を食べるんですよ」
エルシィが抱えているウェンディを見せる。
「使い魔のウェンディでーす」
「あら、可愛い。使い魔ってこういう可愛い子もいるのね」
大抵の人は驚くんだけど、たまにそうじゃない人がいるんだよな。
「お魚食べたいでーす」
こいつ、本当にあざとい天使だよな。
「あらあら。じゃあ、食事は3人分ね。サービスしてあげる」
「「わぁ! ありがとうございまーす!」」
あざとい2人だよ……
間違いなく、俺が言ったら女将さんは引くだろうな。
絶対に言わんが。
「じゃあ、今日の分の1万ゼルね」
「はい」
エルシィが財布を取り出し、1万ゼルを支払った。
「じゃあ、これが鍵だから。お部屋は2階の1号室ね」
料金を受け取った女将さんが鍵をエルシィに渡す。
「夕食は部屋で食べたいんですけど、大丈夫ですか?」
「ええ。そういうお客さんが多いわね。何時が良いかしら?」
「18時くらいでいいですかね?」
エルシィが確認してくる。
「そのくらいでいいんじゃないか?」
「じゃあ、18時でお願いします」
「わかったわ。朝食は起きたら声をかけてちょうだい。じゃあ、ごゆっくり」
俺達は近くにある階段を上ると、一番手前にあった1号室に入った。
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