第062話 超暇
ギルドの中は狭く、前世であった交番くらいの広さしかないうえに冒険者の姿はない。
そんなギルドの受付には若い黒髪の女性が座っており、暇そうにあくびをしていた。
「クラーラ」
ニーナが声をかける。
「ふわーあ……ニーナじゃん。帰ってきたの?」
こいつがぶっちゃけてた友達だな。
「さっきね」
「おかえり。ところで、その人達は? 見かけない顔だけど?」
クラーラと呼ばれた受付嬢が俺達を見る。
「この人達は私が留学していたイラドの魔法学校の先輩と同級生。新婚旅行中で立ち寄ってくれたの」
「あー、幸せ側の人達か。羨ましいね」
クラーラが若干、ひがみが入っているような言い方をする。
「そうだね。それでね、国を出て、どこかにお店を開きたいってことで旅をされているらしいの」
「何それ? 夢見がちな夫婦ね」
そう思われても仕方がないと思っている。
「同じ学校って言ったでしょ。2人共、優秀な錬金術師よ」
「なるほど。それならわかるわ。錬金術師なんてどこも足りてないしね。それでどうしたの? お店資金集めで仕事? 錬金術師ならあんたのところに直接卸せばよくない?」
「旅をされてるから冒険者登録してほしいの」
「まだしてなかったわけね。イラドを出る際にすればいいのに」
そんな暇はなかった。
今思っても本当にさっさと国を出たしな。
「必要だとは思わなかったんだよ」
言い訳しておこう。
嘘はついてないし。
「イラドほどの大国で王都の人間だったらそうかもね。えーっと、じゃあ、書類を書いてもらえる?」
クラーラがカウンターの下から1枚の書類を取り出してカウンターに置く。
「1枚でいいのか?」
「夫婦なんでしょ。パーティー用のやつで登録するから1枚でいいわ。あ、でも、離婚したら最寄りのギルドに報告してね」
そうなるのか……
「わかった。えーっと……まずは名前か」
名前を書く欄は複数あったので一番上にレスター・ハートフィールドと書く。
そして、下の欄にエルシィとまで書くと、チラッと横にいるエルシィを見た。
エルシィがじーっと俺の手元を見ていたので名字のハートフィールドまで書く。
すると、エルシィが満足そうに頷いてペンを取り、俺と自分の名前の間に可愛い丸文字で夫婦と書いた。
「主張の強い奥様ね……」
見ていたクラーラが呆れる。
「ほっとけ。次は……」
その後は年齢や性別なんかの基本的なことを書いていく。
すると、特技や技能の欄になった。
「どうする? 錬金術でいいか?」
エルシィに聞く。
「魔法も書いておきましょう。かっこで見習いって」
エルシィにそう言われたので【錬金術、魔法(見習い)】と書く。
その後も書いていくと、最後に保証人を書く欄となった。
「ニーナ、頼むわ」
そう言ってニーナにペンを渡す。
「はい」
ニーナは保証人の欄に自分の名前を書いた。
「こんなものでいいか?」
すべての欄を埋めたのでクラーラに確認する。
「はい。最後に確認ですけど、緊急依頼を受ける意思はありますか?」
「緊急依頼って何だ?」
「そのまんまです。何かしらの緊急時に依頼を受ける意思があるかどうかの確認です。御二人は錬金術師なので何かしらの事故が起きた際にポーション作りとかの依頼が来たりします。それを受けてくださるかの確認ですね」
何、この質問?
「状況による」
それしかないだろ。
「暇だったらの話です」
「金出るの?」
「もちろん、出ますよ」
うーん……
「状況によるが、絶対に拒否するというほどでもない」
「受ける意思はありっと……」
なんか勝手に書いてるぞ。
「本当に状況によるぞ?」
こっちは一人じゃないんだ。
危ない橋なんか渡れない。
「それでいいんです。要は何かが起きた際にこういう依頼をお願いする優先順位決めですから。冒険者登録している方の中には人嫌いの方もいて、絶対に受けないっていう感じの人もいらっしゃるんです。そういう人に話を持っていっても時間の無駄なんで」
緊急時だし、1分1秒も惜しい時だからか。
何かしらの経験からそういうシステムになっているんだろうな。
「ちなみに確認だが、冒険者登録を解除することもできるのか?」
「もちろん、できますよ。年を取ったり、ケガをされたりして引退される方もいらっしゃいますからね。こちらも強制的に働けとは言えません」
ならいいか。
面倒なことになりそうになったらやめればいい。
「一応、言っとくが、できることならするが、それ以上はせんぞ。俺達には俺達の人生がある」
「存じております。まあ、念のための確認ですよ。当たり前ですけど、緊急依頼なんて滅多にありません。あっても村に熊とか魔物が出たとかですね。レスターさんやエルシィさんにそういう仕事を振ることはないです。大事な錬金術師をそんなので失ったら仕事を振った職員はクビですよ」
魔法(見習い)って書いておいて良かったな。
「他にはあるか?」
「いえ、以上です。あ、これはちょっとしたアドバイスですけど、新しいところに行かれる際はその地のギルドに寄った方が良いですよ。ギルドは世界中にありますが、基本的にはウチのようにその地域の人間が職員をしています。今回はニーナがいましたけど、ギルド職員はその地域のことに詳しいですし、おすすめの宿やなんかを紹介できます。可愛らしい奥様がいらっしゃるようですし、活用することをおすすめしますね。では、冒険者カードを作りますので少々、お待ちください……あー、疲れた。今日は働いたなー」
クラーラはそう言って奥にある扉の方に行き、中に入っていった。
「なあ、ニーナ」
「何ですか?」
「ギルドって暇なのか?」
客もいないし。
「王都に行けば大きいギルドもあるんですけどね。ここはあまり仕事がないんですよ。ほら、海賊や敵国に狙われやすいから町が要塞化しているって言ったじゃないですか。つまりこの町って町の規模に比べて軍の戦力がすごいんです。冒険者の仕事なんかほぼないです」
なるほどな……
そりゃクラーラも暇そうにしているわけだわ。
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