第057話 で? で? で?
エルシィがニーナの分のお茶を持ってきてくれたので3人でお茶を飲む。
「ニーナ、エルディアってどんなところなんだ?」
「私も聞きたーい」
「私もです」
なお、ウェンディは窓に張り付いたままだ。
「エルディアですか? エルディアは港町だから漁業が盛んです。他にも良い木材が採れるので造船業が盛んですね」
それでカルロは造船関係の仕事に就いたのか。
「錬金術はどうだ? 昨日、言ったが、俺達は店を開くために資金集めをしている。俺達が稼げるのはやはり錬金術なんだ」
魔術師はまだ見習いだし、本職を生かしたい。
「錬金術師はどこに行っても儲かると思いますけど、うーん……エルディアといえばやはり造船関係だと思います。ただ、造船関係は長期になりますし、旅行中のレスター先輩達は向いてないかもしれませんね」
確かにそっち系は難しいかもな。
「ポーションはどうだ?」
「ウチの店でも取り扱ってますから売りたいなら買い取りますよ」
「いくらだ?」
「ランクによりますけど、2000ゼルくらいですかね?」
普通だ。
やっぱりポードが異常だったんだな。
「エルディアで売れるものは何だろうか?」
「造船関係が盛んなんで木材関係でしょうね。森に行って切ってきて、それを加工すれば結構なお金になると思います。一攫千金を狙うなら海賊伝説とかありますよ」
海賊伝説……
「何だ、それ?」
「ターリーの良いところは海の恵みを受けられるところです。悪いところは水害といった自然の脅威があるところです。そして、もう1つが昔から海賊が多いことですね。海軍も強いんですけど、海賊も強いんです。最近は減ってきてますけど」
海賊がいるのか……
「海に面しているということはそういうこともあるだろうな。それで海賊伝説とは?」
「昔の伝説の海賊が残したお宝がどこぞの無人島にあるっていう伝説です。たまにそういう一攫千金を狙った冒険者も来ますよ」
確かに冒険者が好きそうだな。
「俺は堅実派だ」
そういう物語も嫌いではないが、自分でやろうとはまったく思わない。
「だと思います」
ニーナが苦笑する。
多分、冗談というか、話の種の1つなんだろう。
「ニーナちゃん、やっぱり稼ごうと思ったら木材を採取して加工って感じ? どんな加工をすればいいかわからないけど」
俺もわからん。
船なんか作ったことないし。
「その辺は私でも教えられるし、専門家の兄さんに聞いても良いんじゃないかな? まあ、他に良い仕事がないか父さんに聞いてみるよ。錬金術師は仕事に困ることはないし、どこも手助けを欲していると思うから大丈夫。特にレスター先輩とエルシィは優秀だしね」
ニーナって良い奴だな。
「ニーナちゃん、ありがとー」
「悪いな」
「いいの、いいの。2人には幸せになってほしいからね」
ニーナが笑顔で頷く。
本当に良い子だ。
俺達はその後も話をしながら過ごしていく。
15時になると、ニーナも交えてケーキを食べ、夕食も一緒に食べた。
そんな感じで1日を終え、翌日も同じように過ごしていく。
しかし、昼になると、窓から見える風景が変わった。
「おー……海です」
「すごいねー」
ウェンディは相変わらずだが、エルシィまでも窓に張り付いている。
正直、2人のせいで海があまり見えない。
「そんなに珍しいかしら?」
ニーナがそんな2人を見ながら首を傾げた。
「イラドの王都は内陸中央にあるからな。海を見ることなんてない」
「確かに行きも帰りも長いこと列車に乗った記憶がありますね。レスター先輩は見ないんですか?」
俺は初めてっていうわけではないからな。
前世のことを言えないからそんなことは言えないけど。
「ここからで十分だ。またエルディアに着いたら堪能させてもらう」
「レスター先輩は優しいですね」
何がだろう?
「クジラいないですかねー?」
この世界にもクジラがいるのか……
「何それ?」
エルシィが首を傾げる。
「知らないんですか? この船くらいに大きい魚です」
「嘘だー」
「本当ですよ。ものすごく大きいんですよ」
クジラは魚類じゃないがな。
楽しんでいる2人にそんな野暮なことは言わないが。
「クジラは滅多に見られないよ。イルカならそこそこ見られるかな?」
ニーナが苦笑いを浮かべながら教える。
「おー、イルカ。いるかなー?」
つまらんギャグだ。
楽しんでいるウェンディにそんな野暮なことは言わないが。
「イルカって何?」
「ちょっと大きい魚です。ジャンプして泳ぐんですよ」
「へー……探そう」
「そうしましょう」
イルカも哺乳類……いや、もう何も言うまい。
クジラもイルカも魚だ。
似たような姿だし、大天使様がそう言うならそうなんだろう。
「ニーナ、明日着くんだよな? いつぐらいだ?」
はしゃいでいる2人を尻目にニーナに聞く。
「明日の昼過ぎには着くと思いますよ。午後からになりますが、簡単に町を案内しましょうか?」
「それはありがたいが……逆にいいのか?」
至れり尽くせりでちょっと気が引ける。
「大丈夫ですよ。一度、店に寄って父に買ってきたものや商品を売ったお金を渡しますが、それ以降はフリーなんで」
そうか……
「エルシィ、ウェンディ、いいか?」
窓に張り付いている2人に確認する。
「ニーナちゃん、ありがとー」
「ありがとうございます」
2人もそれで良いらしい。
「ニーナ、頼む」
「お任せください。良いところを案内しますよ……ところで、先輩、エルシィのどこが良くてナンパしたんですか?」
ニーナが窓の方の2人に聞こえない程度の声量で聞いてきた。
「ナンパしてないがな」
同じ孤児で大変そうだったから声をかけただけだ。
「またまたー……で?」
こいつ、良い奴なんだが、下世話なところが玉に瑕だな。
この日もニーナはほとんどこの部屋におり、話をしながら過ごしていった。
まあ、1人で部屋にいても暇なんだろう。
それなら友人のエルシィがいるこの部屋に来るのもわかる。
俺もポードから長い時間をかけてここまで来たが、1人だったら絶対にきつかったし。
エルシィとウェンディがいてくれて良かったと思った。
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