第054話 ちょっと欲しいと思ってる
町中を歩いていくと、ニーナが右に曲がったので俺達も続く。
すると、先には川があるのだが、桟橋があり、ボートサイズの船がいくつも並んでいた。
「あれで渡るのか?」
「はい。私が話します。観光客は高めに取られたりするので」
「まあ、そういうこともあるか……」
観光地あるあると言えば、あるあるだ。
「はい。では、ちょっと待っててください」
桟橋までやってくると、ニーナがそう言って、桟橋にいる船乗りのもとに向かう。
そして、船乗りと交渉を始めた。
「船の到着と出発が左右で分かれているのもこういうことかもな」
橋も作る気がないな。
「利権とか色々あるんでしょうねー」
そうだろうなーと思っていると、船乗りと交渉していたニーナがこちらを向き、手招きをしてきた。
ニーナは笑っており、船乗りが苦笑いを浮かべているところを見ると、交渉は上手くいったようだ。
俺達は桟橋を歩いていき、ニーナのもとに向かう。
「1人1000ゼルだって」
これが安いのか高いのかはわからないが、2人の対照的な表情を見る限り、安いのだろう。
「わかった。じゃあ、俺達の分だ」
そう言って船乗りに2000ゼルを渡した。
そして、ニーナも自分の分の1000ゼルを支払う。
「確かに。じゃあ、乗ってくれ」
船乗りがそう言って、船に乗ったので俺達も乗り込み、簡易の椅子に腰かける。
すると、船がゆっくりと動き出した。
「おー、結構揺れますね」
「そうだな」
川は穏やかだと思っていたが、こうして船に乗ってみると、結構な流れがあるし、揺れている。
表情には出さないが、そんなに頑丈な船に見えないのでちょっと怖かったりする。
「ニーナ、この川は海に繋がっているんだよな?」
「そうですよ。この川のおかげでターリーは発展したんです」
どこも文明が興るのは大きな川があるところだ。
「先輩、こわーい」
少し強めに揺れると、エルシィが腕を組んできた。
正直、俺も怖かったのでちょっと落ち着く。
「私、エルシィのそういうところは尊敬するな……」
「本当ですよね。あざとい……」
ウェンディも相当だけどな。
嬉しそうに両手を上げているところなんてあざとい以外の何ものでもない。
俺達はちょっと揺れる船に乗り、水しぶきを浴びながらも川を横断していき、ついには対岸の桟橋に到着した。
「結構、スリリングでしたね」
「楽しかったですけど、あれを長時間乗ったら酔いそうです」
確かにな。
「ニーナ、これから港に行くのか?」
この町は川沿いがほぼ港だけど。
「はい。あそこに大きな船が見えますよね?」
ニーナがそう言って指差した先には大型の白い船があった。
「あるな。あれに乗るのか?」
「はい。あれで南下していきます。2日程度でエルディアです」
2日か。
列車のことを思えば近いもんだな。
「結構、大きい船だが、チケットは取れるよな?」
「もちろんですよ。レスター先輩達は個室にしますか? 私は個室にしますけど」
飛空艇の時と同じでエルシィとウェンディがいるから個室だな。
「個室はどれくらいするんだ?」
「1人用の3等室が1万ゼルですね。私はこれになります。2等からファミリー用になりますのでレスター先輩達はそっちが良いでしょう。2等が1人2万ゼルで1等が1人5万ゼルです。あと特別室っていう貴族みたいなお金持ちが乗る20万ゼルの個室もありますよ」
特別室はないとして……
「2等と1等は何が違うんだ?」
「私も乗ったことがないので何とも……確か部屋や料理の質、あとサービスの有無だったと思います」
その差が3万ゼルか。
「エルシィ、2等と1等だとどっちが良い?」
「そりゃ良いのは1等でしょうけど、2等で良くないですか? 美味しいものはエルディアで食べましょうよ」
それもそうだな。
「じゃあ、2等にするか」
「はい」
「何をするのも初めてですし、最初から豪勢にしなくてもいいですよ」
ウェンディも2等で賛成のようだ。
「決まりました? じゃあ、こっちです」
俺達は再び、ニーナの案内で町中を歩いていく。
東側の町は初めて歩くが、西側の町とそう変わらないように見えた。
「一緒だな」
「そうですねー。店なんかも偏りがあるようには見えません」
「本当に一緒だよ。このヤークの町は昔は西と東で領主が違っていて、別の町だったんだ。想像は付くと思うけど、仲が悪くて争っていたんだよ」
まあ、そう思ってたな。
こういう感じの町同士で仲良くなるわけがない。
「今は1つの町なんだろ? やっぱり仲が悪いのか?」
「全然ですよ。仲が良い悪い以前に1つの町になりましたからね。今の感じになった理由は2つあって、1つは領主の両家が潰れて統治者が国から派遣された町長1人に変わったからです。これで領地や利権争いがなくなりました。もう1つは飛空艇や列車の登場ですね。この町は船での輸送なんかの中継地の町なんですが、当然、それで発展した町なんです。つまり取って代わられるかもしれない飛空艇や列車の登場で町の人も危機感を覚えたんです。それで仲違いしている状況じゃないと考え、争いをやめたんですよ。まあ、何十年も前の話ですね。今はもう普通です」
なるほどな。
「ニーナさん、詳しいですね。勉強になります」
エルシィの腕の中にいるウェンディが音の出ない拍手をする。
「う、うん……国のことは勉強しているからね。歴史とか好きだし」
歴女だ。
歴女で合ってるかは知らない。
「素晴らしいと思います。ぜひ、エルディアのことも聞きたいです」
「そ、そうだね……エルディアに着いたら観光案内してあげるよ」
「ありがとうございます」
「いえ……やっぱりどう見ても人形……」
こいつもウェンディに慣れないな。
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