第052話 天「(まんざらでもない顔をしてるな……)」
「まあ、貴族を相手にストレスを溜めるより2人で気楽な仕事をしたかったってところかな」
それはそう。
「ふーん……まあ、仕方がないか。あそこは優秀な人が多いし、学問もハイレベルだから留学させてもらったけど、さすがに貴族の力がすごかったしね」
すごかったな。
「まあねー……職場はもっとすごかったよ」
「正直ね……最初は大きい国だし、卒業後はイラドで働いても良いかなって思ってたんだよ。数日で技術と知識を学んだら祖国に帰ろうって思ったけどね」
やっぱりか……
「貴族? 料理?」
「両方」
やっぱりか……
「ニーナはこの町の人間なのか?」
苦笑いを浮かべているニーナに聞く。
「あ、いえ、私も兄も東の方の港の町の出身で今もそこで暮らしています。エルディアって知ってます? 観光地で有名なんですけど」
エルシィが言ってた町だ。
「エルディアか。ここには何しに?」
「仕入れで王都に行ってたんですよ。船で行けるんですけど、ここが中継地なんです。今日はこの町に泊まって、明日、また船に乗って、エルディアに帰ります」
仕入れ?
「店とかやってるのか?」
「実家がそうなんですよ。私は父の手伝いですね。兄は造船関係の仕事をしていますけど」
ニーナもだろうが、庶民であるカルロは俺と同じ錬金術課の生徒だった。
海や川が多いターリーは造船業が盛んだし、イラドで学んだ技術でそっちの道に行ったんだろうな。
「ニーナちゃん、エルディアの町の人だったんだね? どんな町? ちょっと興味があるんだよー」
「有名な観光地だしね。海が綺麗だし、食べ物も美味しいよ。あ、来た来た」
ウェイトレスが俺達が頼んだものと同じ焼き魚定食を持ってきて、ニーナの前に置く。
「魚が美味しいよね」
「漁業も盛んだからね。他にもオリーブなんかも有名で色々と食べられるんだよ。エルディアに来たら案内してあげるよ。というか、せっかくだし、一緒に行かない? あ、ワインを頼むのを忘れた。ちょっとごめんね」
ニーナは立ち上がると、店の方に向かった。
「先輩、どうします?」
ニーナがいなくなると、エルシィが早口で聞いてくる。
「あいつはイラドと繋がってないよな?」
「ないと思いますよ。貴族のことをかなり愚痴っていましたし、留学してたってだけでターリーの人です」
もうイラドとは関係ないか。
「王都を避けるとなると、やはりエルディアか? せっかくの機会だし、同行させてもらっても良いとは思うぞ」
「ウェンディちゃん、どう思う?」
エルシィがずっと黙って人形のふりをしていたウェンディに聞く。
「ニーナさんからは御二人を騙そうといった悪意は感じられませんでした。懐かしいとか楽しいという前向きの感情を感じましたね」
そのまんまなわけだ。
「先輩、私も良いと思います。偶然会えた現地に詳しい人です」
「そうだな……俺達がイラドに追われていることを言うか? 友人なら力になってくれるかもしれんぞ」
「その判断は先輩にお任せします。ただ、今は言うべきではないです」
そうだな……
「わかった」
結論が出ると、白ワインのボトルとグラスを持ったニーナが戻ってきた。
「いやー、ボトルしかなかったよ。せっかくだし、2人も飲んでよ。私、そんなに強くないからこんなに飲めないし」
ニーナがそう言って席につき、カウンターにボトルとグラスを置く。
「いいの?」
「うん。飲んで、飲んで」
ニーナは自分のグラスにワインを注ぐと、エルシィ、俺と順番にワインを注いでくれた。
「ありがとー」
「悪いな」
「いいの、いい、の……?」
ニーナが笑顔で俺のグラスにワインを注ぎ終えたのだが、そのまま固まった。
何故ならウェンディが自分用のグラスを持って、俺のグラスの横に立ち、注いでくれるのを待っているのだ。
見た目は非常に可愛らしいが、ウェンディを知らないニーナから見たら急に人形が動いたことになる。
「あ、この子はウェンディちゃん。使い魔なんだよ」
エルシィが説明する。
「使い魔? 人形のように見えるけど……」
「使い魔なんだよー」
「使い魔のウェンディでーす」
ウェンディが手を上げた。
「しゃべった……」
「しゃべりますし、ワインも飲みます」
「そ、そう?」
ニーナはウェンディの小さいグラスにワインを注ぐ。
「ありがとうございます」
ウェンディは礼を言うと、ちょこんと座り、ワインを飲む。
「本当に飲んだ……使い魔なんだ……あれ? でも、2人って錬金術師だよね?」
使い魔を持っているのは基本的に魔術師だ。
「イラドを出たし、魔法を覚えたんだよ。私も先輩も錬金術師兼魔術師なんだ」
「へー……本当に優秀なご夫婦ね」
どうも。
「ニーナ、さっきエルシィと話したんだが、せっかくだし、俺達もエルディアに行こうと思う」
「あ、ホントですか? 良かったです。兄も喜ぶと思います」
どうだろ……
話したことがないわけではないが、仲が良いってことはなかったぞ。
俺、友達いないし。
「ニーナちゃん、一緒に行こうよー」
「えーっと、私はいいけど、2人はいいの? 新婚旅行中だよね?」
「うん。というかね、私達、今日列車で着いたばかりでこの国のことをほとんど知らないの。船の乗り方とか全然わからないし」
わからんな。
多分、飛空艇と大差ないとは思うが、エルディアに行ける船がどこにあるのかもわからない。
そういうのを調べるのが明日の予定だったのだ。
「あー、そっか。じゃあ、一緒に行こうか。明日、10時発だけど大丈夫?」
「大丈夫ー」
「ああ、問題ない」
そんなに早いわけでもないし、寝坊はないだろう。
「2人……3人はどこに泊まっているの?」
ニーナはウェンディを見て、すぐに言い直した。
「隣」
宿屋の方を指差す。
「あ、一緒だ。じゃあ、9時すぎくらいに1階のエントランスで待ち合わせでいい?」
ニーナも同じ宿屋か。
だからこの店に来たのだろう。
「大丈夫ー」
「ああ」
俺達が頷くと、ニーナがそれぞれのグラスにワインを注いでくれる。
「じゃあ、そんな感じで。ねえねえ、どっちがプロポーズしたの?」
「えー、言えなーい」
「じゃあさ、じゃあさ、いつからお互いを意識したの?」
なんか長い夜になりそうだな。
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