第051話 懐かしい
ワインを堪能していると、3人分の定食がやってきた。
定食は2、30センチくらいのサンマに似た焼き魚と白米、それにスープだった。
「おー、良い匂いがしますねー」
「ホントにな」
懐かしい匂いだ。
それに白米も懐かしいし、こんがりと焼き上がった魚は表面がパリッと焼け、所々に浮かぶ脂の滴が食欲をそそる。
「美味しそうですね。早速、いただきましょう」
ウェンディが食べだしたので俺達も食べる。
サクッとした皮の感触の後にふっくらとした白身が現れた。
口に運ぶと、コクのある旨みと脂の甘みが口いっぱいに広がる。
そして、白米を食べると、これ以上の組み合わせはないんじゃないだろうかというほどにマッチしていて美味しかった。
「美味いな」
「ですねー。やっぱりターリーに来たら魚ですよ」
俺達はその後も定食を食べていき、白ワインを飲む。
すると、徐々に暗くなり、対岸の町の灯りが蛍のようにうっすらと輝きだし、幻想的な雰囲気になっていた。
さらにはお客さんの数も増えてきて、店の中もテラス席も次第に賑やかさを増してくる。
「人気の店のようだな」
「宿屋の店員さんのおすすめですしね。多分ですけど、中にいるのが現地の人でこのテラス席にいるのは私達みたいな観光客でしょう」
店の中にいるのは船乗りや冒険者が多いように見える。
一方でテラス席は夫婦やカップルしかおらず、どこも風景を楽しんでいた。
「っぽいな」
「早めに来て正解でしたね。どんどんとお客さんが入ってきます」
「そうだな」
今も1人の若い茶髪の女性が店に入ってきた。
そして、ウェイトレスと話をし、テラス席にやってくると、唯一、空いているエルシィの隣の席に座る。
「あ、詰めますね」
エルシィはそう言うと、席を少しずらし、俺との距離を詰めた。
「あ、すみません……あれ? エルシィ?」
ん?
「あ、ニーナちゃんだ」
2人がお互いのことを指差す。
「……知り合いか?」
小声でエルシィに聞く。
「はい。魔法学校のクラスメイトです」
クラスメイト……ということはイラドの人間、か?
「あ、レスター先輩もいる。先輩、ご無沙汰しています」
茶髪の女が俺を見て、頭を下げてきた。
「え? 知り合いか?」
知らんぞ。
「あ、すみません。私が一方的に知っているだけです。レスター先輩はエルシィといつも一緒にいましたので」
あー、まあそうか。
「そうか……」
なんでここにいるんだろう?
「あ、私はニーナ・タルティーニです。よろしくお願いします」
ニーナがまたもや頭を下げる。
礼儀正しい子のようだ。
「タルティーニ?」
聞いたことがあるような……
「一つ上に兄がいます。レスター先輩と同じクラスだと思いますよ」
えーっと……
「カルロか?」
確かカルロ・タルティーニっていうのがいたような気がする。
「はい。カルロが私の兄になります。私達はこのターリーの出身でして、留学していたんですよ」
あ、なるほど。
だからここにいるのか。
「卒業して自国に帰った感じか?」
「そうですね。卒業後に帰ってきました。レスター先輩とエルシィはどうしてここに? 確かレスター先輩が宮廷錬金術師になって、エルシィも追うように宮廷錬金術師になったよね?」
さて、どうするか……
「私達、結婚したんだよー」
どう答えるか悩んでいると、エルシィが説明しだした。
ここはニーナのことを知っているエルシィに任せた方が良いだろう。
「あー、結婚したんだ。いつも一緒にいたもんね。早めにするんだろうなと思ってたけど、やっぱりそうだったね」
あれ? 俺達って学校でも周りからそういう目で見られてたの?
「私はもうちょっと早くても良かったけどねー」
「まあ、男性はね……兄も全然、結婚しないし、そんなもんじゃない? エルシィ、クラスでも人気だったのにレスター先輩が囲ってたからそういう浮ついた話もなかったし、なるようになって良かったね。あ、おめでとう」
「ありがとー」
同級生はエルシィのことを子分と呼び、ウェンディは俺のことを独占欲強めの男と評した。
そして、後輩からは囲ってたと言われている。
うーん……なんかやっぱり俺に問題があるような気がしてきた。
「それでなんでここにいるの? 仕事じゃないだろうし、新婚旅行?」
まあ、そう思うわな。
「うん。色んな国を巡ろうって感じ」
「へー……さすがは宮廷錬金術師様ね。お金を持っているわ。でも、よく休みが取れたね。宮廷錬金術師って忙しそうなイメージがある。ましてやイラドなんてすごそう」
確かに忙しかったな。
部長が働かないし。
「それなんだけどねー……」
エルシィが俺を見てきたが、真意がわかったので頷く。
「え? どうしたの?」
「宮廷錬金術師は辞めたんだよ」
「え? なんで? 結婚したんじゃないの?」
「前後関係が逆かな? 実は宮廷錬金術師になったのは良いけど、やっぱり貴族のあれがねー……」
なお、ニーナもカルロも平民だ。
「あー……学校でもすごかったもんね。宮廷錬金術師になるとなおさらか」
「うん……給料は良かったけど、やっぱり色々あってね。先輩と話し合った結果、一緒に国を出て、お店でも開こうかって話になったの」
嘘はついてないな。
さすがはエルシィ。
「なるほど。そういうプロポーズなわけね。大変そうだけど、大丈夫?」
「うん。先輩がいれば大丈夫。先輩についていけば守ってくれるし、助けてくれるから。やっぱり頼るべきは先輩だよ」
「惚気だよ……まあ、あなたもだけど、レスター先輩って優秀で有名だったもんね。それで新婚旅行しながらお店を開く土地探しでもしている感じ?」
察しが良い子だな。
「まあ、そんな感じかな? あとは錬金術で開店資金貯め。そういうのをしながら旅を楽しんでいるんだよ」
「へー……あなた達って意外とアクティブだったのね」
アクティブにならざるを得なかったってところだけどな。
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