第050話 楽しいね
「夕食まで少し休むか」
そう言って窓際のテーブルにつく。
「あ、お茶淹れますよー」
「悪いな」
「いえいえー」
エルシィがお茶を淹れてくれたので3人で飲みながら川の風景を見る。
「田舎だな」
「そうですね。都会の方が良いですか?」
うーん……
「俺は前世も含めて、都会の方にしか住んだことがない。でも、ポードのミックの町でも思ったが、こっちの方が落ち着くし、合っているような気がする」
「地価も安いでしょうしね。良いと思います」
それも大きいが……
「エルシィはそこのところどうだ? 田舎住みは嫌とかないのか?」
「うーん……元々、田舎生まれですからねー。都会は便利だし、おしゃれで良いと思いますけど、実際に住むとなったら穏やかな地が良いと思いますよ。王都なんかの都会には遊びに行けばいいんです。どうせアトリエを開き、錬金術をやっていれば都会のお店に売りに行ったり、材料を仕入れに行くわけですしね」
まあな。
「ウェンディはどうだ?」
こいつがいつまでいるのかは知らないが、一応、聞いておく。
「私はご飯が美味しければどこでもいいですよ。ただ、私の目から見てもレスターさんは都会より田舎の方が良いと思います」
「なんでそう思うんだ?」
人形とはいえ、天使だ。
意見を聞きたい。
「あなたはやはり所々で上昇志向が見えます。多分、前世でそういう人生を歩んできたことが影響しているからでしょう。あなたが都会で店を開いた場合、どんどんと儲けて大きくし、成功するかもしれません。ですが、それでは死ぬ間際に無念と思った前世と同じ道です。今回はエルシィさんがいてくれますが、果たしてその道を歩んだあなたは家庭を顧みますかね?」
顧みないと思う。
仕事、仕事、仕事で家にも帰らない気がする。
俺はそういうタイプの人間だ。
「あ、昔、会社の先輩から、家に帰ったら子供に『パパ、久しぶり!』と言われて落ち込んだという話を聞いたことを思い出した」
あの先輩は色々なことを教えてくれる良い人だったが、正直、仕事はできなかった。
だからそれをリカバーしようと残業や土日出勤で頑張っていたのだが、その結果があれではさすがにちょっと可哀想だった。
「あなたもそうなるでしょうね。個人経営の場合、上を見れば際限がありません。人間の欲望と同じです」
わからないでもない。
走り続け、足を止めた時があの病院のベッドの上の虚無だったんだ。
「せんぱーい、ミックみたいな町が良いですってー。休日にピクニックでも行きましょうよー」
エルシィがそう言って、クッキーをくれる。
「そうだな……」
クッキー、美味しいわ……
「先輩、今後ですけど、どうします? 情報を仕入れるって言ってましたけど」
「明日、町を巡りながらどっかの店の店員とか駅員とかに話を聞こうかなって思っている」
多分、エルシィが……
「なるほど。じゃあ、今日は休みですね」
「そうだな。ゆっくりしてくれ」
俺達はお茶を飲みながら眺めを堪能していく。
窓を開けると、気持ちの良い風が入ってきて心地良かった。
しばらく休んでいると、日が沈みだし、大きな川が夕日に照らされ、輝きだす。
「綺麗ですねー」
「ロマンチックですね。レスターさん、ここですよ、ここ。ここで手を繋ぐんです」
ウェンディがそう言うのでウェンディの柔らかお手手を手に取った。
「なんで私なんですか……エルシィさんでしょ」
エルシィは対面に座っているから届かないんだが?
「はいはい。エルシィ、そろそろ飯にするか。隣の店はテラスがあるって言ってたし、そこで夕食を食べながら夕日を見よう」
「良いですねー。ディナーです」
エルシィは嬉しそうだ。
「私、お魚を食べたいです! 食べたことがないですし!」
ウェンディが手を上げて、アピールする。
「そういえば、俺も転生してからは食べてないな」
王都は肉料理ばっかりだったし、魚は高かった。
「では、行きましょうか」
「れっつごー」
俺達は立ち上がると、部屋を出て、階段を下りた。
そして、宿屋を出ると、隣にある飲食店に入った。
店は高級店といった感じではなく、気軽に入れそうな店だが、奥にはテラス席が見えており、さらにその奥には対岸の町が見えている。
「いらっしゃいませー。お二人ですか?」
若いウェイトレスがやってきて聞いてくる。
「私もいまーす」
「あら? 可愛いお人形さん」
笑顔だったウェイトレスがエルシィの腕の中でしゃべったウェンディを見て、さらに笑顔になる。
「あ、この子は使い魔なんですよ」
「へー。腹話術か何かかと思いました」
俺達は大道芸人ではないな。
「違いますよー。あ、席は2人席で」
「テラス席が良いですか? まだ開店したばっかりなんで他のお客さんはいませんよ?」
「お願いしまーす」
「では、こちらにどうぞ」
ウェイトレスに案内され、テラス席に向かう。
テラス席はテーブル席も2つほどあったが、正面に川が見えるようなカウンター席が10席あった。
「おー、綺麗ですねー」
「風が気持ちいいです」
エルシィとウェンディが嬉しそうに川を見る。
川は夕日に照らされて非常に綺麗だった。
「お好きな席にどうぞ。今、メニューを持ってきますので」
ウェイトレスがそう言って店の中に戻っていく。
「エルシィ、カウンター席とテーブル席はどっちがいい?」
「せっかくですし、カウンター席にしましょうよ」
「じゃあ、そうするか」
俺とエルシィはカウンター席に並んで座り、ウェンディも俺側のカウンターにちょこんと座った。
「良い眺めですねー」
「そうだな」
夕日に染まった川を色んな形をした船が通っている光景はいつまでも見ていられそうな気がする。
そのまま3人で眺めていると、さっきのウェイトレスが戻ってきた。
「こちらがメニューになります。おすすめは本日の焼き魚定食と白ワインです」
白ワインか。
イラドは赤ワインしかなかったから珍しいな。
「俺はそれにするが、エルシィとウェンディはどうする?」
「私もそれで」
「おすすめを食べるのが一番です!」
まあ、そうだな。
「焼き魚定食3つと白ワインで」
ウェイトレスに注文する。
「かしこまりました。では、先にワインをお持ちしますので少々お待ちください」
ウェイトレスがそう言って戻っていったので再び、川を見る。
すると、すぐにウェイトレスがボトルとグラスを持ってきてくれた。
「ほら、ついでやる」
エルシィのグラスと取り出したウェンディ用のグラスにワインを注ぐ。
そして、自分のグラスにもワインを注いだ。
「かんぱーい」
「乾杯です」
「はい、乾杯」
俺達はグラスを合わせると、ワインを一口飲む。
「おー! 美味しいです!」
「良いですねー」
エルシィとウェンディが笑顔になる。
ワインの味はもちろんだが、こういう状況で酒を飲めて良いなって思った。
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