第049話 灰色の人
「エルシィ、宿屋の方は?」
駅から戻ってきたエルシィに聞く。
「駅員さんにおすすめを聞いてきましたよ。こっちです」
エルシィが町の方を指差したので一緒に歩いていく。
町はそこまで大きくないが、多くの人が歩いていて賑わっていた。
普通の町人や商人も多いが、しっかりとした体つきで日に焼けた船乗りらしき姿も多い。
「港町って感じだな」
「ですねー。永住する地を探すって話ですけど、ここはどうですか?」
うーん……
「観光する分にはいいけど、あっちに用があった時に面倒だな」
対岸の町を指差す。
「それもそうですね。橋もないですし、船オンリーなんでしょう」
対岸まで距離があるし、橋を架けるのは難しいだろうな。
「それとここは国の玄関と呼ばれる場所だ。イラドの刺客がいるとは思わんが、人の出入りが多い場所は避けたいな」
「密偵くらいはいるかもしれませんね」
イラドは大きい国だし、そこら中の国に密偵がいるだろう。
とはいえ、密偵の本来の役目は国や町の動きを探ることだから全員が全員、俺達を追っているわけではないと思う。
「王都もだが、こういうところでは目立つ行為は避けたいな」
「ですね。もしかしたらポードの王都にはイラドの刺客が行っているかもしれません」
かもじゃなくて、確実に行っているだろうな。
金儲けのために動きすぎたし、エリクサーを使ってしまっている。
「そうだな。イラド側に知られていると思った方が良い」
そのまま歩いていくと、建物に囲まれてしまい、川が見えなくなる。
「川が見えなくなると、普通の町並みだな」
舗装も特にされてないし、けっして都会っぽくはない。
だが、なんとなく、こちらの方が落ち着く気がした。
ポードでも王都も良かったが、イレナの店があるミックの町の方が落ち着いたし、俺はこっちの方が合っているのかもしれない。
「先輩、ここですね」
エルシィが立ち止まり、左の方の2階建ての建物を見る。
建物には【川辺の宿】と書かれた看板がかかっており、比較的新しいように見えた。
「良さそうだな。ちょっと高そうだが」
絶対に安宿ではない。
「宿屋と食事はケチらない方が良いです」
「確かにな。お前に任せる」
「では、入りましょう。空いてるかなー?」
エルシィが中に入ったのでウェンディを抱えている俺も続く。
中は木材を使った落ち着く雰囲気があり、ほのかに甘い木の香りが鼻をくすぐった。
奥には受付があり、若い男性が座らずに立っている。
「いらっしゃいませ。ご予約のお客様ですか?」
俺達が受付まで行くと、受付の男性が一礼し、聞いてくる。
「いえ。予約はしてないんですけど、空いてますか?」
「2名様でしょうか?」
「はい」
ウェンディがいるけどな。
料金を取られるといやだから言わないけど。
「申し訳ございませんが、1人用の個室は埋まっております。2人用の個室ならご用意できますが、いかがしますか?」
「あ、大丈夫です。新婚なんですよー」
「それはおめでとうございます。でしたら2人用のお部屋をご用意いたしましょう。西側のお部屋が1万5千ゼルで東側は1万ゼルとなりますがどちらになさいますか? どちらも朝食付きです。夕食は2千ゼルで追加できます」
東と西で料金に随分と差があるな……
「先輩、どうしましょう?」
エルシィが聞いてくる。
「お前に任せる」
こういうのはエルシィに任せよう。
詳しいだろうし、何よりも喜んでもらえるのが一番だ。
「はーい。じゃあ、西側の部屋でお願いします。夕食は外で食べるので大丈夫です。あ、朝食ですけど、3人分用意できますか? この子も食べるので」
エルシィがそう言って、ウェンディを取る。
「人形ですか?」
これまでにこやかに対応していた店員がちょっと困惑した顔で首を傾げた。
「使い魔なんですー」
「ウェンディでーす」
ウェンディが手を上げる。
「さようでしたか……そういうことでしたらご用意いたします。朝食は部屋にお持ちしますので起きられましたら一声かけてください」
そういえば、この宿屋には食堂らしきスペースが見えない。
「わかりました。夕食のおすすめの店ってあります?」
「この町の名物はやはり魚を中心とした海産物になります。おすすめとしてはこの店の隣にある店ですね。テラスで食べられますし、お値段もリーズナブルです」
業務提携してそう。
追加の料理ってそこにオーダーしているんじゃないかな?
まあ、何でもいいけど。
「ありがとうございます。じゃあ、一泊でお願いします」
エルシィが笑顔で頷いたので財布を取り出し、3万ゼルをカウンターに置いた。
「ちょうどいただきます。それでは部屋は2階の5号室になります。どうぞごゆっくり」
店員が鍵を渡してくれたのでエルシィとすぐ近くにある階段を上がる。
そして、5号室と書かれた扉の前に来ると、鍵を開け、中に入った。
部屋は10畳くらいの部屋であり、やはり木材の温かみのある落ち着いた良い部屋だと思う。
それに加え、窓が大きく、日の光が部屋に差し込んでおり、さらにはここからでもその大きな窓から川や対岸の町並みが見えていた。
「おー! すごいですー!」
「これが5千ゼルの差ですか!」
エルシィとウェンディはすぐに窓際に向かったので俺もついていく。
「やはりエルシィに任せるべきだな……」
「何がです?」
俺のつぶやきを聞いた隣にいるエルシィが首を傾げた。
「俺は多分、1人だったら東の方の1万ゼルの部屋に泊まり、この風景を見られなかった」
多分、いくら金があってもそうするだろう。
まずもって、なんで料金に差があるのかわからなかった。
理由は俺の人生にこういうイベントがなかったから発想すらなかったからだ。
「貧乏性ですか?」
「先輩は効率重視な人なんだよ」
どっちもだな。
お読み頂き、ありがとうございます。
この作品を『おもしろかった!』、『続きが気になる!』と思ってくださった方はブックマーク登録や↓の『☆☆☆☆☆』を『★★★★★』に評価して下さると執筆の励みになります。
よろしくお願いします!




