第046話 寝台列車 ★
余の前に伝令の兵士が跪いていた。
「……もう一度、言ってみよ」
「はっ! ポード王国にレスター、エルシィの両名がいたという確かな情報を確認しました。しかしながらすでに両名はポード王国を離れたようです」
ハァァ……
「大臣、もう少し、早く動けないものか?」
ため息をつき、隣にいる大臣に尋ねる。
「指示を出し、すぐにゲイツの密偵を動かしましたが、遅かったようです」
余が言っているのはエルシィの旅行雑誌の方だがな。
家宅捜索なんかとっくの前に終わっているだろうに雑誌の報告をするまで何日かかったのだ?
もう少し早ければ始末したという報告を聞けたはずだ。
「レスター、エルシィはポードで何を?」
何を言っても無駄だと思い、兵士に聞く。
「新婚の夫婦を装って商人に近づき、ポーションで多額の収入を得たようです」
それ、装っているのか?
恋仲なんだし、そのまま結婚したから新婚なのではないのか?
まあ、あの2人の恋事情なんかどうでもいいか。
「逃亡資金を手に入れたというわけだな?」
あの2人の関係性なんかよりも大事なのはここだ。
これであいつらは飛空艇に乗れるということになる。
陸路なら今度こそ隣国のゲイツと容易に想像がつくのに……
「はっ! それについてですが、現地の密偵が情報を得ております」
ほう?
いつも役に立たないくせに珍しいな。
「何だ?」
「どうやら両名は飛空艇に乗り、ランスに向かった模様。現地で取引をした商人からの情報です」
ランス?
つまりランスに戻ったということか?
うーむ……
「大臣、どう思う?」
「本当にランスでしょうか? ランスはウチの同盟国ですし、危険度は高いはずです。だからこそ、レスター達は貴重な大金を出し、ポードに逃げたはず……私は偽情報と思います」
そうだな。
その通りだ。
だからこそのランスなのだ。
「余はそう思わん。お前を含めて、誰しもがランスはないと思うはずだ。いや、気持ちはわかる。ランスは危ないということで大金を払ってポードに行ったのにまた大金を払ってランスに戻る。明らかにおかしい行動だ。だからこその盲点なんだ」
「盲点、ですか?」
「次はどこに逃げるかを予想した時に真っ先に予想から外れるのがランスだ。だからこそ、ランスは十分にありえる!」
バカ共は騙せても余は騙されんぞ。
「そ、そうですかね? 本末転倒のような……」
「お前の言うことはわかる。まあ、すでにランスには密偵がいるのだから特に動くことはない。ポードに行った密偵をゲイツに戻し、ランスの密偵には引き続き、王都周辺を探らせておけ」
元に戻すだけだ。
これならレスター達がゲイツにいようが、ランスにいようが始末できる。
少しの間の夫婦生活を楽しむといい。
でもまあ、安心しろ。
新婚旅行先があの世に変わるだけだ。
「申し訳ございません……ゲイツは外せないと思い、ゲイツの密偵をポードに送った時点でランスの密偵をゲイツに送っています」
ハァ?
「何をしておるんだ?」
バカか?
「レスターがゲイツ王家と接触するのだけは避けなければなりません」
「それはわかっておるが……他に密偵はおらんのか?」
「他所でも動いていますし、さすがにそれらを動かすのは厳しいです……外注するという方法もありますが、質が落ちますし、信用ができません。事が事なのでそれは避けた方が良いです」
まあな……
エリクサーは重要だが、それだけにすべての密偵を割くわけにいかないのもわかるし、外注した密偵がレスターにエリクサーで買収される可能性もあるのもわかる。
「では、ゲイツの密偵をランスに戻し、ポードの密偵をゲイツに戻せ」
これ、雑誌の報告を聞かない方が良かったんじゃないか?
「はっ! すぐにでも!」
ハァ……こいつらのせいで後手後手だな。
これでランスに戻った密偵からレスターはポードに飛んだって報告が来たらさすがにキレるぞ。
◆◇◆
「またイラドの缶詰ですか……」
夜になり、窓から見える風景が真っ暗になったところで夕食にすることにしたのだが、エルシィが出した缶詰を見たウェンディががっかりする。
「余っているんだから仕方がないでしょ。でもまあ、これが最後だから」
どうやらエルシィが家から持ってきた缶詰もとうとう尽きたようだ。
これだけ聞くと、大ピンチに聞こえるが、ちょっと朗報だったりする。
もう以前のような味付けが塩だけみたいな食生活には戻れないのだ。
「それは良かったです。しかし、明日からのご飯はどうするんですか? 車内で販売してるんですかね?」
「列車ではそういうことはしていないが、各駅に停まるからその際に駅の売店だな」
弁当も売っているし、酒も売っている。
まあ、列車の中って基本的に娯楽が少ないから飲食が大事になってくる。
そのため、駅には色々と売ってたりする。
「ほうほう。じゃあ、明日からに期待ですね」
「そういうことだな。ウェンディ、缶詰を温めてくれ」
「フルーツ缶を冷やしてー」
俺とエルシィがウェンディに頼む。
「いいですけど、せっかくですから御二人でやりません? 温めたり冷やしたりする魔法は魔力コントロールがお上手な御二人にとって、この前教えた火魔法、水魔法よりも簡単ですよ」
そうだ。
俺達はすでに魔法使いにレベルアップしているんだった。
「やってみるか」
「そうですね」
俺達はウェンディに教えてもらい、缶詰を温めたり、冷やしたりする。
魔力を込めるだけだったし、ウェンディが言うように魔力コントロールが得意と自負している俺達には簡単だったのでちょうどいい感じに温め、冷やした缶詰を食べていった。
そして、持ち込んでいたワインを飲み、いい時間になったので就寝することにした。
「エルシィ、どっちがいい?」
二段ベッドを見ながらエルシィに聞く。
「上が良いでーす」
「私もー」
ウェンディも手を上げて賛成する。
まあ、こいつはこの部屋に入ってすぐにそこに行ったからそうだろうなとは思っていた。
「じゃあ、上を使え」
「はーい」
エルシィは梯子を使い、ウェンディは飛んで2段ベッドの上に行ったので俺も下の段のベッドに寝ころぶ。
正直、すぐそこに天井があり、ちょっと狭いが、寝るには十分だった。
「秘密基地みたいで良いですね!」
「はしゃがないの」
上は楽しそうだな。
「寝るぞー」
「はーい」
「おやすみなさーい」
灯りを消し、就寝する。
ガタンゴトンと揺れる感じが気になったが、ウェンディが言うように秘密基地みたいな感じがして非日常がちょっと楽しかった。
同じ揺れでもカバンの中とは全然、違うなって思った。
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