第040話 交渉
「すみません。こいつは気にしないでください」
人形のフリをしてたのに急にしゃべるなよ。
「そうですか? では、そうしましょうか。イレナさん、ウチと取引をしたいと伺っておりますが、どういったものでしょう?」
ダリウスが本題に入る。
「先に説明はしたけど、ポーションを買い取ってもらえないかと思って、今回の席を用意してもらったわ」
「ポーションですか。確かに現状では喉から手が出る程に欲しいものですね。どれくらいの数なのかとランクを伺いたいです」
「数は100個。全部Cランク以上ね」
ここまでは先に話を通しているはずだ。
問題はここから。
「それは素晴らしいです。内訳は?」
「Cランクが60個でBランクが40個よ」
「Bランクまであるのですか……」
ダリウスがそうつぶやくと、イレナがチラッとこちらを見てきたので魔法のカバンからCランクとBランクのポーションを1つずつ取り出してテーブルに置く。
「作製者は私と妻になります」
一応、自分も入れておく。
エルシィだけにすると、エルシィが狙われてしまうから。
「失礼。錬金術師の方ですか?」
ダリウスが聞いてくる。
「ええ。ただ、この国の人間ではありません。先日、妻と結婚いたしまして、世界を巡っているところだったんです。そこでイレナさんと出会い、今回の仕事を受けました」
「新婚旅行なんですよー」
なんですよー。
「なるほど。国がこのような状況な時に立ち寄っていただけたのは大変ありがたいですね。どうです? しばらく滞在してポーションを作りませんか? あー、もちろん、イレナさんを通しての話です」
ここでイレナを通さない話だったら交渉が即、決裂だろうからな。
「この国の現状は聞いておりますが、すみません。明日にでもまた旅に出るのです」
「それは残念ですね。しかし、外国の旅行者を無理に引き止めるわけにはいきませんので諦めましょう。しかし、Bランクですか……Aランクはないのでしょうか?」
そう聞かれると、イレナが頷いたので魔法のカバンからAランクのポーションを取り出し、テーブルに置く。
「Aランクは10個あるわ」
「ふむ……」
イレナの言葉にダリウスが1つ頷いた。
「イレナさん、先にクムーラ商会に行きましたね?」
「知ってるのね? 他にどこと取引をしているのかは言ってないはずだけど?」
「あそこはウチのライバル店ですからね。それに私があなたの立場ならウチかあそこと取引を考えます」
というか、張ってたな。
「まあ、隠すことでもないから正直に答えると、その通りね。これだけの数のポーションの取引となると、大手を選ぶのが当たり前だもの」
「ですよね。それでクムーラ商会はどうでした?」
「まあまあってところ。悪くはないけど、満足はしていないって感じね」
教科書通りの答えだな。
「そうですか……イレナさん、あまり欲をかかない方がいいですよ」
俺もそう忠告したな。
「どういう意味?」
「クムーラ商会の噂のことは?」
「ある程度は……」
「大変失礼な言葉を使います。ミックの田舎町の店長程度が知っていることを王都の人間が知らないと思いますか?」
思わない。
「それは……」
「クムーラ商会はやめておきなさい。言ってる意味がわかりますか?」
「えっと……」
わからないのか……
「イレナ、違法は取り締まられるものだ」
イレナが知っていることを国が知らないわけがない。
つまりそういうことだ。
「もうそこまで来てるってこと?」
「貴族が関わっているんだろ? 貴族は一枚岩じゃない。違う派閥の貴族が相手を潰そうとしているに決まっている」
「ああ……クムーラ商会がそうであるようにここも貴族が背後にいるってわけね」
そういうことだ。
このラック商会にも貴族の後ろ盾がある。
そして、間違いなく、クムーラ商会のバックにいる貴族と敵対している。
「まあ、その辺りは何とも言えません」
「私には関係のないことね。ミックはミックで領地貴族がいるもの」
「そうですね。だからこそ、今回のことはあなたにとってチャンスなんですよ。もちろん、こちらにつくという答えを出せばですけどね」
ダリウスがそう言って1枚の紙をテーブルに置いた。
イレナはそれを取り、じーっと見る。
「ふーん……」
イレナは紙を見て、考えていたが、その紙を俺に渡してきたのでエルシィと一緒にその紙を見る。
Aランクポーション 10万ゼル
Bランクポーション 5万ゼル
Cランクポーション 3万ゼル
すごいな……
これで儲けが出るのか?
「どうです? こちらとしては最大限の誠意を見せたつもりです」
「これであなたに儲けが出るの?」
「出るんですよ」
ちらっとウェンディを見たが、ウェンディは動いていない。
つまり本当に儲けが出るんだ。
「イレナ、まだ高騰するってことだ」
「そういうこと……そうよね。貴族ならその辺りの時期の見極めもできるわ」
ポーションが元の値段に戻る時はゲイツが輸出を再開した時だ。
その時期を知っているのはゲイツと交渉中の国の上層部の貴族。
つまりそれに近しい貴族がこのラック商会の後ろ盾だ。
「どうです? 悪い提案じゃないでしょ?」
「これに乗ったら今後、あなたのところとしか取引できなくなりそうね」
少なくとも、クムーラ商会は無理だろうな。
「何か問題が? あなたはそもそもミックの商人でしょう? 王都から仕入れることもあるでしょうが、それでもほぼウチから仕入れているじゃないですか」
最初からお得意様だったのか。
まあ、イレナって結構私情が入る人間だし、クムーラ商会は嫌なんだろうな。
「そうね……」
イレナが悩んでいる。
悩んでいるが……
「イレナ、商人なら利を取れ。くだらないプライドは捨てた方が良いぞ」
一応、アドバイスをしておく。
この話を受ければ予定以上に儲かる。
しかし、断ったら良いことなんて何一つない。
下手をすると、お得意様を敵に回す行為になる。
何故ならラック商会は今回のことでクムーラ商会を潰すつもりなのだ。
しかも、その後ろには貴族の派閥争いがある。
「そうね。答えは出ているもの……」
イレナは決断したようだ。
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