第034話 青田買い?
町に戻った俺達は昼までに時間があったので町を見て回った。
やはりのどかで平和な町だったし、落ち着いた雰囲気だったので嫌な気持ちもあっという間に消えていった。
そして、昼になったので宿の近くにある定食屋で昼食を食べ、宿屋の部屋に戻る。
「美味しかったですねー」
ウェンディは非常に満足そうだ。
「そうだな。この国は食が安定していて良い」
昼食は豚肉の定食だったが、あっさりとしたソースが豚肉と合っており、非常に美味しかった。
「良い国ですよねー」
「俺達が活躍できるしな」
俺とエルシィは窓際のテーブルにつくと、外を眺めながらポーションを作っていく。
「エルシィ、すまんな」
俺もポーションを作ろうと思ったのだが、よく考えたら俺が作ったらエリクサーになる。
さすがにエリクサーをポーションと言って売ることはできない。
「いえいえ、これくらいなら私だけで十分ですよ」
申し訳ないので採取した薬草なんかの処理や整理なんかをする。
なお、ウェンディはふよふよと飛びながら部屋中を回ったり、テーブルの上で体操をしたりとなんか遊んでいた。
「先輩、この町は土地代が安かったですね」
昼食を食べる前に町を見て回ったが、その際に不動産屋もあったので覗いてみたのだ。
「だったな。やはり王都から外れるとかなり下がる」
とはいえ、今の俺達には無理な値段だ。
「私は王都なんかの都会より、こういう町でやった方が良いと思いますよ」
「それは俺もそう思う。この町は候補地の一つと考えても良いと思うな」
今までの中では一番良い。
まあ、ポード王都とランスのレムしか行ってないけど。
「レスターさん、最終的にはいつ頃、決められるんですか?」
ウェンディは聞いてくる。
「もちろん、金が貯まったらになるが、それでも主要な国は回ってみようかなと思っている。この機会を逃したら次は老後だろ? せっかく国を出たし、世界を見て回りたいなと思っている」
店を開いたら簡単に店を空けるわけにいかないし。
「本当に新婚旅行ですね」
「そう思ってくれていい。各地を回りつつ、こうやって金を貯めるんだ。せっかくだから楽しんでくれ」
イラドのことがあるから当分は1つの町に留まらない方が良い気もするしな。
「美味しいご飯を食べたいですね」
「そうしろ」
「先輩、今後ですけど、どうします? 王都に行くんですよね?」
エルシィが聞いてくる。
「そうだな……仕事が終わったら列車に乗って南の方にでも行くか」
「ゲイツですか?」
この国の南はゲイツだ。
「そこはスルーでさらに南だな。ターリーに行こうぜ」
列車だとかなり時間がかかるが、それでも飛空艇よりかは遥かに安い。
「おー、海ですね」
「良いと思います」
2人も賛成のようだ。
「本当はもうちょっとこの国を見たいが、ちょっと目立ちそうだし、離れよう」
錬金術師が少ないせいで起きているポーションの高騰問題がある。
儲けのチャンスだし、活用はするが、撤退の時期を見誤るつもりはない。
「それもそうですね。じゃあ、パッパッと作ってしまってお金をゲットしましょう」
「ああ。頼むわ」
俺達はその後もポーションを作り続けていった。
そして、夕方になったので1階で夕食を食べると、部屋に戻って作業をやめ、ゆっくりと過ごしていく。
すると、ノックの音が部屋に響いた。
『お客さーん、イレナちゃんが来てるけど、どうするー?』
女将さんの声だ。
「イレナか……」
「ポーションの話でしょうね」
それしかないわな。
「通してくれー」
『わかったー。ちょっと待ってね』
何だろうと思いながら待っていると、ノックの音が聞こえてくる。
「入っていいぞ」
そう答えると、扉が開き、イレナが部屋に入ってきた。
「こんばんは。夜にごめんね」
「そこまで遅い時間じゃないし、それは構わんが……どうした?」
「うん。実はね、私の方はあれから王都の方に行ってきたのよ」
また行ったのか。
「昨日の今日でか? そんなに店を空けていいものか?」
「もちろん、店番は親に頼んだよ。それよりもポーションを卸す先を決めないといけないからね。ウチの店の規模では捌けないし」
まあ、そうだろうな。
「それで決めてきたのか?」
「ええ。候補は2つ。クムーラ商会とラック商会ってところ。両方共、ウチの国では大手よ」
当たり前だが、知らんな。
「その2つを天秤にかけるわけか?」
「そういうこと。アポは取ってきたから明後日、王都に行って話を聞いてみる感じね。それでラック商会の方がキュアポーションはないかって聞かれたんだけど、どう?」
キュアポーションねー……
「作れるは作れるが材料がいるぞ。キュアポーションはエトナ草っていう草がいる。用意できるなら作れるぞ」
「エトナ草ねー……どうだろ?」
ちょっと特殊な草だからな。
ポーションの材料のその辺に生えているような薬草とは違う。
「まあ、付き添うわけだからその辺の話を聞いてやるよ。そういうことをするために技術者が付き添うわけだし」
営業をするのがイレナの仕事であり、具体的な説明をするのが俺達だ。
「じゃあ、悪いけど、お願い。私はあまり詳しくないんだよね」
そうだろうな。
錬金術師が少ない国の田舎の個人商店はそんなものだろう。
「わかった。言っていた通り、明後日の朝には持っていくから一緒に王都に行こう。交通費は出せよ」
「わかっているわよ。ちゃんと宿代も出すから。じゃあ、明後日にお願い。夫婦の夜に邪魔して悪かったわね。おやすみなさい」
あー、だから謝ってきたのか。
「おやすみ」
「おやすみなさーい」
「良い夜をー」
イレナはようやくウェンディにも慣れたようで笑顔で手を振ると、部屋から出ていった。
「キュアポーションも追加ってところですかね? どうします?」
エルシィが聞いてくる。
「数次第だな。2泊もするつもりはないし、1日で作れない量なら断ろう」
「それもそうですね。正直、腕を見て、雇いたいという思惑なような気がします」
多分、そうだろう。
まあ、無視でいいな。
「あのー、レスターさん、ちょっといいですか?」
今度はウェンディが聞いてくる。
「何だ?」
「クムーラ商会とラック商会に卸すって話ですけど、レスターさん達が卸せばいいんじゃないですか? そっちの方が儲かるような気がします」
そうだな。
儲かるな。
「余所者の俺達にはその伝手がないんだよ。クムーラ商会とラック商会もイレナが見つけてきた取引先だ。あいつは仲介人としてマージンを取って儲ける形だな」
実際は中抜きだけど、それが商売だ。
大儲けはできないが、確実に儲けが出る良い方法である。
「そんなものですか……」
「そんなものだ。極論を言えば俺達がポーションを欲している人に直接売るのが一番儲かる。しかし、そんな手間がかかることはしないし、できない。それは商人の領分だし、そこに足を踏み入れるのはトラブルの元だ」
そういう面倒なことを引き受けてくれるのがイレナであり、イレナの儲けはその面倒なことを行う代金だ。
「なるほどー。将来、アトリエを開くっていうことはそういうこともしないといけないんですね」
「そうなるな。まあ、商人になるつもりはないからどこかの商会と契約する形になると思うが、どうせ同席するんだから色々とイレナに教えてもらおうじゃないか」
良い機会だと思おう。
「レスターさんは先のことまで考えておられますね。ゴブリンを前にした時は情けないなって思いましたが、本当に優秀な方です」
人には向き不向きがあるんだよ。
「先輩は先見の明があるからね」
「なるほど。だからエルシィさんをナンパしたわけですか」
「きっとそうだね」
エルシィがドヤ顔で頷いている。
「よっ、優良物件」
お前ら、楽しそうだな。
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