第031話 依頼
「それでお前や王都の薬屋の店員が目の色を変えたのか」
「まあ……だって、あなた達、明らかにどこぞのエリート錬金術師でしょ。魔力もすごいし、新婚旅行であちこちを回っているって相当儲けていないとできないわよ」
いやー、そうでもないんだなー、これが。
「エリートかどうかは置いておいても実力があるのは確かだな。そういう自負もあるし、エルシィだって立派なものだ」
「教えてくれる人が良かったんですよー」
そうかね?
「またイチャイチャ……多分、このやり取りを一生やっていくんだろうなー」
うっせ。
「え? あ、お弟子さんを奥さんにしたんだ。あなた、やるわね……」
違うんだが……
いや、否定しても説明が難しいから乗っておくか。
「まあ、そんな感じだ。そういうわけで俺もエルシィもあの程度のポーションならすぐに作れる」
「あの程度って……Bランクだったわよね?」
Bランクって言ってもたかがポーションだろ。
「それくらいの錬金術師だということだ」
「ほー……そりゃすごいわ」
すごいのだ。
「それで仕事というのはポーションの納品でいいか?」
「ええ。まさしくそれ。今、ポーションが極端に品薄状態になっていて、高騰している。しかも、私はここで止まらないと思っている。もっと高騰するし、金持ち達の奪い合いが起きると思っているわ」
そうかもな。
ポーションは必需品といってもいいレベルで浸透しているものだ。
現状のこの国の供給量に対し、需要があまりにも大きすぎる。
「アドバイスしてやるが、あまり欲をかくなよ」
「わかっている。この高騰はいずれ収まる。ウチの王家だってそこまでバカじゃないし、今、必死に動いているはずよ。そして、ゲイツだって争いを大きくしたくないからどこかで輸出を再開するはず。その時までが勝負なのよ」
バブルみたいなものだな。
弾けるまでにどれだけ儲けるか。
今、この国の商人は皆、それを狙っているのだろう。
「時期を見誤って大損をこくなよ」
こいつはわかっているのだろうか?
自分が考えることは他の商人も考えているっていうことを。
「大丈夫。それでポーションを作ってほしいんだけど、どうかな?」
「作るのは構わない。どのランクのものをいつまでにどれだけの数が必要なのかを教えてくれ」
まあ、俺達はこの国の事情もイレナの欲望も関係ない。
技術屋は客が求めるものを作って納品するだけだ。
「ごめん。あなた達の実力が私の想定を超えているからわからない。逆にどの程度ができるの?」
それもそうか。
「材料は提供してくれるか?」
「水と容器なら……薬草は今、ウチの店には20枚ぐらいしかない。採りに行くか、冒険者に頼まないと数を用意できない」
冒険者に薬草の採取は良くないな。
専門家が採取、保存をしないと質が下がる。
「残りの薬草は俺達で採取するか?」
エルシィに聞く。
「良いと思いますよ。どちらにせよ、ウェンディちゃんのレッスンがありますし」
魔法を教えてくれるってやつね。
そうなると、材料はどうにかなるな……
「作業時間を今日採取で明日作製と考えると……イレナ、ハイポーションはいらんよな?」
「ええ。逆にそこまでいくと買い手の問題が出てくる。医療従事者や貴族連中になると思うけど、私にはその伝手がない。普通のポーションでお願い」
となると、俺とエルシィの二馬力だから……
「明後日の朝にCランクなら200、Bランクなら100ってところだな。Aランクなら80だ」
「私、詳しくないんだけど、そんな短時間で納品できるものなの? というか、Aランクって……」
正直、AランクもBランクも手間はたいして変わらない。
消費魔力のことがあるから若干、数が少なくなるだけだ。
「他国のエリートって思っておけ」
「イラドかゲイツか……まあいっか。私には関係ないわ」
その2つだったら状況を鑑みればゲイツなわけがないし、一択だぞ。
「そうそう。俺達はただの旅行者だ」
「新婚旅行でーす」
エルシィが腕を組んでくる。
「アピールの強い奥さんね……えーっと、Cランクを80個、Bランクを60個、Aランクを10個、お願いできる?」
合計で150個ね。
「いいぞ。問題は料金だ。王都の店ではBランクを1万ゼルで買い取ったぞ」
「そうね……Cランクを1万ゼル、Bランクを1万5000ゼル、Aランクを3万ゼルで買い取るわ……合計で200万ゼルね」
良い値段だ。
俺達が逃亡のために使った飛空艇代がほぼ返ってくると思っていい。
「払えるか?」
「もちろん。それくらいの蓄えはあるわよ」
店を経営しているくらいだもんな。
しかし、この店の規模なら失敗したら大ダメージを受ける金額でもある。
「わかった。明後日までに用意しよう。俺達はこれから薬草を採取するが、容器の方の用意を頼む」
「ええ。今日も【風の住処】に泊まる?」
「そのつもりだ」
すでに連泊することは頼んである。
「じゃあ、薬草20枚と一緒にそっちに運んでおくから女将さんに頼んで部屋に置いておいてもらうね」
それは楽で良いな。
「頼む」
「じゃあ、明後日の朝に納品してちょうだい。そこから王都に向かうから」
「俺達もついていった方が良いか?」
説明のために技術屋がついていくことはよくあることだ。
「できたらお願いしたいかな。でも、ゆっくりするって言ってたし、無理は言わないわよ?」
「今日明日とゆっくりするつもりだ。ポーションなんて片手間で作れるんだよ」
王都でエルシィが作っていたようにおしゃべりをしながらでも作れる。
「すごいね……」
「そうでもない。ポーションなんて目をつぶっても作れる基礎中の基礎だ」
それが不足しているというこの国の状態が異常なんだ。
「そっか。多分、このチャンスはもうないかもね」
「だろうな。王家もさすがにこんなことが起きたら錬金術師育成に力を入れだすだろうからな」
職人連中が何を言ってももう聞かないだろう。
もし、今、戦争が起きたり、流行り病が起きたらとんでもないことになってしまう。
「よし、この唯一のチャンスを逃がさないわ。お願いね」
「ああ。薬草はどこで採れる?」
「【風の住処】がある通りをまっすぐ行けば西門がある。そこから森が見えると思うけど、その森ならいくらでも採れるよ。でも、奥には行かないでね。普通に魔物や獣が出るから。あれだったら冒険者ギルドで護衛を頼むと良いわよ。西門近くにあるから」
冒険者か……
「わかった。じゃあ、行ってくる」
俺達は店を出ると、来た道を引き返し、西門の方に向かった。
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