第030話 ポードの事情
翌日、ちょっと遅めに起きた俺達は朝食を食べ、チェックアウトする。
その際に今日も泊まることを告げた。
すぐには出ないし、良い宿だったので同じところに泊まろうと思ったのだ。
「さて、イレナのところに行くか」
「そうですね」
「行きましょう」
俺達は宿屋を出ると、イレナの店を目指す。
広場を抜け、さらに歩いていくと、周りには冒険者風の男が多く見えた。
「冒険者ですかね?」
「だと思う。昨日は見なかったが……」
冒険者は魔物を倒したり、俺達が使う材料なんかを採取してくれるギルドに所属する傭兵兼何でも屋だ。
昔は多くいたのだが、ここ数十年で飛空艇や列車があちこちに整備されると、護衛や魔物討伐の仕事なんかが少なくなり、数がめっきり減ったと聞いている。
「この辺ではまだ活躍されているのかもしれませんね。私がいた村でも何人かはいましたし」
エルシィはイラド王都の出身ではなく、近くにある農村の生まれだ。
そこで10歳くらいまで過ごしていたのだが、両親が亡くなり、王都の孤児院に引き取られてそこで育ったと聞いている。
「そうか……減ったのは王都とかの大きい町の話か」
この辺りは列車が通っているものの、便も少ないだろうし、まだまだ発展途上なんだ。
「だと思いますね。まだ馬車を使ったりする人の方が多いと思いますし、町や村を襲う魔物もいるんじゃないですかね? 私がいた農村も畑を荒らす獣や魔物が後を絶ちませんでしたし」
なるほどな。
「そういう仕事をします?」
ウェンディが聞いてくる。
「するわけないだろ。俺が魔物と戦えるように見えるか?」
「かなりの魔力を持っていますし、普通にそう見えますけど……あ、魔法が使えないんでしたね。でも、大丈夫。御二人ならすぐに魔法を覚えますし、そっちでも大成しますよ」
したくないな。
「虫が出てもエルシィの背中に隠れる俺が魔物なんかと戦えるわけがないだろ」
怖いわ。
日本にはそんなもんいなかったし。
「なんでそんなに偉そうに恥を言えるんですか……」
偉そうか?
「でもまあ、魔法は教えてくれ。身を守る術はいくらあってもいいし、単純に使ってみたい」
「私も、私もー」
エルシィも手を上げる。
「お任せください」
俺達は魔法のことを話しながら歩いていき、イレナの店にやってきた。
そして、店の中に入ると、受付にいるイレナのところに向かう。
「いらっしゃーい。宿はどうだった?」
イレナが笑顔で聞いてくる。
「良かったぞ」
「部屋も綺麗でしたし、ゆっくり休めましたよー」
「ご飯も美味しかったです」
うん、どれも良かった。
「そう? なら良かったわ。それでお仕事の話をしたいんだけど、いいかな?」
イレナが早速、本題に入る。
「ああ。聞きたい」
「まあ、ポーションを作ってほしいのよ。2人は錬金術師なんでしょ?」
やはりポーションか。
「ああ。ポーションなんか簡単に作れる。でも、その前にちょっと教えてほしいんだが、なんでポーションがあんなに高価なんだ? この店でも1万2000ゼルで売ってるだろ。俺達の国ではその半分以下だぞ」
3000ゼルだからさらに半分だが、そこまでは言わなくてもいい。
「理由は2つあるのよ。1つはこの国が錬金術師育成に力を入れていないことね」
「錬金術師をか? 俺達がそうだから言うわけじゃないが、錬金術師は国を支える重要な職業だろう」
錬金術師はポーションなんかの薬も作るし、昨日作ったような日用品を作る。
さらには飛空艇だって、列車だって錬金術師の手が入っている。
もちろん、専門の技術屋もいるが、それでも錬金術師はありとあらゆる業界に関わっており、大事な職業だ。
だからこそ、あの貴族絶対のイラドでも俺達孤児を魔法学校に入れてくれたし、宮廷錬金術師として活躍させているのだ。
「ウチは歴史的に伝統工芸なんかの職人や大工が強いのよ。そういうギルドもあって国的にも無視できない。だからこそ、錬金術師に力を入れにくいの」
あー、そういうことか。
あいつらが時間をかけて一生懸命作るものを一瞬で錬成してしまうのが俺達だからな。
実際、イラドでもそういう職人連中が職を奪われるって声を上げており、俺達は嫌われていたのだ。
「それでも錬金術師がいないと大変だろ」
「まあね。だからウチの国はそういうのを輸入に頼っていたの。具体的にはゲイツからの輸入。あそこはウチとは逆に錬金術師育成に力を入れているからね」
俺の認識ではゲイツとイラドが錬金術業界の二大巨頭だ。
この両国は昔から仲が悪いし、今でも争っている。
その争いの鍵を握るのが錬金術の発展である。
錬金術は日用品だけでなく、列車や飛空艇を作る……すなわち、兵器なんかも作れるのだ。
「その輸入に何かあったのか?」
「ええ。それがもう1つの理由。数ヶ月前にウチの王家がランス王家に親善の使者を送ったのよ。これがマズかった」
バカかな?
「親善って……なんでそんなものを送ったんだ?」
「ウチは今年、小麦があまり採れなかったの。逆にランスは豊作だったからその輸入を頼りたかったわけね。実際、これは上手くいった」
小麦が採れないのがきついのはわかるが……
「でも、ゲイツが遺憾の意を出したわけか?」
「そういうことね」
ハァ……
「レスターさん、どういうことですか?」
ウェンディが聞いてくる。
ウェンディは天使だし、国の関係について詳しくないんだろう。
「ランス王国はイラド王国と同盟しており、完全にイラド側の国なんだ。そして、イラドとゲイツは敵対している。ゲイツから見たらこの国は間接的にイラド側に近づいたように見えるんだよ」
「でも、実際は違うんですよね?」
違うだろうな。
この国はそこまで重くなるとは思っていなかったんだ。
平和そうな国だし。
「多分な。でも、ゲイツはそう捉えない。何故ならランスもこの国もゲイツに面している。ゲイツからしたらイラド側の国に囲まれた形になるからたまったものじゃない。だからゲイツは遺憾の意と共に制裁としてこの国が輸入に頼っている物資の輸出を制限したんだろうな」
それがポーション。
「そういうことね。それでポーションがとんでもなく高騰している。少ないとはいえ、ウチにも錬金術師はいるんだけど、完全にキャパオーバーなのよ」
そうだろうなー……
どんなに優秀な錬金術師がいようと国全体をカバーできる量を作れないだろう。
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