第028話 ごゆっくりとお過ごしください
俺達はイレナの店までやってくると中に入る。
店は古臭さがあったが、木材を利用した温かい雰囲気があった。
「いらっしゃーい……あれ?」
店の奥の受付にいるイレナが顔を上げたのだが、俺達を見て、首を傾げる。
「よう。午前中ぶりだな」
「うん……もう来たの?」
昼前に話をし、夕方には来たから驚くわな。
「王都を見終わったところで移動を考えていたところだったんだよ。それで話を聞いて、そんなに遠いわけでもなかったから来てみたんだ」
「穏やかで良い町ですねー」
「そう言ってもらえると嬉しいわ。どれくらい滞在するかはわからないけど、せっかくだからゆっくりしていってよ。自然豊かだからご飯も美味しいのよ?」
それは良いことを聞いたな。
食いしん坊な人形はもちろんだが、メシマズ国家出身の俺とエルシィは食にハマっていてるところなんだ。
「そうさせてもらう。それと喫茶店で言っていた仕事の話も聞きたくてな。でも、今日はこんな時間だし、明日にしたいんだが、そっちの予定はどうだ?」
さすがにもう夕方の4時半だし、これから話を聞いていたら夜になってしまう。
「私はいつでも大丈夫。明日も明後日もずっとこの店にいるしね。適当な時間に来てちょうだい」
「そうするわ。それにしてもここはお前一人でやっているのか?」
「ええ。父と母がやっていたんだけど、引退しちゃってね。2人共、この町にはいるんだけど、畑を耕している」
イレナは若いように見えるんだが……
「えっと、すまん。イレナは何歳なんだ?」
「私? 22歳」
俺達より年下か。
しかし、そうなると、両親の引退が早すぎないか?
「……聞いていいものか?」
エルシィに小声で聞く。
「……やめた方が良いんじゃないですかね」
そうするか。
なんか複雑そうだし。
「あー、別に気にしなくていいよ。本当にたいした話じゃないから。この店は私の祖父が始めたんだけど、両親は店の経営にあまり興味がなくてね。本当は農業をやりたかったの。一方で私は商人になりたかった。だから両親が早めに引退して私が3代目になったってだけ」
そういうことか。
「しかし、1人だと大変じゃないか?」
「まあ、大変だけど楽しいからね。それに一応は両親も手伝ってくれるよ。さっさと旦那を見つけろって口うるさいけど」
まあ、そこはな。
親ならば仕方がないだろう。
「22歳という若さで一国一城の主なのはすごいね。雰囲気のある良い店だし」
エルシィが褒める。
「ありがと。私も気に入っているんだよ。子供の頃からお爺ちゃんとこの店が好きでね。だから商人になりかたったし、勉強してきた。まだまだだけど、これからも頑張ろうと思っている。王都に行っていたのはそのための市場調査だね」
だから薬屋にいたんだな。
この店は生活用品なんかも売っているが、ポーションを始めとする薬品も売っている。
「その辺のことも聞きたいが、明日にしよう。イレナ、良い宿屋を紹介してくれないか? 着いたばかりだし、全然わからん」
宿屋がどこにあるのかもわからない。
「あ、そうだね。えーっと、【風の住処】がいいかな? 値段はそこまでだし、でも、落ち着いた良い部屋だよ。あと、料理が美味しいって評判だね」
良さそうだな。
「場所は?」
「ここを出て、右にまっすぐ行けば町の中央の広場があるわ。そこから左……西の方ね。その通りをちょっと行けば【風の住処】があるわね。看板があるからわかりやすいと思う。その辺りは飲食店も多いし、色々と食べてみると良いわ」
ふむふむ。
飲食店が多いのは良さそうだな。
「そこに行ってみるか?」
エルシィとエルシィが抱えているウェンディに聞く。
「良いと思います」
「楽しみです」
「……人形がしゃべった」
イレナはまだウェンディに驚いているようだ。
「使い魔だよ。じゃあ、今日はそこに泊まるとしよう」
「列車で疲れただろうし、ゆっくり休んでよ」
「……ゆっくり?」
エルシィの腕の中にいるウェンディが見上げる。
「大人をからかわないの」
また女子2人がなんか話してる。
「イレナ、鉄鉱石や銀、あと珪砂はないか?」
「あるよ。でも、数がいるんなら取り寄せになるわね」
この規模の店ならそうだろうな。
「数はいらん。1つでいいんだ」
「じゃあ、鉄鉱石はあっちの木箱に入っているから好きなのを選びなよ。他にも色々と売っているからせっかくだから見ていって」
イレナが左奥の方を指差した。
「そうするわ」
俺達は店の商品を軽く見て回ると、左奥にある木箱から鉄鉱石を選んでいく。
「これが良いんじゃないですか?」
エルシィが1つの鉄鉱石を取り出した。
この中ではかなり上質な鉄鉱石に見える。
「良いな。お前も成長したもんだ」
ちゃんと良い素材を選べている。
「教えてくれた先生が良かったんですよー」
そうか?
「いちゃいちゃ……」
ウェンディ、うっさい。
「あとは銀と木材、珪砂だな」
「あ、さっきあっちにありましたよ」
俺達は銀と木材、さらには珪砂も選ぶと、受付のイレナのところに持っていき、精算をする。
「何か作るの?」
「まあな。俺達は錬金術師だし」
「それもそうだね。錬金術師を見ないからねー……」
ふーん……
「じゃあ、また明日な」
「ええ。よろしく」
俺達はイレナの店をあとにすると、右の方に歩いていき、宿屋を目指す。
「錬金術師を見ないんだってな」
「そんなことあります?」
「うーん……外国のことはわからん」
どういうことだ?
「まあ、そうですね。ポーションを見ました?」
「見た。1万2000ゼルだったな」
王都よりも2000ゼル高い。
「そういうことなんでしょうね」
「だろうな。まあ、明日、聞いてみようじゃないか」
仕事の話も想像が付くし、その辺りのことも聞けるだろう。
「そうしましょう。今日はゆっくりですね」
「……ゆっくり」
「ウェンディちゃん、下世話な天使だよね」
「御自分で言いだしたことじゃないですか」
どうでもいいけど、ゆっくりを隠語のように使うな。
使いづらくなるだろ。
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